席題19「気の毒」秀吟40句(出句順)柳歩選
 

気の毒を待ち侘びている募金箱              伴久
全紙面気の毒だけで埋めてある
気の毒に優越感が込めてある

天気予報はずれ弁当売れ残る              のりこ 

こんなおいしいものが苦手というお人           久美子 
産むことも公務のうちという立場

午後3時やっとお昼のお医者さん             のりこ
少ない髪やりくりしてる床屋さん

ゴルフコンペプレー中だけ雨が降る             吉一
ぽっと出に芥川賞攫われる
引き止めもなく退職の生き字引

初雪に見とれどぶ板踏み外す               たかこ 
ちょっとだけ美人なだけでつまはじき

忙しいお方に次の金庫番                             元金庫番

噂聞き探し当てれば定休日                   修
退院をしたと思えぬ空ベッド

豊作貧乏野菜も人も泣いている                        のりこ

バンソコウの大臣として名を残す               吉一
結婚詐欺に遭ったことなど話せない

ひとりだけ不合格だという結果               久美子
目的がすめば刺客は捨てられる
気の毒とも自業自得だとも思う

近いのに道路工事で大回り                           のりこ
造花ではないのに水を忘れられ
気の毒がるだけで何にもしてくれぬ

寝過ごしたスッピン顔を見せられる                  たかこ
義理チョコのひとつももらえない夫     

小説で暴露されてる私生活                久美子
お気の毒ですがと医師が目をそらす

気の毒な国にしたのは誰なんだ               良夫

お目当ての美人女将が出てこない                   のりこ
船酔いでずっと寝ていた島巡り

赤福を前に我慢の血糖値                                星児

結果から見ればアッシーだった彼               吉一
風邪気味で箱根駅伝降ろされる
評論家の予想に反しホームラン

怒ってる訳が相手に伝わらぬ                    たかこ
よそさまの孫の写真を見せられる

執拗に質問される通報者                      星児
ストーブの灯油が切れた雪の夜

人生かな割り勘負けを繰り返す                  (軸)

柳歩作品(久美子選)

お神籤のとおり交通事故に遭う
年明けに解雇通知を渡される
フサフサのとなりで写ることになる
気の毒な人だ百まで生きている
気の毒な顔を鏡で確かめる
可哀相だからお世辞もすこし言う
愛妻も愛車も愛されていない
パートまで深くお詫びをする偽装
多事多難もう気の毒を通り越す
気の毒な形に松は曲げられる