目次12月号
巻頭言  「 名前 」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり

特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・没句転生
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩            大野たけお
たかこ

清水信
橋倉久美子
柳歩

柳歩









 

巻頭言
名 前

森鴎外は五人の子どもにとてもユニークな名前をつけた。若い頃ドイツに留学もしていた医者でもある鴎外らしい命名だとされて有名である。
 その名前は、上から「於莵」「茉莉」「不律」「杏奴」「類」という。それぞれ洋風に読むと「オットー」「マリー」「フリッツ」「アンヌ」「ルイ」となる。

 川柳の雅名にも覚えやすい独特な名前がある。「なんの菅野」さんとか「かわたやつで」さんがそうである。本名のままの人が圧倒的に多いのだが、私のように姓はそのままで名前だけ仮名にする人も多い。

 真親、成規、英規、これは私の三人の息子たちの名前だが、大人になった彼らが最近名前を話題にした。長男「まさちか」は高校の入学式の日、「まきちゃん」と呼ばれ女の子と間違われたそうだ。次男「なるちか」は三男の「ひでき」の呼びやすい名前がうらやましかったと言い、また三男は『僕も「ひでちか」か「ひでより」がよかった』と言う。 姓も読みにくい上に名前もまともに読まれなかったことを、三人ともとがめなかったのは少しほっとする話ではある。

 名前でだいたい年代がわかるし、周期的に繰り返されるものである。今九十歳前後の女性には「○○子」はあまりいないし、平成以後生まれる赤ちゃんにも「○○子」ちゃんは少ない。近頃の新生児の名前は男女とも複雑な漢字を使ったものが多くて、その読み方はとても洋風である。ちょうど鴎外の子どものように。
 

 今年もあとわずか、どうぞよいお年をお迎えください。

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
人生の節目節目にある出合い 疋田真也
ジャズを聴くちょっと陽気になりたくて 山本喜禄
目標は高めに立てる2007 山本鈴花
雑念といたちごっこの日が暮れる 沢越建志
コンビニの肉まん買って寒くなる 青砥英規
文明の利器へ反発して生きる 鍋島香雪
他人事のように聞こえる好景気 岩田眞知子
サッカーの子連れ入場あれ何よ 上田徳三
〇円と言ったが矢張り裏がある 山本 宏 
先に逝き良い席予約しといてな 鈴木章照
麻酔から醒めれば夫いる安堵 竹内そのみ
丸洗い出来ぬ互いの胸の傷 木村彦二
廃屋に少女の頃の宝物 鶴田美恵子
生きてればコツンと当たる辛いこと 寺前みつる
ここでひょいとさよならもよし日向ぼこ 堤 伴久
恋の答はひとつで足りる君が好き 水谷一舟
やる事はやったんだから一休み 井垣和子
歯車を上手に合わす嫁姑 内山サカ枝
茶柱を無理に立ててもすぐに寝る 吉住あきお
やがて妻が喪中ハガキを書くだろう 坂倉広美
逃がさないように早めに閉めるドア 橋倉久美子
向かい合うより横に座って欲しい人 北田のりこ
落ちのない話で笑い合える友 高橋まゆみ
百均で間に合ってます家の中 東海あっこ
描きやすい猪にする年賀状 鈴木裕子
心地よいポストにしがみ付く枯葉 小嶋征次
よき時代よく飲んでたと通夜の席 加藤吉一
傘寿までもう一息の喜寿の坂 小林いさを
秋の種拾い集めて散歩道 竹内由起子
隠しごとあってまともに見れぬ妻 水野 二
私でもブーツ履いてもよいかしら 安田聡子
珍品の味に熱燗舌鼓 瓜生晴男
健康書ばかり目が行く本屋さん 長谷川健一
本心を書いては消したラブレター 上田良夫
まだとれぬ母が残したしつけ糸 羽賀一歩
本人は憶えていないエピソード 吉崎柳歩
絵ごころのある落書きに目がとまる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」
154号から                                                         大野たけお
          

喋りすぎて結びの言葉考える     坂倉 広美
 
「この句どうですか、たけおさん」と名指しされ「あのう…これはですね、つまり」などと。自信がないから思いつくままあれもこれも喋る。喋りながらどう結ぶかをあせっている、そして余計なことまで口走る私。

もしかしてあの句わたしのことかしら 鍋島 香雪
 
見たり聞いたりした瞬間、いろいろそんな人間と共感する句があるよね。そして夜ベッドで、そういえば先日句主とこんなやりとりがあったな。ひょっとするといや絶対私へのあてつけの句だ。ああ今夜も不眠症。

夕陽が好き八頭身にしてくれる    井垣 和子
 
時々八頭身美人の影が私の足元近くまで伸びてきて、掴めそうだ。夕陽大好きです。

ふるさとの空気はサプリメントだね  青砥 英規
 
四十数年振りに立った故郷の校庭。山も石垣も空気も昔と同じだ。英規さんはいいな、いつもサプリメントの空気が吸えて。きっと空気入りカプセルがいっぱいふるさとから届くのでしょうね。

安いからバナナばかりを買って来る  木村 彦二
 
我が家もバナナ党。二人の子供が小さい時から、果物の好き嫌いが激しく揃って食べるのはバナナだけ。それが今もと思っていたが。そうか安いからだったんだ。川柳って勉強になります。

花も実も手入れ次第で付くだろう   上田 良夫
 
一坪の菜園でピーマンだけはほったらかしでも毎年豊作だった。今年も片隅で青々と成長、ところが大異変。花も実もなく収穫ゼロ。手入れいや心入れのないピーマンの怒りに触れてしまいました。

彼岸花なんやかんやをつい思う    寺前みつる
 
昭和二十年秋。住む家を失った一家は汽車を乗り継ぎ、田舎道を歩き親戚の寺を目指した。五歳のたけおにも沿道の赤い花は眼に痛いものでした。

輪唱をしたこともある姉弟      吉崎 柳歩
 
夏に姉から抗癌剤の副作用で随分弱っているとの知らせ。小さい頃から不出来の弟をいつも庇ってくれた姉。そうだ今晩電話しよう、長崎にだって行かねば。この句に感謝。

                                                   (せんりゅうくらぶ翔・亀山市在住)

 
11月25日(土)例会より
宿題「ぽっかり 」 青砥たかこ選
  紙ヒコウキがぽっかり浮いた月に着き 坂倉広美
  看病も生活だった開いた穴 加藤吉一
 止 失恋の穴をケーキで埋めている 吉崎柳歩
 軸 ぽっかりと忘れた頃に浮いてくる 青砥たかこ
宿題「押す」 北田のりこ選
  故障だろう暴走族が押すバイク 加藤吉一
  強引に屋根に押し上げ下で指示 上田良夫
 止 押すか押されるか老後の車椅子 吉崎柳歩
 軸 押しても押しても手応えのないあなた 北田のりこ
宿題「押す」 橋倉久美子選
  札束で押すと裏門あけてくれ 水谷一舟
  故障だろう暴走族が押すバイク 加藤吉一
 止 手土産が良いとブザーも押しやすい 小嶋征次
 軸 掌で押してはならぬ満員車 橋倉久美子
席題「創る」 清記互選 高点句
 8 創刊号だけで終わったエネルギー 吉崎柳歩
 7  苦心作だったと思うイブアダム 青砥たかこ
 6  創始者は祖父だと思う竹とんぼ 村山 了
  創立の蔭に内助の功が生き 井垣和子
 
特別室
ぼけせん

 『月刊現代』には「山藤章二のぼけせん町内会」という二ページ大の投稿欄がある。11月号では、連載135回に達しているので、11年余り続いていることになる。投稿された川柳を、似顔絵画家でありエッセイストでもある山藤章二が選をしているのだ。この号の大きな特集の三本柱は、

(1)安倍政権の批判。

(2)悠仁親王誕生と皇室の未来。}

(3)ソニーは復活できるのか。

であって、その他にも「ああ、至福の時代小説」という読物があって、この目次だけ見ても、定年後のジジイ向けの雑誌ということが分かる。でも入選句の区分けが面白くて、いつも楽しんで読んでいる。
 区分けは次の通りで、順次昇格していく。

イ、新入り(入選一回目)
ロ、月番 (入選三回目)
ハ、肝入り(入選五回目)
ニ、半額 (入選八回目)
ホ、顔役 (入選十回目)
ヘ、大顔 (入選二十四回目)
ト、(卒業)

 以下、作者名を除いて、どんな位のものかを紹介する。

(新入り)
・コスプレのブースにはまる健康爺

(月番)
・夫婦仲すれちがうのがうまいコツ

(肝入り)
・思い出した時には話題が変ってる

(半額)
・変なのは俺かそれとも世の中か

(顔役)
・夏痩せをせぬまま秋がやってくる

(大顔)
・病院へ行くと症状かるくなり

 以上、女性は「夫婦仲」の一人のみ。選句のあとに山藤が短評を書くのだが、総評としては「大きなニュース」は暗くて、重くて、つらくて、到底「笑いには転化できない」から、身近かな話題、つまり「小ネタ」に挑戦するのが良いと書き、「本来の川柳という遊びの小文芸」の主流は「小ネタ」にあるのだと訓している。
 入選者には図書カードが贈られるという。案外女性は入選し易いのではないかと思う。

 川柳みどり会の『緑』増刊号『宇宙時間2005』(通巻523号)を戴いた。こちらは女性陣が優勢である。

東川和子
・みな詩人喜劇悲劇を繰り返す

 皆元気である。朝日中部川柳大会のトーク「川柳半世紀」の記録が、たいへん面白かった。



                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 濁す・濁る 』
12 効能がありそう白く濁った湯 吉崎柳歩
 9点 使わずにいるから少しずつ濁る 橋倉久美子
 8点   核心を衝かれて語尾を濁らせる 疋田真也 
 7点   よく回る舌が空気を濁らせる 沢越建志
    過去はまだ言いかねている恋半ば 山本喜禄