目次9月号
巻頭言 「 暑中見舞い葉書
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・没句転生
・インターネット句会
・ポストイン     
・お便り拝受
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩
梅崎流青
たかこ
清水信
橋倉久美子
柳歩

柳歩









 

巻頭言


暑中見舞い葉書

「カモメール」の愛称で親しまれている暑中見舞いはがきは、「夏のおたより郵便葉書」という正式名(?)がある。

今年もたくさんの方から暑中見舞い、残暑見舞いのお葉書を頂いた。ことのほか猛暑に、売れ行きもよかったのではないかと勝手に思う。私は毎年百枚は購入する。昨年は「マチエール」の粗品に使ったので千枚購入し、郵便局から表彰してもらったことは報告済みである。

 はがきは、端書、葉書とも書き、語源に葉の裏に字を書いたものをはがきと呼んだらしい。多羅葉という名の針葉樹の葉の長さは十センチを越し、それがはがきの元祖だ、という話を聞いた。

 TBS系のラジオ番組「七円の旅」は、文字通りはがきが七円の頃からずっと続いている。はがきに書かれたエッセイを、二人のパーソナリティが交代で読んでいく。毎週どれほどの応募があるかは知らないが、採用が決まると、○月○日に放送します。というはがきが来る。謝礼はない。読んでもらうこと自体が褒美なのだ。

 わが国の手紙文で、たぶん一番短いのは「平中物語」の中の手紙だろう。好きものの平中は、しょうこりもなく女に言い寄り、「この文を見たら色よい返事はくれなくてもよい、見たら見た、とだけでも返事が欲しい」と出す。女の返事は「見つ」の二文字だった。素っ気無いことこのうえないが、暑中見舞いのはがきはごてごて書き過ぎず涼しげなのがうれしい。(「見つ」とは古語辞典で「見た」のこととある)                  (1978年7月16日・朝日新聞天声人語より一部参照) 

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
あかんべえ鏡のボクも乗ってこぬ     堤 伴久
夏風邪で声変わりしたおばあちゃん 鍋島香雪
ひと夜咲き月下美人は恋の花     安田聡子
脳味噌が茹だり笑顔が作れない 岩田眞知子
現役のときから熱い解説者 上田徳三
猛暑でもゴルフとならば駆けつける 山本鈴花
温度計見たばっかりにそっと汗 山本 宏
世間体気にする程もない器 沢越建志
身の回りシンプルにして老い迎え 竹内そのみ
諦めているから続けられている 青砥英規
バス旅行たまにはいいね二人掛け 鶴田美恵子
テレビより役に立つのが電子辞書 鈴木章照
もみすりをおぼえた腕で秋を待つ 秋野信子
どの嘘も母を案じてからのこと 水谷一舟
親切な街だと分かる駅の傘 山本喜禄
エジソンの汗を熱帯夜に想う 坂倉広美
手抜き料理を高級にするいい豆腐 橋倉久美子
アルバムは美人に撮れた写真だけ 北田のりこ
来客の時だけ動く冷房機 鈴木裕子
長過ぎて話の趣旨が分からない 小嶋征次
夏の朝一日分の仕事する 竹内由起子
あの動き他人の老いはよく見える 加藤吉一
お盆だけ一升瓶で炊くご飯 長谷川健一
ちょっとした言葉すべてを泡にする 瓜生晴男
茶箪笥の暇な器があくびする 水野 二
目覚ましを止めて二度寝し大遅刻   上田良夫
逝くときは仰向け蝉も人間も 吉崎柳歩
気まぐれな九月と秋の話など 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


 163号から                                    梅崎流青

 豪雨、台風、地震。地球が悲鳴を上げている。これも地球温暖化が一因なら私たちにも出来ることがある。少しだけ生活をあの昭和に戻そう。

・引込み線まだ機関車は走りたい    沢越 建志
 
あの敗戦から見事な復興を見せた日本。それを支えたのは昭和の時代を走り続けた機関車であり団塊の世代といわれた人たち。定年を前にふと考える。

・夏野には命をつなぐものばかり    多村  遼
 あのじりじりと乾いた大地から生まれるものに茄子、トマト、ピーマン、そしてかぼちゃがある。色鮮やかなこれら夏野菜。あの戦時、命をつないだのはかぼちゃであり薯の蔓だったとは母のことば。

・くちなしの白さに噎せてたそがれる  堤  伴久
 
あの白さの気品はだれも冒すことはできない。馥郁とした香りもそうだ。これまでこの白さを前にしてたじろぐことは無かったが、いつしか噎せるようになったたそがれどき。

・ふるさとを歌ってクラス会終わる   竹内そのみ
 
感動を共有するということは文化の原点。「ふるさと」は誰でもどこでも涙腺を刺激する。肩組み合うクラス会なればなおさら。

・人が死にやっぱり食べる晩ご飯    秋野 信子
 
人間が人間である証拠は人の死を前にしても空腹を満たすことを優先することだ。この行為は最も大切なことだと体が教える。これは決して薄情なことでも恥ずかしいことでもない。これからも生き抜かなければならない人間の知恵なのだ。

・悲しい日に降るから雨に気をゆるす  水谷 一舟
 
かなしみが深ければ深いほど何事も受け入れてしまう。過去を洗い流す雨ならばなおさらだ。この雨が上がればもうかなしさ半分。

・花菖蒲園で殺気が消えてゆく     坂倉 広美
 
花菖蒲の青はかすかな風を掴んで揺れている。この泡だった心に染みる花の青。この青にしばらく心委ねよう。

・雑巾も僕もとことん擦り切れる    吉崎 柳歩
 
新しい雑巾よりも擦り切れた、またはその寸前のものがはるかに雑巾としての役目を果すことを知っている。浴衣からおむつ、そしてぞうきんとして活用、とは昭和を生き抜いてきた人たちの文化。擦り切れた「僕」も二合の焼酎さえあれば再び復活。

・手の平を返すと明日が見えてくる   青砥たかこ
 
明日へ続く道は一本ではない。新しい明日が見たければ常識を疑ってみよう。手の平を返してみることもそのひとつ。        

                                        (川柳葦群編集長
    

7月28日(日)例会より
宿題「 長い 」 吉崎柳歩選と評
  長い目で見ても出世に遠くいる 水谷一舟
  顔の長さは親族に違いない 東川和子
 止 長いのでちょっと結んでおきました 橋倉久美子
 軸 寝たきりで長寿記録を塗り替える 吉崎柳歩
宿題「 裸 」 鈴木裕子選
  芸術で見る裸婦像は美しい 水谷一舟
  仕舞風呂女裸で明日の彩 村山 了
 止 最後には棒一本になる裸 東川和子
 軸 赤ちゃんの裸怖くて抱けません 鈴木裕子
宿題「 裸 」 東川和子選
  裸だとわざわざばらす電話口 青砥たかこ
  赤ちゃんの裸怖くて抱けません 鈴木裕子
 止 ふくよかになったわねえと言う裸 鍋島香雪
最後には棒一本になる裸 東川和子
席題「 負ける 」 互選高点句
6点 では負けた人からキスをしてあげる 東川和子
  やっぱりという負け方で負けている 吉崎柳歩
5点 熱中症に負けないように飲んでいる 鈴木裕子
  孫とゲーム上手に負ける手を探す 北田のりこ
4点 負けそうになって急用思い出す 北田のりこ
  まだ負けるわけにもいかぬ腕相撲 橋倉久美子
 
特別室

少数派の思想

 選挙の前には言いにくいが、選挙については、少数意見とは覚悟しているものの、沢山意見がある。
 土台、二院制は日本の国情に似合わないし、二大政党が政権を交替負担するというやり方も馴染まないし、議員も多すぎ、彼らの特権も多すぎる。
 07年7月
29日参院選のあとでの、議員総数は衆議院議員が480人、参議院議員が242人、計722人であるが、100人くらいが適量である。

 当然県議、市議など地方自治体の議員も4分の1くらいにおさえた方が良いだろう。何百億といわれる選挙用費用も削られる方向が良いにきまっているのだ。
 選挙権は
17歳から与えて、暴走し低迷する青春に、国民の権利と義務を教えた方が良いように思うが、逆に69歳以降は、その権利と義務から、老人を解放してあげたら、どうだろう。生涯の初めの16年間と、終りの大体16年間を国家で保護してやるというのだから、優しい改革ではなかろうか。
 ひとごととは思えぬが、投票所で見かける身体の不自由な老人たちの姿は、大概いたましい。

 事務所のバンザイ風景はTVでお馴染みだが、投票した人が当選したことで感じられる肉体的・精神的喜びとは、僕は殆んど無縁で過してきた。
 平和憲法下に行われてきた
60の選挙で、僕の場合は4勝56敗である。保守派ながらも、蛮勇をふるって初挑戦した者4人が漸く激戦を制したものの、あとの56回は、いつも落選するにきまっている人に投票している。
 そういう少数派の意地にも、もう倦きた。

 ――S・S君から、以上のようなメモを受け取って、私は驚いた。政治色の強い組織の指導にも当っていた友人なので、さすれば連戦連勝を誇る、その組織の規制を破るばかりか、にせの指導もしてきたわけで、理想主義者の生涯の残酷さを目のあたりにしたという印象であった。
 更に、この案では少数派が救われないという推論が立つが、どうであろうか。自分よりは、少し年上なので、再び選挙に行くことはなるまいとも思える。

 彼とは実に長いつき合いだが、一度も政治談義をしたことがなく、そう考えれば、日本の文学志望者は政治に関しては「秘密主義」を固守しており、政府与党の悪口を言ったり、政治家の批判を避けているようで、それは文学的悲劇ではなかろうか。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 遅れる 』
 11 少し遅れて偉そうな人が来る 堤 伴久
 10点 賛成に少し遅れて手を挙げる 吉崎柳歩
   一瞬の遅れで蠅は叩かれる 寺前みつる
  ワンテンポ遅れる老いのレオタード 福井悦子 
  7点  学校が隣りでいつも遅刻する 竹内由起子
    通訳を挟む笑顔にある遅れ 山本 宏