目次 3月号
巻頭言  「ハッピーエンド」
すずか路
・小休止
・柳論・ 自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
例会
・今月のこの句
・各地の大会案内
特別室
・ほっとタイム
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受
・編集後記

たかこ
整理  柳歩

柳歩
天根夢草
たかこ

たかこ

清水信

柳歩
 
















 
巻頭言

ハッピーエンド  

     

 やすみりえさんの川柳句集を読んでいる。

「ハッピーエンドにさせてくれない神様ね」…なんともいじらしいタイトルである。昨年初めてりえさんにお会いした。テレビや雑誌では何度も拝見していたが、そのままに美しい人だった。

ハードカバーに守られた句集は百ページに満たないが、りえさんの写真もふんだんに入り、とてもおしゃれな一冊になっている。

ほとんどが恋の句である。ハッピーエンドではないが、読んでいて恋のきらびやかさが伝わる。

しあわせになりたいカラダ透き通る

 開ききった心の中をあなたに見せたい、この想いを受け止めて。  

惜しげもなく恋の句が詠める、うらやましい限りである。

聞くための道具じゃないのヒダリミミ

 カタカナがうまく使われていると思う。少し意味深、でもいやらしくないのだ。

だあれにも返さなくっていいあなた

 演歌に「心だけ下さればどうぞ行ってください」というのがあったが、あれは嘘ですね。やっぱり好きならそばにいたいのが本音。

この道と私を忘れてもいいよ

 強がる癖がまた出てしまった。でもこれ以上惨めになるのはいやだものね。りえさんの句はどれも映画のワンシーンが浮かび上がる。

 映画はハッピーエンドが好きだが、川柳界のアイドルとしてしばらくはこうやって、シングルでいてくれたほうが夢があっていいかもしれない。

 そして、りえさんのファンは男性ばかりではないと伝えたい。

治癒力があるから恋をしています

「川柳」もいいお薬ですね。

たかこ

すずか路より
ゆびきりをすればみーんないなくなる 多村遼
一筆箋春を捜しにいきましょう 東川和子
靴に合わせる生き方もあるんです 柿木英一
関心が無くてうしろの方にいる 疋田真也
助かったしばれた夜のホッカロン 山本鈴花
一葉の皺自販機が撥ね返す 山本 宏
愛される川はとことん透きとおる 沢越建志
せっかちが使うと不便全自動 上田徳三
若い娘を乗せてるようなナビの声 鈴木章照
ガン予防せよと息子の贈り物 鶴田美恵子
お土産の賞味期限を見てしまう 寺前みつる
春一字大きく孫の書道展 むらいかずあき
引っ越した家の庭にも黄水仙 井垣和子
結局は歳相応の服を選る 山本喜禄
絵筆持つ指ですていねいに洗う 内山サカ枝
傷心を送るぎいぎい鳴る車 坂倉広美
リップサービスすると本気になりますよ 橋倉久美子
欲ばりな絵馬に神様そっぽ向く 北田のりこ
これからは捨てる勇気を出すつもり 鈴木裕子
ママゴトの夕餉の如き膳囲む 小林いさを
あと一歩の人にあげたい白メダル 小嶋征次
空港の遅れはじっと耐えるだけ 加藤吉一
パン食が続き和食のありがたさ 竹内由起子
富士の夢期待はずれで日が暮れる 水野二
返納に理由も書かす免許証 岡田敏彦
病院でまだまだ俺は元気者 長谷川健一
お祝いの色紙に一句書いてやる 山本 城
着ぶくれてなんかいません肥満です 安田聡子
険悪な空気黙って謝ろう 瓜生晴男
投稿の欄に見つけた知人の名 斉藤高圓
水仙が南を向いて喋り出す 羽賀一歩
靖国は侵略国の夢の跡 前川  豊
年寄りは生きて下さい孫のため 竹島 弘
兵隊を知らぬ作者が書く戦記 木村彦二
いらだちを飛ばしてくれる春の風 秋野信子
クールビュウティー僕のあたまのことですか 吉崎柳歩
自転車が一番早く起きている 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

145号から                                                          天根夢草

帰りたい形で置いてある車              橋倉久美子
  駐車場の自家用車あ。そういえば「帰りたい形」をしている。自家用車は、自分一人では帰れないので           ひたすら持ち主を待っている。

自転車でもっと明るい方へ行く            柿木英一  
  「もっと」の起点は、ここ。ここも明るいが更に明るい方へ行く(行きたい)という。庶民的な「自転車」という
乗り物なので、今すぐにも「明るい方へ」行けそうである。

できちゃった婚もよろしい国のため          岩田眞知子
 タイムリーである。まさに今の今。少子化対策は「できちゃった婚」でいこう。

賞状を一度もらうと癖になる              坂倉広美
 こわい貰い癖。もちろん「賞状」に限らない。お歳暮をあてにするのも癖といえば癖。

熱燗の湯気の向こうにいるあなた           多村 遼
 しあわせそうである。嬉しそうである。モデルの「あなた」は愛されている。もちろん作者も「あなた」から
愛されている。この川柳を読むと読者がモデルの「あなた」になったような気がしてたのしくなってくる。

来たからは石段登る天守閣               加藤吉一
 とにかく「来たからは」がおもしろい。なんだか損得ずくで石段を登っているようにもみえる。同作者の「品のない
ガイドのジョーク聞かされる」も、おもしろい川柳である。

年越しに何か目標たてなくちゃ              安田聡子
 あわてているサマがみえておもしろい。人並みに「目標」をたてるところ、こころの動きがみえてくる。別に目標
なんかたてなくてもいいですよ、と言ってあげたくなる。

おみくじに少々思い当たること              吉崎柳歩
 そういうふうにできている「おみくじ」という印刷物。誰にでも「思い当たること」はある普遍的な「おみくじ」なのに。

雨の日は音読で本読んでいる              長谷川健一
生きてゆく限り悲しい夢を見る              山下美代子
こだわりの手書き続ける年賀状             鈴木裕子

 の三句もいい川柳だと思った。

                                               (川柳展望社主宰  大阪府在住)

 
例会より
宿題「そして」 吉崎柳歩選
  そして今日も損をしにいくパチンコ屋 坂倉広美
  そして五年泣かぬ女になりました 中  博司
 止 そして産んだのがおまえと聞かされる 橋倉久美子
 軸 そして秋 熟年離婚成立す 吉崎柳歩
宿題「安い」 中 博司選
  安すぎる何かわけあり裏を見る 羽賀一歩
  値切ったので棺の蓋が軋みだす 山本  城
 止 ライバルより安い私が売れ残る 坂倉広美
 軸 少年法人のいのちを安くする 中  博司
宿題「安い」 橋倉久美子選
  値切ったので棺の蓋が軋みだす 山本  城
  負け組になっても安売りはしない 小嶋征次
 止 安かったシャツを今年も着せられる 鈴木裕子
 軸 各停で車窓楽しむ旅が好き 橋倉久美子
席題「投げる」 清記互選 高点句
10  投げやすい場所に茶碗を置いておく 橋倉久美子
 8 予報士より当たるわたしの投げた靴 鈴木裕子
 7 投げるにはまだ早すぎる隠し玉 長谷川健一
 7 春が来た上着も辞書も投げ捨てる 吉崎柳歩
特別室

『川柳亀山』のこと

      

 いつも送って戴いている『川柳亀山』を見ると、川柳界の交流は羨ましい程に広く盛んで、それはたいへん喜ぶべきことだ。近刊では、通巻215号となっていて、長い歴史が偲ばれる。鈴鹿は勿論だが、「いだがわ川柳会」も月例会を持ち、月刊で句誌も刊行している様子である。また「他誌に学ぶ」欄を見ると『ふりこ』『きぬうら』『いいたか』『さっぽろ』『みまさか』『めいばん』等ひらがな表示の月刊柳誌も、あちこちにあって、盛況が分かる。

 第14回鈴鹿文芸賞の授賞式が3月11日にあって、昨年の詩の部門の優秀賞に次いで、坂倉主宰の今年の川柳部門の優秀賞が発表される。

 歴史の長さやベテランという地位の重さの上に安座しないで、常に前向きに挑戦する坂倉広美氏に対して私は敬意をはらっている。


 『川柳亀山』では、坂倉さんの「ボツ句再見」がいつも有益である。例えば2月号には、こうある。

「川柳は文芸である。文芸とは、新しい言葉を発見し、創り出す芸術だから、常套語、慣用句、教訓句(いつも、どこでも、だれでも、が使う、また使われている、ような言葉。教え諭す言葉)をただ、五・七・五にするだけでは川柳とは言えない。むしろ、この反対の考え方が本当の人情なのかもしれない、と観る発想(穿ち)が必要である。」全く、その通りであって、その実践の方向でボツ句批判がなされているのが快い。


 今回は18回を迎えた「生涯学習フェスティバル参加」の『川柳作品集』も戴いて、その他にも『芸術文化』や「詩の会」での活躍や『方円』などでもその活躍ぶりは驚かされる。鈴鹿市にも『市民文化』や『アルスすずか』やがあって、川柳部門の活躍は多彩だが、この坂倉主宰のような、お祭りにならない引き締めが必要になってくる。


 1月号の「新春の雀」(桐山勤)には「大会も、川柳界も、そろそろ思いきって県で一本化することを考えるべき時期にきていると思う」と書いてあるけれども、一本化は急ぐ必要もないし、沢山の会が盛んにやっている方が、本当に盛んな実体なのではという気もする。


 どこかで「ロマンチストで純情」という自己規定を見たように思うが、坂倉さんのロマンチシズムが亀山柳界を引っ張っている力は、かなり強い。本当はロマンチシズムの方がリアリズムより批評精神に富んでいるのであるから。

(文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『しかし』
12 つたない字しかし心がこもってる 山本鈴花
  叱られたあとのしかしにある温み 山本喜禄
  酷評のあとのしかしに救われる 吉崎柳歩
11 褒められた後のしかしが厳し過ぎ 小嶋征次