目次7月号
巻頭言 「 また会いましょう
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・大会
・大会特集
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン     
・インターネット句会
・お便り拝受
・暑中広告
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩
高鶴礼子
たかこ


清水信
橋倉久美子
柳歩



 
バックナンバー
20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
20年 4月(172号)
20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言

また会いましょう

  第六回大会も無事終えることができほっとしています。参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

  ことわざ吉凶学(青春出版社・岩井宏實著)に「別れるときには、手を振る」というページがあります。別れに対して人々はなぜ手を振るのか?と聞かれたらなんと答えますか。
  手を振るというのは、本来は着物の袖を振る行為なのだそうです。袖には袂がついていて、袂にはものを入れることが出来ます。袂は魂の納まるところだとも言われています。これを振ることは魂振りであり、そのことによって自分の魂を喚起させ、相手の生命を再生させ、活力を与えようとする作法が手を振ることの本来の意味なのだそうです。

「袖摺りあうも他生の縁」という言葉があります。見ず知らずの人がすれ違いざま、袖と袖とがちょっと触れ合うようなことでも、前世からの因縁であるといわれています。しかも、他生というのは、今生に対する言葉で、過去ばかりではなく、未来の生をも意味しています。つまり、前世からの因縁であると同時にこれから先の縁も結んでくれるのです。

今大会でも、また新たな出会いが多々あったと思われます。今後の縁のために手を振り合って「霊振り」をしました。
  何気なく人と別れるとき、手を振りますが、こんな意味があったなんて、ちょっとおもしろいかなと思いました。
誰にも明日のことはわかりませんが、また来年も来てくださいね、そんな思いで手を(ついでに扇子も)振ってさよならをしました。

                                                                                                                                                      たかこ

すずか路より
参観をされて緊張する授業 橋倉久美子
幸せのバロメーターはこの笑顔 鍋島香雪
振り向けばさほどでもないことばかり 山本喜禄
ふる里の空気を吸うと蘇る 山本鈴花
歳だけで老人だとは何を言う 山本 宏
夕方の値札は化粧直しする 沢越建志
わたくしを解放させるあかんべー くのめぐみ
お隣も似た趣味なのか草ぼうぼ 鈴木章照
良い知らせ帰宅待てずにメールする 石川きよ子
老人も八十すぎてただ感謝 木村彦二
靴下の穴に気づいてひと休み 青砥英規
台風の日もそれなりに楽しめる 鶴田美恵子
発見がまだありボクの小宇宙 堤 伴久
お互いに気儘泣き虫凭れあい 寺前みつる
梅雨晴れ間今日も自分を干している 山口龍一
みんな許すこんなにぬくい母のひざ 水谷一舟
後家さんとやもめの増えたクラス会 西垣こゆき
六月の土確かめている蜥蜴 坂倉広美
整えて入れたらちゃんと入るはず 北田のりこ
欲しい物贈ってこないお中元 落合文彦
砂の下水は豊かに鈴鹿川 小嶋征次
回覧が帰宅を待って走り出す 加藤吉一
目が霞み始めた頃に読書欲 竹内由起子
今打てば逆転出来る本塁打 長谷川健一
「ねえあなた」一度も言わず五十年   安田聡子
酒の席胸に病気と言い聞かせ 瓜生晴男
見当がつかぬ老後の暮らし向き 水野 二
梅雨明けてラフに着こなしクールビズ 上田良夫
使命感だけで案山子は立っている 吉崎柳歩
昂奮を沈めるために聴くロック 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

 
  173号から                                 高鶴 礼子

・損得で動かぬ人と手をつなぐ  鍋島 香雪
 付和雷同羊も不和随行雀もあっち向いてホイ。損得で動かぬ人をこそ、終生の仲間としたいもので ある。もっとも、そういう人と手を繋ぐには仲間だと思ってもらえるだけのものを、こちらもしっか りと示さなければならないのだが、結語に示されたまっすぐな意思が心配ご無用と告げる。さわやか である。

・正直な人だ間違いなく粗品   山本  宏
 痛烈な指摘の中に漂うユーモアが佳。「粗品でございますが」とさしだされる謙譲は古来より日本 では美徳とされてきたが、それを逆手にとっての叙述が頼もしい。何気ない所作の人を描くことによ って、気を抜けばたやすく虚偽へと転化していってしまう儀礼全般を鋭く衝いている。

・強引な理屈が通る非常口    坂倉 広美
 
おお、この説得力。「非常口」の威力は絶大であるぞ。そりゃそーだと読者を納得させる語の仕掛 けがうまい。

・名付け親はどいつだ後期高齢者  長谷川健一
 
まったく、意識があるから言葉は生まれるのである。制度制定者の無意識下の意識がにじみ出てい るかのようなこのネーミング。健一さんの怒りに共感する。

・振り出しに戻る何でもないように 沢越 建志
・吉日を吉日にする上天気     吉崎 柳歩
・ぎりぎりの線で踏んばる足の裏  青砥たかこ
 
強がりが切ない建志さんの句・叙景と心象の絡まり具合が按配良く、「喜」が続々とこぼれ始める 柳歩さんの句。足の裏まで総動員しての踏ん張りが可笑しいたかこさんの句。

 初めて辿らせていただいたすずか路は、あたたかい場所なのだということが伝わってくる街道だった。心のポカポカのまま峠の茶屋へと。

                            (ノエマ・ノエシス主宰 埼玉県在住)

6月29日(日)大会より
事前投句「 誘う 」 青砥たかこ選
  六月の薔薇の誘いを待っている 奥野誠二
  お誘いを待ってガラスの靴磨く 橋倉久美子
 秀 五十音順に誘われてるらしい 坂倉広美
 軸 誘われた日から微熱が下がらない 青砥たかこ
席題「 急ぐ 」 中野 要選
  外来へAB型を呼ぶマイク 浅井美津子
  美しい人が少しも急がない 坂崎よし子
今切れば間に合うぬくい血を貰う 中田たつお
   
宿題「 騙す 」 浅利猪一郎選
  結果論君が一枚上だった 池田登茂子
  騙せなくなったtら天国へどうぞ 奥野誠二
たこつぼは蛸の納得する形 吉崎柳歩
発泡酒だと貼っておく生ビール 浅利猪一郎
宿題「 エキス」 寺前みつる選
  ビートルズのエキスで満ちていた昭和 小寺竜之介
  道頓堀で魔女のエキスを買うてくる 西澤知子
この僕をエキスにすれば泥と汗 丹川修
征一路句集に目眩めくエキス 寺前みつる
宿題「 痛い 」 福井悦子選
  指積めて誰のせいでもない痛さ 吉崎柳歩
  政界の泣きどころ突く四コマ目 高木みち子
痛いところばかりが増える生きている 植野美津江
不公平痛み分けにもある格差 福井悦子
宿題「 そんな 」 吉道航太郎
  ラブイズオーバーそんな夕日が沈みます 阪本高士
  隣人愛そんな時代もありました 荻野浩子
商品のラベルはそんなものらしい 坂崎よし子
何処にでも有りそうそんな町に住む 吉道航太郎
宿題「 悩ましいこと 」 宮村典子選
  どこまでも薔薇どこまでも赤いバラ 植野美津江
  自分では分からぬ透けている部分 橋本征一路
 秀 小指の次は薬指そして右折 松本きりり
ためらいを含んで揺れる女文字 宮村典子
宿題「 自由吟 」 天根夢草選
   死ぬときも仮面はぬがぬことにする 上村末子
  自主的に裸になって入る風呂 吉崎柳歩
乳飲み子よ大人になってほしくない 河合恵美子
勢いで摂氏百度をこえた白湯 天根夢草
特別室

脱歯面                                       

また、歯が一本抜けた。下の前歯である。その一本は春先からぐらぐらしていたが、幾つかの大事なイベントがあるので、舌先で愛撫しながら、温存していたのに、ある朝クシャミをしたら抜けて前方へ吹っとんだ。
 中部ペンクラブの総会では無事だったものの、六月二十九日の鈴鹿市民川柳大会までは、何とか持って欲しいと願ったもののそれも無駄であった。

 都合、前歯だけで上が一本、下が二本抜け落ちたわけだ。鏡を見ると、すっかり面貌が変って単なる爺ィである。人の前で話をする顔ではなくなったので、落ち込んでいる。
 これからは外出を控えよう。とりわけ、人前でしゃべったり、笑ったりすることをやめようと決心した。
 それでも、今になって川柳大会出演の辞退は出来ずに、さらに八月、九月、十月とイベントが用意されているので困ったものである。

 由来、老化に対しては、

ィ 反抗しない。
ロ、愚痴らない。嘆かない。
ハ、偽装しない。

 の三原則を守ってきたが、さらに、

二、医者にいかない。薬をのまない。
ホ、老人会に入らない。
へ、運動しない。
ト、読み書きはやめない。

 という付則を付け加えれば、これがわが基本方針なので、どうなろうと、すべては自然体で進むしかないのだ。
 それにしても、脱歯面ではみっともなくて仕様がないので、何か工夫しようと思っている。
 私は案外、強運なので、困った時にはどこからとなく助けがくる。

 拙宅には書庫というより、倉庫が四室あって、ここに十何万冊かの本や雑誌が満杯である。入室も危険だが、小さな地震の度に、その巨塔が崩れて雑誌がころげ落ちてくる。
 その中に、川柳を結集した「芸術三重」22号(一九八〇年秋刊)と「三重川柳」(一九七一年十一月号)があった。幸いにも、この二冊を使わせてもらえれば、鈴鹿川柳大会は、何とか乗り切れるであろう、と思ったことであった。
 山岸志ん児主宰の後者には、私もエッセイ「川柳連想」を連載しているが、前者は田村泰次郎、近藤啓太郎論特集と併せて組んであり、これまた三重県立図書館で「田村泰次郎、青春と戦争」というレクチャーを、最近することになっており、これも「お助け」の資料となった。後者には「小亀和郎追悼」も特集されていて、遺句を拾ってみる。

  ・      悲しみの詩でみの虫となる失意
      花落ちるまで活けてある男部屋

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 無理 』
 1 1 ジーパンに無理矢理つめている若さ 山本 宏
   9 針金の無理を盆栽聞いてやる 北田のりこ
    長年の無理がたまってくる背骨 青砥たかこ
   8 無理だとは思いながらも期待する 西垣こゆき
    口先は無理をするなというノルマ 沢越建志
     入らないものはやっぱり入らない 吉崎柳歩