目次 5月号
巻頭言  「藤棚」
すずか路
・小休止
・柳論・ 自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
例会
・今月のこの句
・前号印象吟散歩
誌上互選
特別室
・ほっとタイム
・ポストイン
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

たかこ
整理  柳歩

柳歩
岩田明子
たかこ

たかこ
柳歩

清水信

 
















 
巻頭言

藤棚       

          

 我が家のあまり手入れのしてない庭の隅に藤棚(らしきもの)がある。毎年初夏の訪れをこの藤の花の開花で知る。

 思えばこの藤の花は、長男が小学校に上がった記念に知人が小さな鉢植えを下さったものだ。だんだん鉢を大きくしていき、現在の住所に引っ越したときも鉢ごと持ってきたのだ。藤は朝顔と同じようにどんなものにも巻きつき伸びてゆく。日曜大工よろしく夫が作った棚はすべて廃材である。マメ科の植物で温帯から暖帯に分布、観賞用に栽培され、盆栽としてもよい。太い幹は輪切りにして土瓶敷に利用もされる。若葉と花はゆでて、和え物として食べられるとある。どんな味がするのだろうか。

 三年前「津市民文化祭川柳大会」に「藤」という題があった。

 

・どの人も藤の下なら美しい      由起子

 

 これは言えてる、と思う。満開の藤の下では思わずうっとりしてしまう。桜やチューリップとはまた一味違う気品が、垂下した小さな多数の紫花から漂うようだ。

 藤のつく名前の代表的な美人に「藤純子」「藤あや子」を挙げたい。藤はやはり日本的なイメージがある。

 

 我が家の庭の藤は、現在これも知人から戴いた火鉢の中に根を収めているが、25年以上も何も肥料を与えたことがない。特別な手入れもしてないのに、なぜ毎年きれいに咲くのだろう。

 お礼をこめて今年はこの柳誌の表紙にさせて頂く事にした。

 

・藤揺れてゆれてあなたを誘う初夏   たかこ

たかこ

すずか路より
嘘ついた顔で鏡は見られない 鈴木章照
約束を信じて傘は立ち尽くす 上田徳三
囃してるうちに自分を見失う 寺前みつる
あっけなく却下わたしの自己主張 鍋島香雪
引き算の季節四月を送り出す 岩田眞知子
肌寒い五月離せぬカーディガン 山本鈴花
ライバルがいるから続けられる趣味 山本 宏
真っ直ぐな釘は素直に打たれたい 沢越建志
新しいうちはチヤホヤしてくれる 疋田真也
おれおれの詐欺に掛からぬお勉強 鶴田美恵子
病院の桜 幼稚園の桜 東川和子
ため息を含んで飛ばすシャボン玉 むらいかずあき
満面に笑みを湛えて咲くさくら 山本喜禄
紅引いた唇きついことを言う 井垣和子
店員のあの手この手に負けました 内山サカ枝
狂いすぎて僕の振幅には合わぬ 坂倉広美
常備薬ビール焼酎赤ワイン 橋倉久美子
少年になってジャングルジムにいる 多村 遼
タイムサービス五分以内に決めなくちゃ 北田のりこ
折り方を思い出せずに紙兜 小嶋征次
絵の具溶く無心になれる時が好き 鈴木裕子
少しでも明るい色を選っている 竹内由起子
野良猫の昼寝気づかい忍び足 小林いさを
裏も読む会運営のアドバイス 加藤吉一
陽だまりに夫婦の会話ある家計 水野 二
クリーニングに出したコートが欲しくなる 長谷川健一
お揃いの法被が踊る春祭り 瓜生晴男
食べるなと言われたときが旨い時 岡田敏彦
毎日が日曜だから昼寝する 山本 城
助手席がいつも私の指定席 安田聡子
金輪際タバコ吸わぬと言ってから 羽賀一歩
一錠の薬も欠かせない寿命 竹島  弘
我が町の桜いちばん褒めてやる 木村彦二
竹の子が食べて食べてとのびている 秋野信子
満開のさくらに敵うものはない 吉崎柳歩
いろいろとあるけど無理のない笑顔 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

147号から                                                       岩田明子

一葉の皺自販機が撥ね返す      山本 宏
 
急いでいる時に限って自販機は言うことを聞いてくれない。私など、しょっちゅう英世の髭に悩まされている。

店内の隅にちょこっと紳士物     上田徳三
 
そういえばデパートの福袋、紳士物の売り場にはあの熱気はない。ターゲットはなんといってもヤングとおばちゃん。あのパワーには恐れをなす。

啓蟄を待っていました三拍子     鈴木章照
 
春は軽快なワルツでやってくる。ものみな萌えるこの季節が歳を重ねる毎に好きになってきた。

腹立ちを紛らすための大笑い    橋倉久美子
 
そんな時は落語を聞くに限る。腹を立てていたことがひどくちっぽけなことに思えてきて、眉間の皺が増えたことをきっと後悔する。

お守りはいらん自力で勝負する   北田のりこ
 
絵馬もお守りも大忙しの受験シーズンもどうやら終りを告げた。最後に決めるのは自分。神様はそうそう言うことを聞いてはくれぬ。

これからは捨てる勇気を出すつもり  鈴木裕子
 
「モッタイナイ」という言葉が再認識されている。それはそれとして捨てることの難しさをつくづく感じている。特に書籍を括る時の罪悪感に胸が痛む。

ママゴトの夕餉の如き膳囲む    小林いさを
 
子供たちが巣立って夫婦二人きりになると皿数もめっきり減って。間に合わせのような食卓になりがちである。せっかく元の二人に戻ったのだから、優雅に食卓を囲みたいものだ。

日本語が壁に当たって動けない   竹内由起子
 
若者たちの造語、カタカナ語、略語は枚挙にいとまが無い。一方、日本人の魂ともいうべき美しい言葉が消えてゆくことに憂いを抱いている。

温泉に浸かると惜しくなる命     吉崎柳歩
 
温泉に行ったら三度は入る。宿に着いたらまず一風呂、寝る前にゆっくりと、そして朝のさわやかな目覚めにもう一度。

(堺番傘川柳会 堺市在住)

 
例会より
宿題「開く」 吉崎柳歩選
  鉤括弧開くと受胎する言葉 吉本君枝
  開いたらもう蕾には戻れない 青砥たかこ
 止 赤ちゃんが出てくる箱はどれだろう 東川和子
 軸 大台に乗った通帳また開く 吉崎柳歩
宿題「固い」 坂倉広美選
  針千本のんで頑固を守り抜く 水谷一舟
  孫だけが頑固じじいと思わない 吉崎柳歩
 止 ぼろぼろの歯ですあなたを噛んでから 吉本君枝
 軸 炎の女で固い掟を焼き尽くす 坂倉広美
宿題「固い」 吉本君枝選
  固まっているから真意わからない 竹内由起子
  針千本のんで頑固を守り抜く 水谷一舟
 止 パンの耳固くて愛が切り出せぬ 水谷一舟
 軸 ぼろぼろの歯ですあなたを噛んでから 吉本君枝
席題「食べる 」 清記互選 高点句
 9  言い訳がうまくて親を食べている 水谷一舟
 8 いたずらを食べてピエロになりました 吉本君枝
 7 一口カツも人の噂も食べやすい 吉崎柳歩
 6 おばさんが三人人を食べている 吉崎柳歩
   起床してもう夕食の思案する 水野 二
  手の箸が一番うまいつまみ食い 水谷一舟
  行間に男を食べた跡がある 坂倉広美
特別室

『ナマイキ讃』      

ナマイキは新人の特権である。

 芥川賞の新しい受賞者であるイトヤマ女史のナマイキぶりが評判になってうて、よいことだ。

 吉崎柳歩先生や津坂治男先生や藤田充伯先生は、ナマイキが禿げたり白髪になったみたいな旧人だが、それはそれで囲いの堅固な保守勢力に対する抵抗の姿勢だろうから、許せると思う。芥川賞を取れば、原稿料は上がるし、一定評価の中で働けるということもあって有難いけれど、賞状も賞金も、いわんや副賞の懐中時計など無駄なことだと、女史は言っている。彼女はさっそく賞金(百万円)を福祉関係に寄付した上、直木賞候補一回をふくめて、五度目のノミネートで受賞したことで、芥川賞なんて靴下の底にくっついたメシ粒みたいもので早く取れないとイヤな気がするし、取れれば直ぐ忘れてしまうもんだと評している。

 名前の刻まれたドラやき状の懐中時計を贈り続けるなんて、両賞委員たち(謝礼百万円)の時代錯誤も相当なものだという感想は正しい。勲章もそうだが、スポーツや歌唱コンテストや盆栽、金魚のコンテストなどで乱発をされるトロフィーやカップなども余計なものだと言い切る気持ちも分からんでもない。

 芸術家なんて、今はいないわけで、文芸に係わる者もみな労働者と考えた方がいい。朝早く、弁当を持って家を出て、大工や左官やペンキ塗りのように一日仕事をして、帰り道には居酒屋で一杯ひっかけて、家へ帰れば風呂に入って明日のために早く寝ればいいのだと女史は言っている。夜型だと誘っている連中だって、バーやキャバレーに勤めている、単なる夜型労働者に過ぎないとも言っている。作家は、作品の中で豪華に遊んだり、無駄遣いしたりすればいいので、現実生活は極力無駄を省いて、合理的に生きているべきだと更に続ける。従って、文芸にたずさわろうとする女性にとって、次の三つは、唯の無駄であると断言する。

(1)  化粧()恋愛()会に出ること。 これらは、時間と金と感情の浪費に過ぎないと言うのである。

 会が無ければ独善的になって早く腐敗する、と自分は思っているので、これには異論があるが、拍手喝采をする引きこもり的文芸作家も多いだろう。見ようによっては、可愛げのない、憎たらしい女性だけれども、新人らしくナマイキさがあってよい。

 ナマイキは中々続かないものだ。

(文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 転がる 』
14 どっちにも転がる悪いくせがある 青砥たかこ
12点 転がっているのに気付かないチャンス 北田のりこ
 8点  サイコロの転がる方へ賭けてみる 山本 宏
 7点      寝ころんだ方へ掃除機向きを変え 山本喜禄
  転がって角がだんだん減ってゆく 小嶋征次