目次 6月号
巻頭言  「マチエール」
すずか路
・小休止
・柳論・ 自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
例会
・今月のこの句
・前号印象吟散歩
誌上互選
特別室
・ほっとタイム
・ポストイン
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

たかこ
整理  柳歩

柳歩
石田一郎
たかこ

たかこ
柳歩

清水信

 
















 
巻頭言

マチエール       

          

  「マチエールってなんのことですか」とよく聞かれる。意味は句集の中にも記してあるが、なぜこのタイトルにしたかをここに書いておきたい。フランス語であるこのことばを、「マティエール」と発音したくなるが、「まちえーる」である。
川柳より長く、かれこれ十八年油絵を習っている私には、このことばに思い入れがある。辞書には「美術作品における材質的効果」とある。モネの「睡蓮」はどなたもご存知ですね。筆先で絵の具を撫でた様に重ねただけのようなものが、遠くから見ると水になり、花になる。あのタッチは何回も絵の具を重ね置いて出来てゆく…その状態を「マチエール」というのである。

 油絵を習い始めた頃、先生が、「マチエールのあるいい絵になるように」とよくおっしゃったが、理解することができなかった。でもおぼろげに分かるようになったとき、川柳もそして人生も一緒だわ、と思ったのだ。人間同士の付き合いがいい例である。いい加減にすればそれだけのもの、大切にすれば大切にしてくれる。川柳も自分の気持ちを素直に重ねてゆけばいいマチエールができるというもの。

 マチエールは、どう生きてきたかがわかる答えのようなもの。

  初めて出す句集に、これまで自分が生きてきた、積み重ねてきたものがぼんやりとでも分かれば、今後どう生きてゆけばいいかも自然と分かるかな、と思うけど、アハ、それほど大層なものでもありません。どうぞ読んでやってくださいね。

たかこ

すずか路より
もう何も心配ないよお母さん 山本鈴花
信頼を得るにはそれなりの日にち 疋田真也
軍配を美人にあげたがる男 鍋島香雪
納税のわりに褒められないタバコ 岩田眞知子
振られたとコーヒー二杯飲んで知る 山本 宏
雑草のいじめに遭っている過保護 沢越建志
雀とるまでの野生は残す猫 上田徳三
分け合って食べる相手のいる果報 鈴木章照
無事帰宅ちらっと笑う亡夫の顔 鶴田美恵子
恋人がころころ変わるおばあさん 東川和子
饒舌と無口秤にかけられる 寺前みつる
絵手紙も少し湿って梅雨の入り 山本喜禄
集まればざっくばらんの良い仲間 井垣和子
亡夫の写真に染みついている汗の歌 内山サカ枝
見せるほう見るほうどちらも雑兵のひとり 坂倉広美
高値安定血圧のことですが 橋倉久美子
野遊びの夢に溺れている木馬 多村 遼
これからを考えすぎる亀の穴 北田のりこ
言い訳と遅刻セットで叱られる 加藤吉一
犬よりも早く起きると冷やかされ 小林いさを
半日も空飛ぶ椅子に括られて 小嶋征次
はしゃぎ過ぎたかしら腰がまた痛む 鈴木裕子
晴れ女自負しているが傘は持つ 竹内由起子
黄砂吸い中国旅行した気分 岡田敏彦
バーゲンのチラシ男を誘い出し 水野 二
肩に蝶今日は良い事ありそうだ 長谷川健一
妻の日傘五月の風と戯れる 瓜生晴男
水琴窟の音に誘われ落ちてゆく 山本 城
ありがとう一日何度言えるかな 安田聡子
利き腕が自信過剰で熱りだす 羽賀一歩
少子化というのに子供らの悲劇 上田良夫
黒雲がいけずの様に西の空 木村彦二
うわさ好き凡人らしく生きている 秋野信子
耳遠くなって聞こえる父母の声 竹島  弘
血圧は正常妻といる時は 吉崎柳歩
まるごとのたかこがいますマチエール 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

 148号から                                                                    石田一郎

絵馬ラッシュ神様の目が届かない   井垣和子
 高校、大学入試の頃は、どこの神社仏閣にも絵馬が膨れ上がっている。「苦しい時の神頼み」の現れであるが、こんなに絵馬がと思って見て通るが、頼まれた神様が大変である。作者も同じ目で見たと思う。出来ることなら神様にお願いしたが、浪人している人から、是非優先していただきたいと。

給料は安いが当てにされている    疋田真也
 給料の多い人ほど、その職場で役に立っていないことは承知している。パートや、嘱託の人は、それなりの理由があって働いているから真剣である。いつも思うのだが、雇用している社長なり役員は、下働きの人達の苦労を見たならば、給料がだめなら、せめてボーナスを弾んで出してやって下さい。

陽炎の中の向こうでゆれるひと むらいかずあき
 
別れの切なさか、思いが届かない片恋か、この作者は小心者の気持ちを詠んでいると取りたい。何度か陽炎の中へ見送った人、陽炎の中に置いて来た人が走馬灯のように浮かぶ。

病んでみて何とやさしい人ばかり   鈴木裕子
「無病息災」でありたいと心掛けていても、病にとりつかれることがある。作者は健康であって、お医者知らずの一人であったか、病気をしてみて、また寝込んでしまった時など、今まで自分で出来たことを、すべて他の人にしてもらう。「ありがとう」人のやさしさに涙流した一句である。

それとなく別れた場所へ行ってみる 竹内由起子
 
あれから何年たっただろうか、あの人は今、何をしているだろうか。豪雨のように流した涙、拒食症になったことなど遠い思い出を連れながら。

懲りもせず桜が春を告げにくる   青砥たかこ
 
春はいいものだ。“桜色に染まった野山に一糸まとわず飛び立ちたくなる。雪国に住む一人としての気分かも知れない。花から実を結ぶまでの苦労が始まる春なのに。人は懲りやすいが、自然は懲りることなく四季を繰り返す。

                                                              (長野県川柳作家連盟会長)

 
例会より
宿題「短い」 吉崎柳歩選
  短くていいさ男の言い訳は 山本 宏
  シャツの丈見たくないへそ見せられる 北田のりこ
 止 短くても受け付けますよラブレター 橋倉久美子
 軸 首を吊るには少し短いなと思う 吉崎柳歩
宿題「台所」 多村 遼選
  水飲みに行って包丁研がされる 加藤吉一
  台所事情もかえりみず援助 上田徳三
 止 台所からも海へと抜ける道 東川和子
 軸 エンゲルがのさばっている台所 多村 遼
宿題「台所」 村山 了選
  台所から世界が見える才女です 羽賀一歩
  リストラのないかあさんの台所 鈴木裕子
 止 湯が沸けば足りるひとりの台所 橋倉久美子
 軸 ごきぶりと妻が居直る台所 村山 了
席題「売る 」 清記互選 高点句
 8 売れそうな味だとたまにほめられる 多村 遼
 7 太陽を売る旅行会社の夏の陣 坂倉広美
  安売りへ一番乗りに来た不安 鈴木裕子
   限定といったら急に売れ出した 北田のりこ
 6 毒ですと言いつつ国がタバコ売る 橋倉久美子
  もう一度売る気でみがく白い肌 青砥たかこ
特別室

『川柳よっかいち』観      

 前に『川柳亀山』のことを書いたが『川柳よっかいち』も毎号お送り戴いて、愛読している。たいへん、良い雑誌である。鈴鹿に土曜会というのがあって、毎月第二土曜日午後に、神戸コミュニティセンターで勉強会を開いている。単独の同人や結社ではなくて、夫々のグループに属しながら、そこにはその枠を越えて、前月に配布された会員の所属する雑誌や書物の作品について批評し合っている。文芸のジャンルを超え、その組織を超越して「文学」そのものについて話し合っている。

 青砥さんはその幹部であるが、『川柳すずか』に属する人では村井一朗、秋野信子が参加している。東川和子も時々来てくれる。『川柳よっかいち』の同人では、松本きりりが参加してくれる。自分の秘蔵っ子と考えているのだが、清水弘子(宇宙詩人)や、佐野美幸(四日市詩の会)や、藤沢美子(文芸中部)らと同じように、姿勢が斜めである。

 二、三ヶ月続けて来る事もあるけれども、大概は二月も三月も休んでは出てくる。いつでも逃げられるような姿勢で出席しては、自分を淋しがらせている。困ったものだ。

『川柳よっかいち』2月号では、前主幹、保地桂水の追悼特集が組まれている。松本きりり、菱川麻子、坂井兵各氏が良い追悼文を書いている。正月の急逝で、75歳だったという。

 巻頭掲載の遺句を引用する。

  ・ペン先も磨く思いつく一と日
 
・ストローの先から匂い出した春
 ・長い目で見よう一直線の虹

「ストロー」とか「一直線の虹」とか「ペン先」が、その言葉よりも深く定着されていることに驚く。

 それにしても、川柳仲間の付き合いは大変だ。3月25日には朝日ホール(名古屋)で第15回朝日中部川柳大会がある、僕の知り合いの太田光昭がもの作りについて講演をしている4月8日は岩倉で第27回岩倉川柳大会が開かれ選者として坂井兵主宰が参加している。

 3月26日には中日新聞ホールで第5回時事川柳大会があり、4月29日には津で三重県川柳連盟の大会があり全員出席だろう。4月23日には岡崎、5月27日には名古屋で(川柳なごや八百号記念大会)めでたい会がある。更に6月25日には鈴鹿で第4回鈴鹿市民川柳大会がある。

 百数十名も参加する会は目白押しで、少しはうらやましい。

(文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 新しい 』
13 パソコンが新品のまま古くなる 加藤吉一
10点 新しいおもちゃが欲しい独裁者 吉崎柳歩
   新人が若い人とはかぎらない 吉崎柳歩
 8点      新しい風はメールでやって来る 沢越建志
  新しい私に出合う試着室 水谷一舟