目次4月号
巻頭言 「ああ 時実新子さん
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり

・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩・伴久
安田聡子
たかこ

柳歩

清水信
橋倉久美子
柳歩









 

巻頭言

ああ 時実新子さん

逢うピン
    逢わざるピン
           
いずれ濃      新子

 
私が川柳を始めるきっかけを下さった時実新子さんが去る三月十日、肺がんのため亡くなられた。この句は色紙に書かれたもので新子さん直筆のものだ。丸岡町の「一筆啓上賞」に応募して入選、表彰式に出かけた。そのあとの懇親会で書いていただいたものである。鈴鹿川柳会に入る前、女性雑誌「ラセーヌ」の川柳講座で選者だった新子さん。その雑誌の仲介で鈴鹿川柳会にも入会した。
 新子さんはその後、ちょうど阪神大震災のあと「川柳大学」を立ち上げられ、なんの迷いもなく私はその門をくぐった。

一と月に
   一人子を産む
        立って産む         新子

「川柳大学」創刊号の二十句の中の一句である。月刊誌のことだと思う。
 あるとき、一人で東京大会に参加、新子さんに偶然お手洗いでお会いした。すれ違いざま、「あなた『グループ創』にも入ってらっしゃるの」と言われた少し冷ややかな声が耳に残る。
 鈴鹿の会長になって作る句にギャップを感じ、辞める決意の手紙を出した。引き止められるぞと周りの懸念もなんのこと、返信は、はがきで一行。
「おとなしい娘は突然こういうことを言うのね」とあった。

なんだなんだと
      大きな月が
          昇りくる        新子

 この句のような大きな月のような方だった。ご冥福を…。

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
たんぽぽの種にゆきたいとこがある 多村 遼
さくらより人のうわさに酔う四月       堤 伴久
マニュアルのお世辞にふっと気を許す 鍋島香雪
仏壇に愚痴をこぼして恙なし 岩田眞知子
恋もしてます幾ばくもない余生 山本鈴花
ロボットの進化でんぐり返りする 沢越建志
だんだんと饒舌になる春の庭 竹内そのみ
前髪が大事な日ほど決まらない 青砥英規
わたくしを睨んで行った対向車 鶴田美恵子
申告書庶民には要る領収書 鈴木章照
大方の人は静かに生きている 木村彦二
人間を信じる気持ち忘れない 秋野信子
使い方次第で生きてくる根っこ 寺前みつる
妻をオイと呼ばなくなってから久し 水谷一舟
口喧嘩ぐらいしないと日が暮れぬ 山本喜禄
腕いっぱい広げ幸せ抱き寄せる 井垣和子
生涯を思う絵筆よ何時までか 内山サカ枝
陽は昇る一汁の幸噛みしめて 吉住あきお
ユーモアの角度を変えてみても雨 坂倉広美
トライアングルにもタンバリンにもある楽譜 橋倉久美子
反抗期自分も人もみな嫌い 北田のりこ
病み上がりあと少しだけ使っとこ 高橋まゆみ
甘党と知ってる友のお気遣い 鈴木裕子
町内会文句は言うが手は出さぬ 小嶋征次
なにもかも変ですねえで通じ合い 小林いさを
春の庭ついつい力入れすぎる 竹内由起子
おしゃべりで背中の荷物軽くする 長谷川健一
もて余す時間を測る定年後 水野 二
主導権握った妻が強気です 瓜生晴男
選挙戦もう決めてると言えもせず      安田聡子
急がすとどこか抜けてる洩れている    上田良夫
ここあしこ乱れていますモラロジー 羽賀三歩
帳尻を合わせた三月の寒さ 吉崎柳歩
春という漢字笑顔に見えてくる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


  158から        
                         安田聡子

・鶏のエサみたいに刻むセリなずな   橋倉久美子
 幼いころ、鶏の鳴き声で目が覚めたことを覚えている。母と一緒にセリを摘んだことも思い出す。今は見つけようたって見つからない、瑞々しいセリの胡麻和えが食べたくなった。母にも会いたい。

 無欲でも当ててはくれぬ宝くじ    山本 喜禄
 
すぐに買えたことがない。並んで待つ間心の中で「独り占めしません。みんなに分け与えます」と拝むのだが効き目がない。しばらくご無沙汰している。買わなきゃ当らないから、ひさしぶりに買ってみよう。

 ・もう来ない会えなくなった年賀状   沢越 建志
 突然旅先で逝ってしまった無二の親友。あれから三年が経つ。逢いたいなと思うしご主人の寂しさを思ったりする。うちは「おまえが後になるよう決めてある」と言うんだけれど…。こればかりは…。

 ・歌が好き音痴でなけりゃもっと好き  高橋まゆみ
 友人から話す声はやさしくていい声なのに歌うと駄目ねと言われたことがある。聴かせてもらうのが大好き。

 食あたりカラスは医者になど行かぬ  吉崎 柳歩
 
私も医者嫌い。この時期風邪を引かぬよう気をつけている。カラスのように病を自然治癒出来たらいいなと思う。

 ・どのようになげても割れるのが卵   青砥たかこ
 一度なげてみようかな、いやもったいないな、あとで拾えないから。昔は病気見舞いは卵に決まっていた貴重な品。籾殻の中から丁寧に一個ずつ取り出すまだ暖かな気がする卵。卵かけご飯はとっても安上がりの今もご馳走。おいしいだし巻き卵は、案外難しく夫は今も亡き姑の味が忘れられないらしい。

                                                (鈴鹿川柳会・鈴鹿市在住)
 

3月24日(土)例会より
宿題「 雑詠 」 吉崎柳歩選
  春なのに懐はまだ寒いまま 長谷川健一
  決心がぐらつく前に封をする 青砥たかこ
 止 ほめてばかりの解説で頼りない 橋倉久美子
 軸 勝つ見込みない人も立つ都知事選 吉崎柳歩
宿題「信じる」 井垣和子選
  捏造を信じられない子の事件 羽賀三歩
  幼児の眠りは深く胸の中 小嶋征次
 止 嘘でない証拠に賞状をもらう 橋倉久美子
信じると言われて一寸身構える 井垣和子
宿題「信じる」 青砥たかこ選
  信じてはいるが保険をかけておく 橋倉久美子
  定刻に着くと信じて乗る電車 吉崎柳歩
 止 イミテーションの僕を信じてくれている 坂倉広美
 軸 信じても賞味期限が長すぎる 青砥たかこ
席題「 追う 」 清記互選 高点句
 9 切り捨てた筈の尻尾が追ってくる 内山サカ枝
 8 追うほどの男じゃないと思い切る 青砥たかこ
 6  自分史の少しうすれた影を追う 井垣和子
 5  あの人を追った昔へうずく胸 鈴木裕子
  追っかけて来た子も乗せる縄電車 水谷一舟
  追っかけに意欲を燃やすまだ女 井垣和子
 
特別室

水府と聖子(3)

 岸本水府は関西川柳社の句会に出席すると共に、「毎日柳壇」に熱心に投句したり『ハガキ文学』や『滑稽文学』にも投稿していた。当百は柳壇の選者で雲の上の人であり、同じ投稿仲間の浅井五葉(大阪)を真のライバルと見なしていた。
 当時の句会の凄さを関西川柳社に見れば、句会はいつも午後二時から午後九時までの七時間。途中でキツネうどんが出た。激しい討論の他にも、先輩筋の講演のような「お話」もあって、青年子女にとっては楽しいだけではなく、「その気持を振盪させるものがあった」という。自分も現在、いくつかの月例文学研究会に参加しているが、こんな様子は一寸考えられない。そこには、志を同じうする者の信頼感と情熱がみなぎっていたという。

 岸本水府伝を書いた田辺聖子は、その句会について、参加者を「何とはない酩酊に誘うのは、川柳というものの情趣であろう。川柳は短歌や俳句と違い、人生の心懐となまに直結するもので、その情緒がもたらす精神的暈は大きい。人々のそれが重なり合い、相映発し、乱反射しあって、猛光のゆらめきを呈する」と書いている。
 田辺聖子の川柳好きは有名で、川柳をめぐるエッセイ集も多いけれども、川柳作家のそれに対する評価は様々だ。彼女は書く。
「川柳はなぜか人の記憶にとどまりやすく、人の情緒をゆすぶりやすく、句と句がぶつかりあい、そこへ現実の人とからんで錯綜し、溶け合ってゆく面白さといったら無い」

 自分の参加しているのは、主に小説やエッセイを書く人を軸にしているので、こんな風に思えるかどうか、判断はつきかねる。同人雑誌の世界は、いずれも参加同人の高齢化が問題視され、後継者難がささやかれている。何れの形実にしろ、文学の未来は、必ずしも明るいとは言えぬようである。

 枯山水の窮極の作といわれる龍安寺の石庭を、私は大好きだが、それを川柳にたとえれば、本誌の読者の大部分から非難されるであろう。川柳はもっと生ま生ましく人間くさいものだと反論を食うであろう。
 妙心寺大蔵院には逢来に由来する緑の理想郷であって、それに親しさを感じる向きも多いだろう。
 文学的に言えば、ディズニーランド的な遊園地も許されるのだし、文学は多様化しているので、スキキライだけでは、その未来は判定できない気がする。

・物足らぬ日曜なりしかな灯をともす

 これは水府の19歳の作である。
 水府は昭和
40年に73歳で、胃ガンで他界した。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 ルンルン 』
 16 恋人にもうすぐ逢える指定席 岩田眞知子
 11 良性と診断されて明日は旅 鈴木章照
 9点 こっそりと飲んだ媚薬が効いてくる 沢越建志 
 8点   ハミングの何かありそう妻の朝 鈴木裕子
 8点   自転車もハミングしてる春の土手 橋倉久美子
 8点   ルンルンのわたしが行方不明だな 吉本君枝