目次6月号
巻頭言 「事前投句
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり

特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・没句転生
・インターネット句会
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩・伴久
菱川麻子
たかこ

清水信
橋倉久美子
柳歩

柳歩









 

巻頭言


受け継がれてゆくもの

伊勢神宮は天武天皇のときに式年造替の制を定め、奈良朝以来二十年ごとに建て替えられている。
今年その遷宮を行う年であることは何年か前から耳に入っていたことである。連日テレビや新聞で報じられ、インターネットでも伊勢の柳友たちから「お木曳き」の様子を伝えていただいていた。

五月は最終日曜日「百聞は一見にしかず」とばかりに、鈴鹿から何人かで伊勢まで出向いた。誌友の東川和子さんと落ち合い、大先輩の橋本征一路さんのご自宅前で本物の「お木曳き」を拝見することにした。

幟をいっぱい立てた「お木曳車」を大勢の人が練り歩きながら引いていた。通行止めされた車道で地区名の入った法被を着た老若男女がいろんな芸を披露する。しっかり化粧を施した女性たちの優雅な踊りも楽しめたが、やはり子どもたちの演技は心打つものがあり、終わると拍手の音も大きい。

征一路さん宅は浜島、大阪へと嫁がれた娘さんたちも「お木曳き」に参加されるため帰省されていた。
お孫さんが合計八人もおられて全員揃いの法被姿であった。この子達も二十年後は立派な大人、古き良きものは、遷宮とともに人から人へこうやって受け継がれてゆくのだろう。

気の遠くなるような時間と壮大な努力の式年遷宮で伊勢神宮の社は新たによみがえる。限りある生命の我々人間が神への信仰とともに引き継がれてゆく永遠の儀式であって欲しい願う。

次の式年遷宮は2013年(平成25年)に行われる。

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
ピーク時の生まれで強く生きられる 岩田眞知子
運不運時の人にもなるニュース 沢越建志
あんな事あったと母の三回忌 竹内そのみ
ワンテンポ遅れ悪口だと気づく 鍋島香雪
旅バッグ取り出す旅に出たいから 青砥英規
庭の花手向ける母の一周忌 山本鈴花
わが町も銃の脅威にさらされる 上田徳三
容赦なく老醜晒すハイビジョン 山本 宏
手作りのサンドを持って気まま旅 鶴田美恵子
どの傘を差しても僕に僕の傘       堤 伴久
饅頭派ケーキ派家族二分する 寺前みつる
想い出はすべてハッピー妻の顔 鈴木章照
郵便車今日も我が家を通り過ぎ 木村彦二
御木曳きのヤートコセーで夏がくる 秋野信子
騙されてあげる好きだと言ったから 水谷一舟
ワープロにいちいちい抜き指摘され 山本喜禄
大笑いくすくす笑い初夏の花 坂倉広美
弾むはずのない連休明けの靴 橋倉久美子
弾まないマリだ空気もれを探す 北田のりこ
真珠婚祝う太めの赤い糸 多村 遼
誘われてひとつ返事の美術展 鈴木裕子
握手した手の温もりを信じよう 竹内由起子
コーヒーの香りに午睡覚まされる 小嶋征次
残された命へ写真撮っておく 水野 二
我を張らず少し世間を広くする 小林いさを
コウノトリもやはり悩んでいるポスト 加藤吉一
父の日は苺ケーキで用が済む 長谷川健一
優勝と孫が弾んで電話口 瓜生晴男
紫陽花の心変わりは許せます     安田聡子
禁句だと解っていても出す本音    上田良夫
綱渡りみたいにひと月を終える 吉崎柳歩
トントンと来ているように見えますか 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


 160号から        
                                 菱川麻子

・考えて見てよと春に背かれる     堤  伴久
 ここでの春は若い人の擬人化だと思う。考えても、考えても若者文化には付いていけない。しかし、古来からある文化も、捨て難いことも解って貰いたい。

梅干とうなぎのような間柄      鍋島 香雪
 食い合わせの筆頭に上げられる梅干とうなぎ。同時に食べるとお腹をこわすと聞いているが、試したことはないので真意は解らない。この句では人間関係を指しているが、的を突いていて面白い発想である。

だんだんと饒舌になる春の庭     竹内そのみ
 ものみな芽吹く春、しかし我が家の庭は雑草だけが饒舌なのである。

服を着た犬を見るたび寒くなる    青砥 英規
 うちの子と呼び、メスはわたし、オスは僕ちゃんである。「抱っこしてとせがむので」と、何のための散歩なのか、洋服も帽子もブランド物、迷惑を考えて欲しいと犬は言っている。

・午前二時目覚ましまでの一里塚    寺前みつる
 
年々一里塚も短くなった。私は寝る前に、薬を飲むので水分の取り過ぎなのか一時と四時、うつらうつらと、ラジオ深夜便とも仲良しである。

・ユーモアの角度を変えてみても雨   坂倉 広美
 
広美先生とジョークは繫がらない感がする。何しろ元先生を絵にしたような人だから……。それでいてニコニコと温かい。

・あざやかな着地を見せたフリーター  北田のりこ
 
青田刈りまでして人材確保に必死な企業、今の時期まで待っていたと思えば、鼻高々な元フリーター。着地地点を大切に。

・自然治癒うちのテレビが生き還る   吉崎 柳歩
 
人間も然り、薬の飲みすぎ頼りすぎ、副作用に効く薬にまで手が伸びる。風邪ぐらい寝ていれば治った昔が懐かしい。

ダブルクリックしても開かぬ春の窓  青砥たかこ
 春の窓、すなわち希望の窓である。そんな簡単には開いてくれない。後は努力である。

                              四日市川柳会主幹・四日市市在住) 

5月26日(土)例会より
宿題「 忘れる 」 吉崎柳歩選
  忘れないために終止符打っておく 青砥たかこ
  書かないと不安で埋まるカレンダー 加藤吉一
 止 忘れたと言えば半分許される 竹内由起子
 軸 何回忌だろうと忘れないお寺 吉崎柳歩
宿題「 他人 」 加藤吉一選
  丹精の芝他人には踏ませない 坂倉広美
  母の目がもはや他人に認知症 杉浦みや子
 止 同じこと他人がすると要らぬ世話 上田良夫
他人なら期待はしない通知表 加藤吉一
宿題「 他人 」 坂倉広美選
  ここからは他人と鍵をするトイレ 青砥たかこ
  すてぜりふ他人はこわいことを言う 水谷一舟
 止 賞品をごっそり持って行く他人 吉崎柳歩
 軸 他人です砂糖どれだけ入れようと 坂倉広美
席題「 情け 」 清記互選 高点句
 11 枯れかけた花は情けを待っている 青砥たかこ
  6 情けなら受けるがお情けは御免 橋倉久美子
   お情けのプロポーズとは思えない 坂倉広美
  5  情けある人が一升びんと来る 青砥たかこ
  4 先生の情けにすがる答案紙 吉崎柳歩
  手料理の情け味わうお裾分け 長谷川健一
 
特別室

新子補話(続)

「私の川柳はエロスを求めての彷徨である」という。そういう所が、時実新子が同性の作家から疎まれる性格かも知れない。彼女は、続けて言う。
「エロスは愛。プラトンは、最高の純粋な愛はイデア(永遠不変の実在)の世界に対する〈あこがれ〉だと言う」
 そして自分は「川柳という表現形式の中で、透明になりたいなりたいと希いつづけてきた」その透明がアガペー(神の愛)だったら、どこかで一致点が見出せる筈だという。

・雪はげし抱かれて息のつまりしこと

 これは橋本多佳子の俳句だが、時実が共感するのも、もっともである。「似た色を人は好むが、やがては憎むようになる」としながらも「私の句は素材が軆の中を駆けめぐった果てに丹田に集まり、そこから吐瀉の形をとって表現になる」と自負を語っている。

 自分の川柳が「フィクションかノンフィクションかと騒がれる中で、句はいつの間にか私の全人格とすり変えられ」て、新子の出る句会なんぞには出るなと、非難されたと、彼女は書く。
 時実新子は、次のように現代川柳の持つべき六要素を挙げている。

1 危機感
2 訴求力
3 意味性
4 意外性
5 遊びごころ
6 一句一姿

 更に考えるべき視点として()伝統と革新、()難解性と伝達、()鑑賞と選者、()川柳の詩、()連作群詩、()作家の生涯があるという。
 本誌の読者からは、多分甘いものとして時実文学を断罪する声が聞かれそうに思うが、「人は私をきわめつきのナルシストだという。それはそうかも知れないけれど」と認めながらの唯の「並みの女である」と言い切るところが潔い。

 女性を売り物にしているという批判もあるけれども「私はこの世を女として生きた実感を持たない」と彼女自身が言い、案外男っぽいのである。

・生捕りにして鹿の目を股挟み
・清冽な川がわたしを貫くよ
・ゆきずりの墓から親へ目を移す
・二人から一人になりぬ豆の花
・ゴッホが帰るのは純金の麦畑
・次々と離婚が叶う笹の舟
・舌端を朝日に向けて恥多き

句集『月の子』から抄出した。ベタベタはしていないと思う。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 軽い 』
 11 四コマの漫画で軽く突く世相 鍋島香雪
 10 軽く義理済ませるはずが三次会 福井悦子
 9点 紙切れの辞令ひとつで飛ばされる 岩田眞知子 
 8点   千の風聴いて心が軽くなる 鍋島香雪
    軽すぎはしないか平成の父権 岩田眞知子