目次1月号
巻頭言  「 亥年によせて 」
すずか路
・小休止
リレー鑑賞
・ひとくぎり

特別室
・没句転生
・前号印象吟散歩
誌上互選
・アラレの小部屋
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・年賀広告
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

堤 伴久
たかこ

清水信
柳歩
柳歩

橋倉久美子









 

巻頭言
亥年によせて

 新年明けましておめでとうございます。今年は十二支最後の亥の年である。子供の頃十二支の話を分りやすく教えてもらった記憶がある。猫が十二支に入れなかったのは、ねずみに十二支を決める日を一日騙されたというのは有名である。突進型のイノシシがなんで集合場所に遅れたのかは忘れてしまったが。
 ちょうど一回り前の亥の年は、阪神大震災で明けたようなものだった。
川柳を始めたばかりだった私の元に、大震災によせてあなたの句を一句ください、と届いた一通の便り。それをきっかけに私は川柳を本格的に始めたようなものだ。
 元日に交換誌一月号が数冊届いた。年末にどれほど忙しい思いをされたことか…、ありがとうございます。
そして年賀状、添えられた一句の重さ。川柳作家の年賀状は本当に読み応えがある。ここに「亥年」にちなんだ句を紹介させていただく。

猪とスタート競う春机            寿子

五合目で拝む亥年の初日の出         伴久

猪と遊ぶ思い出作りつつ           由起子

回転レシーブするイノシシだから街に棲む   恵美子

猪になって走ろう夢の国           恵生

川柳と酒に生かされ猪八戒          春生

今更ね猪突猛進などしない          征次

いのししに跨り夢を追いかける        楽生

六回りの猪を迎えて初詣で          城

まだまだと突進してる私です         千世

迷わずに進むだけです猪の道         忠

イノシシの縄張り熊に荒される        典呼

亥の絵馬に吊る爽やかな僕の夢        昇

院主言う自ら「納得」亥の年に        宮子

善悪は猪突猛進でも守る           如仙

そのうちにと張子の猪が走り出す       賀信

ウリ坊と呼ばれた頃の広い空         美根子

しなやかに生きんとねがう年おんな      明子

いのししの強気にならう春の酒        たつお

還暦を過ぎてもあたらしい舞台        柳歩

突っ走るばかりが能じゃないかもね      たか

 

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
パレットをこそげてボクの新春にする 堤 伴久
しばらくは風の落葉に身を委ね 多村 遼
どんな球でも空振りをする始球式 山本 宏 
幸せを丸いポストに入れに行く 竹内そのみ
膨らます希望を詰めた風船を 青砥英規
再生句ばかり並んでいる柳誌 鍋島香雪
牛乳が嫌だと言えぬ骨密度 山本鈴花
アンケート鵜呑みに出来ぬきれい事 沢越建志
越前の蟹にござるとタック付け 上田徳三
ベアリング入っていそう減らず口 鈴木章照
玄関の大声あれは初曾孫 木村彦二
ほんのりとユズの香嬉し冬至の湯 鶴田美恵子
伊勢うどんいつもの食欲に戻る 寺前みつる
結局は追われて出した年賀状 山本喜禄
始まりは愛です人を好きになる 水谷一舟
心病む時は癒しの花小鉢 井垣和子
雲ひとつない青空は絵にならぬ 内山サカ枝
スパイスのちょっぴり効いた名台詞 吉住あきお
今年の漢字は「命」しみじみ保険証 坂倉広美
待合室に連帯感ができてくる 橋倉久美子
肉ジャガの崩れたイモが好きな彼 北田のりこ
長電話切るタイミングまたはずし 高橋まゆみ
平凡がよいと気付いた日の日記 鈴木裕子
友情が大事苦言を仕舞い込む 小嶋征次
除夜の鐘今年は強く打ってみる 長谷川健一
稼げない資格も書いてある名刺 加藤吉一
物忘れ笑いの種に今日も暮れ 小林いさを
クラス会彼が来るなら参加する 竹内由起子
健康を犬と分け合う散歩道 水野 二
バーゲンでパンクしそうな冷蔵庫 安田聡子
木枯らしに負けそう今日も気が滅入る 瓜生晴男
日本の野球メジャーの草刈り場 上田良夫
虚しさより充実感を選ぶ道 羽賀一歩
本名と違う名前が忙しい 吉崎柳歩
煮くずれていますが味は同じです 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」
 155号から                                                          堤 伴久

石段を折れて曲がって僕の影     坂倉 広美
 「影」五句の一句。どれもこれも老いの臭いがする。平素ファイト満々の広美さんらしくないなぁ。
この句の「僕の影」も「老いの影」なのかなぁ。石段に因んだいい句を読んだことがあるけど忘れた。
やっぱり歳の所為かなぁ。

学友の成功少し腹が立つ       小嶋 征次
 分かる。解る。でもブンゲイ的?には少し荒削りで、句は少し愚痴っぽく、やはりお歳を感じるけど、率直に荒削りに表現されるところは、まだまだお若いと言えそう。

子沢山六人目から数字の名      内山サカ枝
 お顔は忘れたけど、十数年前、四日市の句会で飴を頂いたことがあった。お久し振りです。
ところで、この句も「今は昔の物語り」のようだが、そんな話は聞いたことがある。今なら少子化対策なんとかのキャッチフレーズか何かになりそう。

新聞を食べてしまった日本ハム    岡田 敏彦
 この句も荒削りな感じはするけど、表現〜見付が面白い。なかなか、こうズバリとは言えないものだ。
昔、私が番傘へ出句していた頃「…ナースはミス日本」という句を「こんな突拍子もない表現をする人は上達する云々」と、くさされたような褒められたような記憶がある。

美しい国耳に響きは良いけれど    上田 良夫
 何やかやありまして、支持率は下がり気味だが、おっしゃることは美しい。昔から「巧言令色すくなきかな仁」と言うけれど、掛け声だけでは美しい国にも豊かな国にもなりますまい。この句は、そんな思いを訥々と述べているのだよ、総理どの。

やるだけはやった鴉の羽繕い     吉崎 柳歩
 鴉も句のネタとしては面白い。しかもそのネタの使い方で、逆に作者のモロモロを推測してみると面白い。この鴉、いつもの鳴き方を変えて、やれやれとばかり羽繕いしている柳歩さんでした。
 
                                                        (三重番傘 伊勢市在住)
 
11月23日(土)例会より
宿題「終わる 」 中田たつお選
  人生にコールドゲームなんてない 吉崎柳歩
  再試合今日こそけりがつくだろう 青砥たかこ
 止 無防備な素顔になって恋終わる 鍋島香雪
 軸 可も不可もなき一年を終わる鐘 中田たつお
宿題「問題」 水谷一舟選
  酒と金あれば大抵カタがつく 山本 宏
  困るのは母が夜中に子守唄 小嶋征次
 止 結婚はしたいが金がないのです 岩田明子
 軸 問題は酔って好きだと言ったこと 水谷一舟
宿題「問題」 山本 宏選
  問題が発生してのアンケート 加藤吉一
  問題の無い子が起こす大事件 青砥たかこ
 止 問題の女性がからむ辞任劇 中田たつお
 軸 酒と金あれば大抵カタがつく 山本 宏
席題「覚悟」 清記互選 高点句
 9 やがて来る介護互いに覚悟する 岩田明子
 8 取り立ての免許試しに乗せられる 沢越建志
 6  里に来る熊も覚悟を決めている 吉崎柳歩
 5  覚悟して言った本音に拍手沸く 北田のりこ
  年も年いい葬儀屋を決めておく 中田たつお
  活け造り覚悟している面構え 北田のりこ
 
特別室

亀山巌のこと

 知り合った頃、亀山さんは『作家』の同人で、名古屋タイムスの社長であった。つまり実業家で、文学青年であった。しかも、その文学道は「粋人」の域に達していた。
 亀山巌の著作は次の通りである。

1『球体人間』       1967
2『裸体について』     1968
3『絵本ぱらだいす』    1969
4『秘画鬼の生と死』    1969
5『偏奇館閨中写影』    1970
6『中野スクール』     1971
7『とちちりちん』     1972
8『絵本・昔なごや』    1974
9『モンポルノス』     1974
10『亀山巌の絵本』     1975
11『神の貌』         1975
12『亀山巌私誌1』      1984
13『亀山巌私誌2』      1984
14『私誌別冊1KAME・N』 1984
15『私誌別冊2遊民の検証』  1987
16『空一面のうろこ雲』    1987
17『私誌別冊3芸文逍遥』   1988
18『亀山巌エッセイ集』    1990

 私は、この殆んどの著作を贈られて内情に通じてはいるが、書名を見ただけで、その粋人ぶりを察する有識の人も多いだろう。
 エッセイ、評論等散文に秀でた人であったが、小説も書き、短詩型文学のすべてにも造詣が深く、画才も豊かで、絵本の他に、本の装幀や装画にも素晴らしい腕をふるった。
 亀山追悼特集の『詩歌句』創刊号には、野坂昭如との対談が再掲されている。その道の先駆者であることが分かろう。その対談「エロトピア」は、昭和
47年に『週刊文春』に載ったもの。
 1907年(明治
40年)生まれの名古屋人・亀山巌は、青年時代を東京で送ったものの、その後は名古屋に住んで、最も洒落れた芸術の世界をリードしたのであった。戦時中は久居市にいた。
 小谷剛の『作家』に参加した時、亀山は
40歳であり、間もなく私とも識ったのである。稲垣足穂との対談などで、世間を騒がせた。

 私も同じだが、コラージュニストと見るのは間違いで、本質は多分ブレンダーなのだと思う。
いずれにしろ、酒やコーヒーや香水にのみ関係のある芸技であって、主食には縁の無い世界である。
 『偏奇館』では勿論、永井荷風を描き、『中野スクール』では、内田百鬼園著作の装画を書いた奇人・山口玄珠などを描き『秘画鬼』では藤田安正という奇人を描いた。

 亀山さんの死は1989年5月、82歳であった。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 さんざん 』
14 さんざんな目にあいました女偏 山本 宏
  待たされたあげく中止と告げられる 岩田眞知子
10点   改革の痛みさんざん負う庶民 小林いさを 
 9点   さんざんな目にあったけど好きは好き 内山サカ枝
    源泉で引かれ小遣いでも引かれ 岩田眞知子