目次8月号
巻頭言 「斉藤大雄さん」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・大会
・大会特集
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン     
・インターネット句会
・お便り拝受
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

伴久・柳歩
徳永政二
たかこ


清水信
橋倉久美子
柳歩



 
バックナンバー
20年 7月(175号)
20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
20年 4月(172号)
20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 斉藤大雄さん

 川柳マガジン八月号は「追悼・北の巨頭・斉藤大雄」と大きく表紙にも採り上げ、三十二ページにも渡り特集を組まれています。

 大雄さんが亡くなられたのは、あとで知ったのですが、我が鈴鹿の第六回大会の日でした。
 大雄さんと直接お会いしたのはこれまでにわずかに二度だけで、それでもここにこうして書きたかったのには忘れられないエピソードがあるからです。
 十年ほど前、柳友のN子さんからオール川柳の大会に誘われました。その時彼女は、
「たかこさん、大雄さんをご紹介するわね。彼の瞳は湖のように深くて見つめられると吸い込まれそうになるわよ」
と言ったのです。懇親宴の席で約束どおり、大雄さんと話す機会をもらいました。確かにやさしいやさしい瞳でしたが、彼の話に夢中になって瞳におぼれる暇はありませんでした。

「北海道の女性たちにもね、あなた方のようにどんどんこういう席に出てほしいといつも思っているのですよ」
 大雄さん、北海道の女性たちは本土の空気を、大雄さんからいっぱいいただいてみえたのでしょうね。
 二度目にお会いしたのは、一昨年の展望の全国大会でした。大雄さんは選者でした。大雄さんは大衆川柳にも目覚められたと知っていましたが、私は思い切り情念の世界を詠んでみました。

・残り火を抱いてひとりを愛しぬく

 抜いてもらえるかちょっとした賭けもありました。最後に読んでいただいたときの、今もあの一瞬の戦慄が忘れられません。 
 たくさんの方の追悼の言葉に、川柳界にとってどれほど大切な方だったかを思い知りました。
                                                                                                                                                     たかこ

すずか路より
歳取ったのは妻老いたのはわたし 堤 伴久
電池切れしそう目覚まし二つ置く 山本 宏
妻よりも出番が多い抱きまくら 高橋まゆみ
しんしんと検算をする午前二時 くのめぐみ
ああ夫婦感化したのかされたのか 鍋島香雪
夏よりも秋が好きですイワシ雲 山本鈴花
お気に入りばかり咲かせる花自慢 沢越建志
負けないぞ入道雲と勝負する 鈴木章照
温泉のハシゴもいいがああしんど 鶴田美恵子
柿の木に蝉の抜け殻あり大暑 寺前みつる
補聴器でこの世の声をすべて聞く 木村彦二
ボーナスを貰って夏がやって来た 秋野信子
夕立後夏の匂いと散歩する 青砥英規
前略と書くから無心言いやすい 水谷一舟
施錠した校門とあう散歩道 山本喜禄
出荷せぬ野菜減農薬にする 西垣こゆき
夢を見すぎて恋も仕事もみのらない 坂倉広美
二日酔いから夏バテへなだれ込む 橋倉久美子
外でならレディーファーストする夫 北田のりこ
ひまわりの笑顔があれば越せる夏 落合文彦
嫌々をしながら回る扇風機 小嶋征次
リハーサル出来ぬ葬儀も結婚も 鈴木裕子
弁当の中味ピンハネされたよう 加藤吉一
編みかけを解き新ネタ考える 竹内由起子
うな丼の鰻が少しやせている 長谷川健一
省エネに部屋のあちこち団扇置く  安田聡子
梅雨明けて旅でもせよと風誘う 瓜生晴男
ときめきを期待して乗るバス旅行 水野 二
旅先の背中の痛む薄ぶとん 上田良夫
墓石に臍曲がりとは書いてない 吉崎柳歩
引き籠もりになるからエアコンはつけぬ 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  174号から                                                       徳永 政二

・老いという字哀しみ溢れでる     寺前みつる
 生きていれば誰もに訪れる老い。誰もが避けて通ることができない老い。なんとか明るく老いる方法はないものかと川柳を思う。

・すり切れるまでにはきっと捨てられる 堤  伴久

 この「きっと」がつらい。子供が守られるように、老人も守られる国であってほしい。「捨てられる」と感じる国であってはならない。

・母の日に母の介護をしてる妻     山口 龍一

 とにかく介護は大変である。経験した人だけがわかるが、毎日のことである。家族の介護をしているお母さんには、特別な「母の日」を思う。

・時間など追いかけてやる定年後    鈴木 章照

 定年前、僕自身もこう思っていた。しかし、定年後追いかけるつもりの川柳という時間に追いかけられている。  

・岸壁にくだける波も痛かろう     橋倉久美子

 岩にぶつかる白い波を眺めながら「痛かろう」と思う作者。川柳の心である。

・三面鏡三つの顔がみな違う      北田のりこ

 その人の印象はけっして正面からだけのものではないとなんとなくわかるが、それが心のことになれば、もっとわからなくなる。

・ありがとうの言葉を出して幕にする  竹内由起子

 この「出して」を思う。感謝する気持ちは同じでもやはり思っているだけとは大きな違いがあるだろう。

・日本です田植えに合わせ雨が降る   長谷川健一

 おもしろい書き方である。実際は雨季に合わせての田植えだが、自然の力に感謝しながら生きてきた日本の心である。

・食卓へみかんの香りさせる朝     安田 聡子 

 なんでもない日常の一コマだが、この明るさがいい。「させる」に作者が生きている。

・仕方ないことがだんだん増えてくる  吉崎 柳歩

 実感である。生きるということはこういうことなのだと諦めるしかないほど、長く生きていると本当にどうすることもできないことに出会う。そして、川柳の役割を思う。

・ぶっちゃけた話明日が見えません   青砥たかこ

 年を取るにつれ、わかってくることがあるが、どうもわからぬままのこの世が続く。まちがってはならぬと思えば、迷惑のかからぬ程度に本音を語りたい。

                                              (びわこ番傘川柳会 滋賀県守山市在住)
 
 

7月26日(土)例会より
宿題「 体操 」 吉崎柳歩 選と評
  良く寝たと犬も寝起きのストレッチ 加藤吉一
  うで立て伏せ余分な骨が鳴っている 水谷一舟
 止 目の体操してから開く広辞苑 坂倉広美
 軸 ロボットの体操よりはやわらかい 吉崎柳歩
宿題「 同じ 」 橋倉久美子選
  同じ木に生っても味が違う桃 青砥たかこ
  同じ札新しいのを上に置く 加藤吉一
 止 土曜と日曜同じ休みだけどどこか 坂倉広美
おかわりをしても値段は同じです 橋倉久美子
宿題「 同じ 」 水谷一舟選
  「愛してる」おんなじ嘘を何度でも 坂倉広美
  同じ札新しいのを上に置く 加藤吉一
 止 また同じとこがはずれている音痴 青砥たかこ
同じあやまち男は恋に甘すぎる 水谷一舟
席題「 舟・船 」 高点句
 8点 小船には小船の意地の操舵室 加藤吉一
 7点 温暖化やがて日本が船になる 橋倉久美子
 5点 舟盛りと言ってもツマが多すぎる 高橋まゆみ
  舟賃がなくてこの世に帰される 橋倉久美子
特別室
ななかまど(1)

 第6回鈴鹿市民川柳大会、ごくろうさま。御盛会おめでとうございます。

・ななかまど昔も今も美しき   信

 これは、その夜、彼女に贈った句であるが、現代川柳になっているのかどうかも定かでない。
 予感としては、お会いできるような気がしていたが、鈴鹿サーキット内グランプリホールの入り口へ、定刻に到着した自分を、そこで待ってくれていて、その姿を見て、心は動顚した。昔通り、可愛いく美しいので、すっかり舞い上ってしまった。

 記念講演のタイトルは「川柳は鳥」だったのに、それも忘れて、30年から40年も前の、名張でのデートを想い出して、そのことを話す内に、30分の時間が来てしまった。

『川柳三重』の1971年11月号と、『芸術三重』の1980年11月刊の22号が、偶然出て来て、大会での短いスピーチに役立ったことを喜んでいた。
 とりわけ、自分の編集した『芸術三重』の22号は、田村泰次郎と近藤啓太郎の特集の他、川柳の特集をしているのであって、7月の9日に三重県立図書館での田村泰次郎論(その青春と戦争)への参加を確約していた自分にとっては、また有力な資料の出現として、二重に嬉しかった。
 当時自分は鳥山敬夫と県下各地を飛び回って、文芸諸組織の代表者たちと会っては、苦労して作った三重県芸術文化協会の維持と拡大に夢中になっていて、週末ごとに津に通っていた。
 この雑誌のウラ広告を見ると、県立図書館での月例文学研究会では、この年「80年代をリードする作家たち」をテーマに、村上春樹、村上龍、田久保英夫、古山高麗雄らの文学を討議していることが分かる。
 川柳の特集も、これが第一回で、山岸志ん児の「県下柳壇の現状」と、福田昭人の「岸本水府」という二つのエッセイの間に、県下柳人40氏の作品が収録されている。

 近刊の『三川連会報』28号を見ると、すっかり陣容が変わったと思われるが、それは他の文芸部門でも同じことだ。4月29日に三重県総合文化センターで開かれた、第33回三重県川柳連盟川柳大会の出品者と『芸術三重』出品者との重なりは少ない。
 その人は、この組織の参与で、その先駆者としての見識と、持続精神の健在さを示していて、何より目出度い。

・少女期の恋をかりかりカルメ焼き
・ドロップスとないしょを缶に閉じこめて

 その人、木野由紀子さんの近作である。何て若々しくロマンチックであろう。
 

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 薄い 』
 12 人情も氷も薄くなる地球 岩田眞知子
  9 皿の絵も楽しむ河豚の薄造り 山本鈴花
  8 ラッシュアワー薄い酸素を吸わされる 沢越建志
   まごころの薄い祝辞を聴かされる 吉崎柳歩
    想像をたくましくする薄い壁 北田のりこ