目次9月号
巻頭言 「 インタビュー」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

伴久・柳歩
近藤塚王
たかこ


柳歩

清水信
橋倉久美子
柳歩



 
バックナンバー
20年 8月(176号)
20年 7月(175号)
20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
20年 4月(172号)
20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 インタビュー

 北京五輪が聖火リレーへの妨害や、テロへの懸念はあったが、なんとか無事に幕を閉じた。
 以前から、スポーツ観戦が大好きだから夢中になった十七日間だった。夏のオリンピックをテレビで見るようになって何回目だろう。

今回は競技を終えたばかりの選手へのインタビューに興味が走った。
 体全体で呼吸を整えようとしている選手に、「今のお気持ちを」など、聞くほうも大変な仕事である。
 だが、災害の被災者に向けるマイクほどは、見ていても腹が立たない。感極まって、言葉を逸した競泳の北島、しかしだんだん落ち着いて来て「めっちゃ気持ちええ」をくり返した。
「同じ三重の野口みずきさんの分もがんばった」そう言った、レスリングの吉田沙保里。

 メダルを取った選手の言葉は、あとに続く人々の心に相当強く残るらしい。

「今まで生きてきた中で一番幸せ」
 これは十代だった岩崎恭子のひとこと。今も語り草になっている。

「応援をしてくれたみんなのためにがんばった」は、やはり多く
「両親・兄弟・先輩たちに感謝をしたい」などへ続く。

外国の選手のようにさばさば、「自分のためにがんばった」という声はなかなか聞かれない。

 マラソンは男女揃って棄権者が出た。五輪のため調整をして、出られなかったことは本人が一番悔しかっただろう。
 柔道やレスリングの「日の丸」の重さも、ただ見ている私たちにはわからない。もっと気楽にすれば勝てるのになど、煎餅をむさぼりながら思ったのであった。

                                                                                                                                                     たかこ

すずか路より
風に乗る祭り太鼓が谺する 沢越建志
湧いてくるように鳴門の阿波踊り 橋倉久美子
わたくしが消えると困る人がいる 鍋島香雪
温度計見て猛暑日を確かめる 山本 宏
はね返す糧になればと抱きしめる くのめぐみ
五輪観戦泣いて笑ってよく食べる 山本鈴花
一杯をやれる毎日文句なし 鈴木章照
この暑さ南の島へ来たみたい 石川きよ子
海のある故郷だから帰りたい 鶴田美恵子
参加する意義が身に沁む負け戦 堤 伴久
きのうより髭ののびてる佛さま 寺前みつる
土までもジリジリジリと焦げている 秋野信子
真っ直ぐに進めば早く叶うはず 青砥英規
靖国で戦死の友の遺品見る 木村彦二
ハードルが高くて好きと言い出せぬ 水谷一舟
オリンピック漬けで過ごした盆休み 山本喜禄
五輪から筋肉フェチになりました 西垣こゆき
後ろ姿が墓地まで続く風景画 坂倉広美
止まったら見える扇風機の汚れ 北田のりこ
老眼鏡かけた上から虫メガネ 高橋まゆみ
汗かきは仕事をしてるふりできる 落合文彦
優しさは悲しい過去を胸に持ち 浅井美津子
溜息と深呼吸とは違います 鈴木裕子
孫請けの事故に政治が悪く見え 加藤吉一
約束があれば私もがんばれる 竹内由起子
蝉だって自分の意志で鳴いている 長谷川健一
コオロギと目があったけどあいそ無し  安田聡子
いつの間にか余談が主役務めてる 瓜生晴男
血圧へ水分まめに補給する 水野 二
人もゴミも分別なしで困りもの 上田良夫
ハンカチを忘れるくらいならいいが 吉崎柳歩
充電をしてますノックしないでね 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
   175号から                                近藤 塚王

・肩書きがついてスーツを買いに行く  橋倉久美子
 日ごろは、カジュアルな服装で通していても、肩書きが一つも付けば、そうはいかない。社会通念という以上に、みずからの矜持だろう。余分なことだが、先生が教室で、ラフな格好で生徒と接するのは好きでない。

・ONとOFF境界線のない暮らし   鍋島 香雪
 ぼけたわけでなく、ある意味で幸せな境地ではないだろうか。朝起きて、夜眠るまで自然体で暮らせれば、それにこしたことはない。もっとも、高齢になってからというのが辛いが……。さらりと詠んでいるところがいい。

・有頂天という魔物から狙われる    くのめぐみ
 上六で詠む。好事魔多しともいうが、人として陥りやすいところである。でも、一度や二度は有頂天になっていい。そんな気分も味わわずに、死にたくないと思う。ただ、自分を律する気持ちは持ちつづけたい。

 ・ 台風の日もそれなりに楽しめる    鶴田美恵子
 台風大国日本への、まさかアイロニーではあるまい。そんな日も楽しもうとする、句主の前向きな眼差しが、素直な詠みから感じられる。デメリットな側面を嘆いているだけの人生は、自分で自分をつまらなくしているように思う。

・ほととぎす姿見せねど夏は来ぬ    小嶋 征次
 佐々木信綱の本歌取り、さすが三重県人。温暖化とやらで、おかしくなってきた季節感だが、ホトトギスが姿を見せようが見せまいが、夏は確実にやって来る。それも早めに。とくに、今年の夏の暑さは格別だった。歳のせいだけではないだろう。

・かんばしくない予報ほどよく当たる  吉崎 柳歩
・やれやれと思うでもまだ休めない   青砥たかこ

ではあるが、頑張ろう。おたがいに。

                           (名古屋番傘川柳会・名古屋市在住)

8月23日(土)例会より
宿題「 ぜいたく 」 青砥たかこ 選と評
  下戸なので料理に使う吟醸酒 橋倉久美子
  東大かプロか迷っている選手 加藤吉一
 止 満天の星を仰いで寝るテント 吉崎柳歩
 軸 他人から見ればぜいたくそうな趣味 青砥たかこ
宿題「 消す 」 北田のりこ選
  芽生えるとなかなか消せぬ不信感 吉崎柳歩
  電気消すきれいな明日来るように 青砥たかこ
 止 合併が消した地名という文化 橋倉久美子
打ち消しの言葉最後に来る話 北田のりこ
宿題「 消す 」 加藤吉一選
  はみ出した部分を消して出来上がり 青砥たかこ
  消しゴムで消したところを怪しまれ 吉崎柳歩
 止 手がかりが残る程度に消しておく 橋倉久美子
消す方が近道だった嫉妬心 加藤吉一
席題互選「 虫 」 高点句
 5点 夏休み虫も子供も脱皮する 加藤吉一
  脱皮して自分が蝶と気づく蝶 橋倉久美子
  ゴキブリも庭に住んだらたたかれぬ 青砥たかこ
4点 老眼を嘲笑うかに蚊は逃げる 北田のりこ
  鈴虫は先祖代々瓶育ち 西垣こゆき
  声のよい虫が秋風つれてくる 青砥たかこ
特別室
ななかまど(2)

 ななかまどは漢字で「七竈」と書くバラ科の植物。七度かまどに入れて焼いても、焼き残るという硬い材質が有名。高級家具や細工物に適し、持続精神の強さと、堅固な創造力のたとえに使われる。が、その花は群生の小型白色で、果実は小さいながら落葉後も赤いまま輝いて残るので有名。

・雪の音妻でも母でもない刻に
 これは1980年冬の、木野由紀子の作である。

「川柳は鳥である」
 とは、フランス文学者のポール・ヴァレリイの「文芸は軽くなければならぬ」という提言に即している。
「意志なく、風に吹かれるまま漂い流れる羽毛のように軽いのではなく、自らの力で翼を動かして、軽く飛ぶ鳥たちのように、軽くなければならない」
 と続くのだ。

 シミズ・シンのシンは英語で「THIN」(軽い)に通じる。重い暗い長い戦争時代に青春のすべてを失った世代として、自分は「軽さ」こそが、平和であり、反戦であり、創作だと信じているのである。

 第6回鈴鹿市民川柳大会での記念スピーチで、自分は時実新子のことを話題にして、皆さんの顰蹙を買ったけれども、田辺聖子や小沢昭一と共に、時実も川柳の底辺を拡げた人として、自分は愛着し、その仕事を容認しているのである。

『望星』という雑誌がある。東海教育研究所という、お固い発行所から出ている月刊誌だが、「不良老人伝」という特集を何回も繰り返している反骨の編集である。永井荷風、竹中労、岡本太郎、植草甚一、今東光、今村昌平、前田俊彦ら不良人生が、その研究の対象となっている。
 そこでの「だから川柳」という90回に及ぶ連載が、時実新子の最後の仕事であった。
 縮小純血化を目指して、長命持続を図るよりは、拡大普遍を目指して、基盤確立を図った方が、文芸の未来のためには良いというのが、自分の信念である。

 安藤まどか編、東海大学出版会発売の『時実新子のだから川柳』という近刊書よりも、自分は彼女の復刊『悪女の玉手箱』(実業之日本社、平成20年6月刊)を持って行った。元版は平成14年に出ている。
 彼女には一度会ったことがあり、色気のある人だったが、男前の熟女という印象であった。気っぷの良いところがあって、女性陣からは、そこが嫌われているかとも思えた。

・舌端を朝日に向けて恥多し
「御同業!」という感慨である。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 弁当 』
 12 弁当が出るなら参加致します 小嶋征次
  どか弁のわりに仕事をしていない 吉崎柳歩
   9 新婚の弁当さりげなく覗く 北田のりこ
   8 弁当が決め手になったプロポーズ 橋倉久美子
    弁当を二つ娘の恋進む 山本 宏
    弁当も縁起をかつぐ受験の日 福井悦子