目次2月号
巻頭言 「 手紙」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

前田賀信・吉崎柳歩
寺部水川
たかこ


柳歩
清水信
橋倉久美子
柳歩


 
バックナンバー
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20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 「手 紙」

 頂いた手紙は捨てられない。もし、ひとところに集めたら、おそらく相当な数だろう、手紙の束がある。

 生まれて初めて手紙のやりとりをしたのは、小学三年生だった。クラスの一番仲良しのKちゃんだった。毎日交換日記のように折り紙や、広告の裏にその日あったことを報告しあった。Kちゃんとは、6年生のときの席替えで、担任の「最後だから一番好きな子と並んでもよい」指示に、手紙で確認しあっていたにもかかわらず、強引な子とKちゃんは並ぶことになった。
 私は、灰猫のようにぽつんとひとり残っていたYちゃんと並んだ。なんとなく四年間の友情にピリオドが打たれてしまった。

 中学になって、雑誌に「ペンフレンド募集」に名前を載せた。毎日数名、合計にすると五十人ほどの応募が来た。現在住んでいる近くの住所の男の子からもあり、二、三年続いたように記憶している。
 明けても暮れても手紙を書いていた私は、想像力をたくましくし、十九歳の冬、はるか富山まで夜汽車に乗って一度も会ったことのない相手に会いに行ったこともある。
 その頃の手紙は、深い桐の箱に収められているはずだが、引越しと同時にどこかに片付けたままだ。

 結婚して、第一子を流産して改めてペンパル募集をしたところ100名を越す流産経験者から手紙が殺到した。この話は第一回市民大会の挨拶で述べた。なぜ私が川柳の道に嵌まったかは、この書くことが好きな性格であったから、と。

 川柳を始めてから、文通はほとんどやめた。何名かは年賀状で続いている程度だ。
 だが、現在も手紙(お礼状が多いが)は書く。ポストに落とすとすっきりした気分になる。 

 ケータイでメールも頻繁にするし、パソコンのメールボックスも来訪者が多い。居ながらにして、会津磐梯から雪景色が届いたり、さまざまなお誘いも来るのである。

                                                                                                                                                たかこ

 

すずか路より
七色の薬に生かされています 山本 宏
父母の老い確かめに行く実家 橋倉久美子
歪んでる鏡で美しくうつる 寺前みつる
気のきいたフレーズがある手紙文 鍋島香雪
待たされてすっきりしない給付金 山本鈴花
花束の煽て上手を真に受ける 沢越建志
ときどきは噂も欲しいお年頃 高柳閑雲
あくび出る心身ともにリラックス 鈴木章照
平々凡々秤にかける事がない くのめぐみ
歯車が一つずれそう倦怠期 加藤峰子
苦しみを上手く隠した飾り付け 青砥英規
今日中に寝ましょう零時五分前 鶴田美恵子
日向ぼこああ生きていて良かったな 堤 伴久
コーヒー追加好きのひと言まだ言えず 水谷一舟
着膨れてしばし出られぬ掘り炬燵 山本喜禄
今日もまた会議のせいで店屋物 かとうけいこ
渋滞二時間参拝二分初詣で 西垣こゆき
お年玉出すか出さぬか迷う歳 松岡ふみお
点滴を数えるナルシストの視線 坂倉広美
大荷物持たされ腕が太くなる 北田のりこ
新年の抱負早くもぶれている 高橋まゆみ
ドリンクを飲んで元気を振り絞る 落合文彦
がんばれとわたし見つめている遺影 鈴木裕子
いい姿勢少しは老いをカバーする 浅井美津子
経験が有り就かせたくない職場 加藤吉一
減っていく友を大事に思う初春 竹内由起子
粥食べて貧しい昔振り返る 長谷川健一
ふきのとうあわてんぼうが顔を出す 安田聡子
カイロ貼る腰と背中に助け船 瓜生晴男
初仕事半日乗れぬまま過ぎる 水野 二
パソコンと読書くるまに要る眼鏡 吉崎柳歩
沸点のままときめいているやかん 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  180号から                                     寺部水川

・金持ちになれると書いた本を買う   山本  宏
 書店を覗くのは楽しいことで、特に何を購うでもなくふらりと入る。立ち読みがまた嬉しいことで何冊も手にしてみる。金持ちになれる、なんと嬉しいことか、この本を見付けられたことに感謝。

・むつかしい予防注射のタイミング   鶴田美恵子
毎年インフルエンザの予防注射はしているが、今年は十一月だった。十二月には肺炎球菌ワクチンもした。これは五年間効果があるとか、余命より永そう。

・五十年添うても綺麗マイワイフ    寺前みつる
 不思議と五十年位一緒に居ると、何となく汚れが取れてきたような気がする。うちも今年金婚なのだがこれ程には口に出して言えない。

・見る位置のしるしが欲しい美術館   山本 喜禄
 
これは素晴らしい見付けの句で、同感と思われる読者が多いと思う。また美術館への啓蒙としても立派に役目を果すことの出来る句である。

・好き嫌いとんとないです貰う物    松岡ふみお
食べ物の好き嫌いを詠んだ句かなと、導入部で思わせるテクニックは憎いものがある。旅行の土産物で食物には困ることがある。それは賞味期限が付いているからで、二人暮らしには困る。

 ・ 心配をかけないようについた嘘    鈴木 裕子
 
ちょっと顔を見せないと、友人から、元気か?どうしてる?と電話がかかってくる。こんな時多分みんな同じように、大丈夫変わりないよ!と返事をする。許される範囲の嘘で潤滑油のようなもの。

・平和です散歩の犬が防寒着      浅井美津子
まあ、可愛いわねと口ではきっと言った。でも何よこれはと心では思った。このように痛烈に批判している句に出会うと、心の動きの深いところまで読める。川柳ってつくづくいいものだなあと思う。 

 ・正眼に構え過ぎだが直せない     加藤 吉一
 正直な人、堅い人との印象を持たれるのは悪いことではないが、ある時顔を変えたくなる時もあろう。
 でもそれを周りが認めなかったり、自身がなかなかそうなれない習い性もあろう。

                                (豊川市在住・豊橋番傘川柳会会長)
 
1月24日(土)例会より
宿題「 磨く 」 吉崎柳歩 選と評
  爪磨く男をひとり殺すため 橋倉久美子
  猫のためきれいに磨く金魚鉢 坂倉広美
 止 とことんに磨くと鍋もくたびれる 青砥たかこ
 軸 商品を磨いてばかりいる不況 吉崎柳歩
宿題「 マフラー 」 水谷一舟 選
  美人ほど白いマフラーよく似合う 長谷川健一
  スカートはミニマフラーを厚く巻き 浅井美津子
 止 えりまきになどはなりたくないキツネ 橋倉久美子
マフラーで隠す私はブスだから 水谷一舟
宿題「 マフラー 」 浅井美津子 選
  マフラーに君の人柄浮いている 村山 了
  マフラーをスカーフに替え春を呼ぶ 橋倉久美子
 止 玉砂利をマフラー外し伊勢の森 長谷川健一
ヨン様のマフラーブーム過去となり 浅井美津子
折句互選「 こ・う・し 」 高点句
 9点 小姑をうまく味方にしてる妻 高橋まゆみ
 7点 コメントの嘘も少しは信じよう 堤 伴久
 6点 骨肉の嘘がばれると修羅になる 村山 了
 5点 小間切れで旨いすき焼きしています 長谷川健一
  コンビニで売れ残り買う淑女見る 山本 宏
  これしきでうろたえるなと叱られる 山本喜禄
  この顔でうわばみだとは知らなんだ 西垣こゆき
  国民に嘘の公約信じさせ 水野 二
特別室

田辺聖子と共に(3)                                  清水 信

 田辺聖子の『古川柳おちぼひろい』には、かなりあやしげな作品が拾われている。

・忍ぶ夜の蚊はたたかれてそつと死に
・親父まだ西より北へいく気なり

「忍ぶ夜」はもちろん忍び合う男女のことで、人に知られるので、ピチャンと蚊はたたけぬわけだ。そっとたたいて、そっと死んだのである。

 2作目、そろそろ西(西方浄土、死ぬ準備)を考えてもよさそうな年の男がまだ北(吉原)へ行きたがるという意。

 ・惚れたとは女のやぶれかぶれなり

  女が積極的に惚れたというのは(恋したと言うのは)寧ろやぶれかぶれの態度である。ハイミスのあせりが多いことなのであろう。

 ・するたびに小便に出る姑ばば

 「する」とは若夫婦の性生活である。その時に同居の姑がいやがらせのように戸をぎしぎし開いて小便に行くという景。当時は厠が戸外にあって、この句の効果はあるのだが、当今は、そんな事はあるまい。とはいえ、

 ・そこかいてとはいやらしい夫婦仲

  とあるように、べたついた夫婦仲を見せつけられるのも、姑にとっては、面白くないのであろう。「女房を大切にする見ぐるしさ」との作もある。二世代同居は今も難しい。そういう家庭内事情に比べれば、久米仙人的な男どもの哀れな関心は罪がない。男は下半身に弱い。

 ・毛が少し見えたで雲をふみはずし

 古川柳研究には、山路閑古の『古川柳』(岩波新書)や、下山弘の『江戸古川柳の世界』(講談社現代新書)などがあって、自分は、後者表紙の惹句にある「知的詩情を味わう」という姿勢で、大いに参考にさせて貰っているが、決定的な論理判断は出来ない。

 ・いたばしで鰹のさしみおそろしき

  海に遠い(東京の)板橋で、魚の刺身を食わせるのは、怖ろしいことだという意だが、現今でも、山の宿でも秘湯の旅館でも、どこでも日本風料理では、刺身が出る。それを不思議にも思わない人々への風刺でもあろう。「湯屋へ来て見ればしつかり江戸の色」という作もあって、古川柳は諸方に残っている江戸を探す文芸らしい。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 元気』
 11 柔らかい話になると出る元気 沢越建志
   9 元気出る特効薬に諭吉さま 山本 宏
  アルコール飲むと元気な舌になる 橋倉久美子
    帰省して元気な親の愛にふれ 水野 二
   空元気だったと逝ってからわかる 吉崎柳歩
  8点  のぼり坂お尻を上げて踏むペタル 鈴木裕子
  7点  けんかする元気も失せた倦怠期 福井悦子