目次1月号
巻頭言 「 言葉の力」
すずか路
・小休止
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受
・大会案内・戴いた年賀状
・年賀広告
・編集後記

 


柳歩
整理  柳歩

板野美子
たかこ


柳歩

清水信
橋倉久美子
たかこ


 
バックナンバー
20年 12月(182号)
20年 11月(181号)

20年 10月(180号)
20年 9月(179号)
20年 8月(176号)
20年 7月(175号)
20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
20年 4月(172号)
20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 言葉の力

「ヒーローになってこい」元日に行われたサッカー全日本選手権決勝戦は、ゼロ対ゼロのまま延長後半を迎えた。監督から、この言葉を貰って送り出されたガンバ大阪の播戸選手は、同十一分に見事決勝ゴールをあげた。
 この言葉があったから決勝ゴールをあげられた、とは言わない。そんな力を言葉自体が持つことはできない。しかし、この言葉がなかったら、幡戸選手が、あの決勝ゴールをあげることはおそらくなかっただろう。

 言葉には確かに力がある。同じ思いを積み重ねてきた者同志だからこそ、相手の力になれる言葉である。       麻生首相がハローワークにおもむき、求職者に「何がしたいのか絞るのが先だろう」などと説教していたが、肩書きだけから出た思いつきの言葉が何の力になろう。

 川柳は頷かせる文芸である。同じ思いを積み重ねてきた、同じ生活者に共感してもらう文芸である。大衆の目線、生活者の目線から離れた自己満足の五・七・五に何の力があろう。
 では、どうしたら読者に共感してもらえる川柳が作れるのだろう? 自分が思ったことをそのまま五・七・五にしただけでは、先ず共感してもらえない。確かに何百、何千の読者の中には、たまたま同じ境遇の人もいて、ある程度共感してくれる人がいるかも知れない。読者の数だけ人生があるのだから。
しかし、それでは「文芸」とは言えない。何処かの誰かが解ってくれればそれでいい、というのは「芸術」ではない。ただの「日記」である。

 監督と選手、西野監督と幡戸選手の信頼関係の中でこそ「ヒーローになってこい」という言葉は力を発揮した。私たちは、より多くの人(生活者)に共感してもらえる川柳を作らなければならない。口惜しかったこと、腹が立ったこと、面白かったこと、可笑しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、さまざまな思いを、読者に共感してもらえる五・七・五に表現することが私たちの勉強である。 

                                                                                                                                                      柳歩

すずか路より
新しい花束がある魔のカーブ 山本喜禄
白黒をつけて火傷をくり返す くのめぐみ
相談をしたい夫が病んでいる 鈴木裕子
片付けてしまった場所がわからない 石川きよ子
やさしそうだけどはっきり物を言う 鍋島香雪
不況風のんきな妻が受け止める 山本鈴花
迎春へ金粉の舞う酒を買う 山本 宏
事故多発いずれも後期高齢者 沢越建志
人生の岐路に佇む駄馬ひとり 高柳閑雲
目覚ましからやっと解放定年日 鈴木章照
一心に進めば辿り着くいつか 青砥英規
イベントが終わった後の虚脱感 鶴田美恵子
生首のさ迷う企業城下町 堤 伴久
金塊に少しならなる家電ゴミ 寺前みつる
ありがとうから始まった恋もある 水谷一舟
手抜きする肩の痛みのせいにして 西垣こゆき
終戦後の記憶不景気なんのその 松岡ふみお
友の訃になにもできない手を眺め 坂倉広美
週刊誌読み終えぬのに名を呼ばれ 橋倉久美子
素直なので大きい方のつづら取る 北田のりこ
母二人老い方もまた二通り 高橋まゆみ
折り紙に笑われそうな太い指 浅井美津子
晩酌の顔の赤さも喜ばれ 加藤吉一
戦中派嫌いな物を先に食べ 竹内由起子
晴れ着着て親が喜ぶ七五三 長谷川健一
道の駅国産大豆買い溜める 安田聡子
不揃いの蜜柑も味は変わらない 瓜生晴男
気遣ってもみじマークを割り込ませ 水野 二
還暦を妻もすんなり越えて初春 吉崎柳歩
背を向ける人にもそっと礼を言う 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  179号から                                    板野 美子

・キャラメルを噛んでしまってからの悔い    鈴木 裕子
 思わずにんまり、誰しも経験あること。人生のささいな事だと思うが悔いはあとをひく。

・目覚めたら突然秋になっていた       橋倉久美子
秋は何を持って来ても一句として成り立つ。心象風景とすれば淋しさの誇張かも知れない。虫でなくてよかったね。

・生き生きと悪口を言う熟女たち          山本  宏
この句の素晴らしさは上五に尽きる。悪女も魔女もとても賢い女たち。

晩年に誓う老いても愛し合う         鍋島 香雪
後期高齢者の後期は高貴に通じる。死んでも気高く愛し合う心と許し合う心があれば、この世を全うして終われる。

・ライバルは時々勝てる人にする          石川きよ子
作者は多分かわいい人だろう。勝てる人を選ぶより負けられる人になったら随分強くなれる。負けるが勝ち。

 ・首すじを撫でて信号機を見上げ           坂倉 広美
首すじには今何色の信号が点っているのか。黄でも赤でも走らねばならぬ時もあり、常に信号の色を確かめて現状の把握を。

・どぶ川も金木犀も散歩道             加藤 吉一
住み慣れた街のどぶ川はいつきれいになるのか、人はいつ環境に目覚めるのか。金木犀の涙は見たくない。

・人はみなその人なりの唄がある          竹内由起子
人それぞれの生き様に演歌があり、ジャズのリズムで生きている人もいるだろう。昭和の道には枯れすすき、人生の並木道がぴったりかも知れない。

                                                                                                                       (川柳天守閣・堺市在住)
12月27日(土)例会より
宿題「 しっとり 」 青砥たかこ 選と評
  心にも保湿クリーム塗っておく 橋倉久美子
  しっとりと咲いてる花にだまされる 竹内由起子
 止 愛を得てしっとりとする老いの肌 坂倉広美
 軸 しっとりとした女ねと言われたい 青砥たかこ
宿題「 ひねる 」 山本 宏 選
  ひねりすぎても面白くないクイズ 吉崎柳歩
  おひねりが飛ぶとおばさんだけ踊る 青砥たかこ
 止 殺人の動機が首をひねらせる 中田たつお
年金から日帰り旅行ひねりだす 山本 宏
宿題「 ひねる 」 中田たつお 選
  DNAひねったきゅうりばかりでき 竹内由起子
  ひとひねり入れてやんわり妻の愚痴 沢越建志
 止 チャンネルをひねった頃は若かった 西垣こゆき
ぽたぽたと落とす涙で縛られる 坂倉広美
席題互選「 笑う 」 高点句
 8点 笑い声だけは通訳いりません 山本 宏
 7点 笑ってる間は傷も痛まない 青砥たかこ
  笑顔まで採点されているらしい 橋倉久美子
 6点 石段の途中で膝が笑い出す 岩田明子
  雪だるまほほえむように融けてゆく 青砥たかこ
特別室

田辺聖子と共に(2)                                  清水 信

  エロティシズムは古典川柳の重要な要素の一つである。昔は男作家の専門だった川柳の世界が、女8割男2割という風に構成が変ってきている。そこでこの要素が崩れていった。そこの部分が、説明しにくく、共有できぬものになってきている。軽い方から引く。

・女湯へおきたおきたと抱いてくる

 赤ん坊が寝ている暇に、女房が銭湯へ行く。具合いの悪いことに、赤ん坊が目を覚ます。そして泣き出す。預っていた亭主では、なだめるてだてがない。ついでのことに、女湯をのぞいてみたいという男心があって、「起きた、起きた」と叫びながら、洗い場にいる女房のところへ赤ん坊を抱いていく。

・飛び物に夜鷹は客を跳ね返し

 戦後も昭和25年になって禁を解かれた『誹風末摘花』は、いわば国禁の書。その中の淫猥な一句である。「夜鷹」を知らないと意味が解らない。夜鷹は夜行性の肉食鳥で、街娼のこと。野外で性交渉中、飛び物=お化けが出て、女は上に乗っている男をはね飛ばして逃げたという話である。お女郎だって、夜陰にそれを買う貧相な男だって、お化けと言えば、お化けである。お化けみたいな男女が、本当のお化けにキャッと叫ぶ面白さをねらっていて笑わせる。でも、女性には不快感の残る作かも知れない。こんなのは、どうだろう。

・みんな留守猫の交尾をよつく見る
・つくづくとおえたのを見るひとり者
・屁をひつておかしくもないひとり者

 田辺聖子は『古川柳おちぼひろい』の中で、これらの作を並べ、独身男の日常を解釈している。
 さらに幸田露伴流に言えば、元々川柳というものは「男これを作り、男これを成すもの」だと付け加える。
30代後半の未婚男性が急増し、ニートやワーキングプアが人口構成で高い比率を示すようになっている今日では、唯のからかいの対象として独身男を視るのは、酷に過ぎるであろうか。

「猫の交尾」とか「おえるもの」とか「屁」とか、直接法の言葉の使い方は、品が悪いけれども、これを許さぬとなっては、川柳の本義にもとるだろう。
 文化勲章受賞者の田辺は「屁をひつて」などは、女性のひとり者にも通じる生活句だと言っている。更に、「ひとり者」は、今も昔も川柳にとって「恰好のテーマ」に他ならぬと言っている。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 探す』
 11 駄菓子屋で探す幼い日の記憶 水谷一舟
  8 着地点探し漂うフリーター 北田のりこ
  断つはずのタバコを探すこ小ひきだし 高木みち子
    あら探しばかりするから逃げられる 山本鈴花
   受け入れ先探して走る救急車 山本 宏
    皆揃い探しに行った人を待つ 加藤吉一
    わたくしの居場所を探す日向ぼこ 沢越建志