目次3月号
巻頭言 「 思いを一句に」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・例会
・例会風景
・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

 


柳歩
整理  柳歩

堤 伴久・吉崎柳歩
川瀬朋子・磯崎加奈子


柳歩
清水信
橋倉久美子
たかこ


 
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21年 2月(184号)
21年 1月(183号)
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20年 11月(181号)

20年 10月(180号)
20年 9月(179号)
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20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
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20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 「 思いを一句に」

  前にもどこかに書いたことがあると思うが、展望の天根夢草主宰に「川柳は結局『にんげんの深さ』ではないですか?」と質問したことがある。教養も才能もなく、度量も狭い自分に限界を感じていたからである。
 
 主宰はその時「『思い』ではないですか?」と返された。「思い」とは、にんげんが生きていく過程の中で生ずる、さまざまな感情や感動、希望や失意など、心の働きを指すものだろう。
 
 そうか、人の「思い」には限界はない。生きている限り「思い」は無尽蔵に湧いてくる。
いい思い、悪い思いもない。優れた思い、劣った思いというものもない。「思い」を句にすればいいのだ。それなら川柳を続けられる。

 故伊藤竜子さんは、「小説が斧なら川柳は剃刀だ」と書かれている。「大木を切り倒すことはできないが、鋭い切れ味で幾太刀でも斬りつけることができる」とあったように思う。

「思い」は、指紋が一人一人違うように、他人とは微妙に違う自分だけの精神反応である。「思い」をうまく乗せられた(表現した)川柳はいい川柳である。切り口の鋭い一句となる。失敗をしたら(駄句になっても)何度でも作ればよい。剃刀だから何度でも斬りつけることができる。

 人生の折々に生ずる出来事は、人によっても、そう大きくは違わないだろう。しかし、川柳によって自分の生きざまを記録して行こうと思って生活していれば、さまざまな発見があり、独自の思いが生ずるはずである。それらを素早く切り取って一句に表現する。 たくさん詠んでたくさん捨てる。たった十七音字。誰でも独自性のある佳句をものにすることができるだろう。

 自戒の意味もあるのだが、句会や大会で入選したくて、思いのない作品を出句することがある。
借り物の着想、借り物の表現、その方が抜ける確率は高いのかも知れない。しかし、それは創作ではない。文芸ではない。言葉遊びである。自由吟でも課題吟でも、自分だけの思いを一句に詠み込もう。

 
                                                                                                                                                 柳歩

 

すずか路より
価値観の違い感じた途中下車 沢越建志
それはそれはとお世辞笑いで済まされる 堤 伴久
アピールをしすぎて嘘を見抜かれる 山本鈴花
自信あるから筆で書く熨斗袋 山本 宏
ときめきに押しつぶされて眠れぬ夜 鍋島香雪
スケジュール貴女のために空けてます 高柳閑雲
葬式のお経見事にハーモニー 鈴木章照
暇と金プラス元気でクラス会 加藤峰子
この恋が最後と思うひとと逢う 萩原典呼
検診の十日前から模範食 石川きよ子
いつもとは違う道から帰る春 青砥英規
エンジェルの笑いで癒す老いの鬱 鶴田美恵子
襟立てて春のノックを待っている 寺前みつる
無言電話君のひみつを知っている 水谷一舟
一億の国民すべて評論家 山本喜禄
ライバルの火花で火傷してしまう かとうけいこ
てんぷらを食べる体がきしむから 西垣こゆき
クッキーで済みそうにないチョコが来た 松岡ふみお
礫さえ持てない刻が来るだろう 坂倉広美
温泉好きの虫をなだめている足湯 北田のりこ
がんばれる子の背中なら押しやすい 橋倉久美子
思いきり笑える場所をみつけたよ 高橋まゆみ
新年の決意三日でまあいいか 落合文彦
なんにも知らず今年も咲いてくれた梅 鈴木裕子
追伸に気になることが書いてある 浅井美津子
しじみ汁小さな貝にチュウをする 安田聡子
給付金 なんだ私の税金だ 長谷川健一
奥様の好きだった絵を棺に入れ 加藤吉一
雑草も春になるのを待っている 竹内由起子
不況風暖簾に寒い夜の足 水野 二
梅一輪見つけて春を待ちわびる 瓜生晴男
死んだとき口は開けないようにする 吉崎柳歩
信号が黄色で少しだけ休む 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  181号から                                     川瀬朋子

・ほどほどというバランスが難しい    山本 喜禄
 
ゆっくり、ゆったりなど掲げていると前に進めませんね。きっと身体がそのラインを教えてくれるでしょうから、その時が憩いのタイム。

・したたかに後期とやらを生き延びる   堤  伴久
 後期なんて無視しましょう。誰にも判らない貴重な体験を積んで来た人には全く後期なんて言わせない芯のさが一本通っているから。

・七不思議のひとつオジンが恋をする   水谷 一舟
 
恋は年齢に関係なく訪れてくるものでしょ。オジンと言わせない男の色気が感じられる方に、誰かが想いを寄せているなんて人生最高。

・美しい過去は大事に胸に秘め      浅井美津子
 
謙虚な方ですね。美しいものを前に出してしまうより、心で温めて自分だけのものにするってことは、より深く味わわれた素敵な宝物。  

・幸せは心の中で造られる        竹内由起子
 思いようひとつで幸せは、沸々と湧いてくるものでしょうね。豊かな感性で培われて、より一層の幸せを摑まれていることに拍手を送ります。

・道の駅国産大豆買い溜める       安田 聡子
 
大豆は貴重ですものね。遺伝子組替えなんて真っ平ご免という、お料理達人の安田さんにはきっと健康な物しか目に入らない筈、ご立派。

・含蓄の言葉希望の灯を点す       瓜生 晴男
 
悟されたわけでもないのに、胸に響く言葉ってきっとその人の持ち味であり、お人柄が乗り移って来るような気持ちです。言葉ひとつで明るくなれるお人も、受け容れ方がお上手。

・嫁さんの実家へ先に行くらしい     吉崎 柳歩
 
昔から当然のように為されて来た道ですね。お嫁さんあればこそ、家庭も温かくなるのですから、雛壇に飾らないでも先ず、実家はお嫁さん側からが夫婦円満。家庭も感謝の大道。

・お互いのがまんが長く続くこつ     青砥たかこ
 
がまんは、我満足の境地なのでしょう。転換術を心得たたかこさんは、見てみないふりをし、許容の範囲を広げていられるから、全てスムーズにいくのですね。みざるきかざる言わざるで、高い所に掲げておきたい額の見本。

                                          (鈴鹿市在住)

 
  181号から                                   磯崎仮名子

・やさしそうだけどはっきりものを言う 鍋島 香雪
 いつもそう言われている私は、本当は全然やさしくないのよ、とつけ加えるようにしています。それが誰も信じてくれません。

・こんにちは いや今晩はふと悩む   鈴木 章照
 
えっ、今日は何日、今は朝、昼、と錯覚することに慣れました。ふと悩むことを忘れてしまっています。

・男の世界酒はがやがや飲んでよい   水谷 一舟
 すみませんが、女の世界はお酒が入るとがやがやなどという程度ではありません。深夜の一人酒で独り言が増えました。何をわめこうが、悪態つこうが、これほど至福の時間は得がたいものです。

・桜咲きお盆が過ぎてもう師走     長谷川健一
 
年々、束になって時が過ぎていきます。老後はいつから始まっているのだろう、と考えてしまいます。青春の真っ盛りと言い張る人たち、お気づきになっていないと感じます。年相応に生きていきたいと思います。

・開かぬはず逆にひねっておりました  橋倉久美子
 
一番あせるのは自分の後に人が居る時です。落ち着けば扉は引くのではなく、押す。とにかく今のトイレ仕様には参ってしまいます。便利なはずが、不便に思えてなりません。

・玄関で主婦のモードに切り替える   青砥たかこ
 
頭のОN、ОFFですね。一人になってから必要なくなりました。気合を入れなくてもいい分、怠け者になりました。緊張のゆるみっぱなしです。

「アラレの小部屋26」
 
私も社会見学行きたいです。好奇心が旺盛なので、どこへでも顔を突っ込んでこの目で確かめたいです。宝くじの一億円が目の前で見られるなんて、もうただの印刷物にしか映らないのでしょう。一万円札をコピーしている感覚でしょうね。 

                              (鈴鹿市在住)

2月21日(土)例会より
宿題「 予定 」 青砥たかこ 選と評
  別れ際予定通りにキスをする 水野 二
  その日まで生きていたらという予定 吉崎柳歩
 止 この辺に悲鳴もはさむ予定表 坂倉広美
 軸 予定より早く咲いても叱られる 青砥たかこ
宿題「 厚い 」 加藤吉一 選
  ごまかしが利かない厚紙の折り目 北田のりこ
  厚化粧すればするほどひどい顔 竹内由起子
 止 皮厚くむいてもう一品作る 橋倉久美子
高齢者ずらり揃えて厚い層 加藤吉一
宿題「 厚い 」 瓜生晴男 選
  胸板は厚いに限る泣くのなら 高橋まゆみ
  春風に厚いコートを脱がされる 杉浦みや子
 止 厚い手紙母への思い書ききれぬ 水谷一舟
人情に厚く財布がいつも空 瓜生晴男
席題互選「 天気 」 高点句
 8点 天気にはこだわりのない深海魚 橋倉久美子
 7点 お天気が良すぎて人が集まらぬ 橋倉久美子
 6点 口実にするには雨が弱すぎる 吉崎柳歩
 5点 予報士が美人で予報聴いてない 吉崎柳歩
  雨模様なのに挨拶終わらない 加藤吉一
 4点 お天気はよいのに妻がすねている 青砥たかこ
特別室

鶴彬三章(1)                                     清水 信

 鶴彬の名前も知らないで、川柳をやっている人は、唯の阿呆である。鶴彬の作品の一つも知らないで、川柳の道へ入った人を、私は軽視する。
 川柳の二つの特質は諧謔と叛逆である。川柳人の両脚は、この諧謔と叛逆とを踏まえていなければならない。その一つが欠けても、川柳人は自立することが出来ない。

 鶴彬は昭和13年(一九三八年)9月14日、独身のまま、29歳8ケ月の生命を閉じた。
 生前は、新興川柳運動の提唱者である井上剣花坊の『川柳人』に拠って作句していたが、いかなる雑誌に属していようと、いかなる流派に拠っていようと、どんな仲間とつき合っていようと、言葉に於ける諧謔と、精神に於ける叛逆を、死守する生き方は出来るのである。

 ・万歳とあげて行った手を大陸へおいてきた
 ・手と足をもいだ丸太にしてかへし
 ・万歳を必死にさけぶ自己欺瞞

 これらは勿論、戦中句である。戦争のない時代に生きて、そんな作品書けるものかと言う人がいるかもしれない。
 しかし、例えばこれを書いているのが1月12日である。

 イスラエル軍のガザ攻撃は、まだ止まず、民間の死者は4千人を越えている。その大半は女性と子供たちである。そればかりか、国際条約に違反して、イスラエル軍は白リン弾を使いはじめている。白リン弾とは白リンを充てんした焼夷弾で、上空で破裂した白リンが人体に触れると、消すのに困難で、内部から人体を腐蝕していくというもの。
 欧州各国では抗議デモが実施され、ロンドン、パリでは三万人が参加、ベルリン、アテネ、コペンハーゲンでも一万人前後が参加、警官隊ともみ合って、何百人もが拘束されている。日本では、こういった抗議活動もないわけだ。パキスタンでは、軍と武装勢力との銃撃戦があり、40人余が死亡している。
 インドネシアでは二七〇人乗りのフェリーが沈没して、二百人以上の死者が出、南米ペルーではバスが転落し、35人が死亡している。
 ロシアのガス供給がストップして欧州各国が困窮している。

 事故と戦争を同一視はしないけれども、人命の尊重されざること、今日ほどひどい時代も珍しいのである。そういう事情に対する闘いが、川柳人の心の中にあってこそ本当だ。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 時効』
 1 2 法律にあっても妻にない時効 山本 宏
 11 眠れない日々被害者にない時効 山本鈴花
 1 0 ほとぼりが冷めた頃出す割れ茶碗 岩田眞知子
   9 胃袋で時効になっていた偽装 沢越建志
  8点  理不尽な法の時効に泣く遺族 北田のりこ
  7点  借金は出世払いという時効 高木みち子