吉崎柳歩選(入選34句)
猫の恋窓を叩いて邪魔をする 大田はる
楽しいと半音高くなる地声 中嶋安子
セールスに半音下げて対峙する 由美
* 失意の日雨は淋しい音で降る ちゃくし
スコッチを注いで雨音聞くひとり 早人
おひとりさまの暮らしを仕切る電子音 まりえ
* 掃除機にチャイムの音も吸い込まれ 宮アかおる
* シャッターの音もカメラのステイタス 早川トミジ
* 聞き覚えある靴音に振り返り 香月
ゴーンとかポコポコだとかお寺から 新家完司
* 沈黙が怖くて付けているテレビ かっぱ堂
酷使した身体がきしむ音を出す 青砥たかこ
足音が先に部屋へと駆け上がる 夏舟
雑音に紛れ込んでた天の声 上嶋幸雀
* 歯ぎしりも鼾も生きていればこそ 丸山 進
深呼吸すると若葉がそよぐ音 佐藤千四
* 音がする方へ行きたい寂しがり 北田のりこ
録音かライブか分かる震度三 船岡五郎
出し惜しむ賽銭箱に派手な音 板坂壽一
* 気まずさを追い出す換気扇の音 汐海 岬
ラブソングだから虫の音心地良い 濱山哲也
心音が届くようにと手紙書く 上嶋幸雀
ロボットと不協和音を立てている 闘句朗
* 秒針の音に決断迫られる おかのマン
靴音は等身大にしか鳴らず やひろ
夜のしじま我が血流を聞いている 橋倉久美子
腰椎のあたりで今日も音がする 門脇かずお
笑われる着信音にしています 門脇かずお
階下ではカネを数えているらしい 山田緑青
* 真夜中に滝が流れる冷蔵庫 河村啓子
天婦羅の鍋で核分裂の音 まりえ
* 音痴だと謙遜してるけど音痴 照坊主
音たててみても独りは独りなり 田村ひろ子
口笛を吹くと別れが辛くなる 柴田比呂志
別れが辛いので口笛を吹いているのだが、原因と結果を敢えて逆にして、せつない気持ちをうまく表現している。
* 近づいて離れていった救急車
吉崎柳歩