目次11月号
巻頭言 「 無念無想」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・例会
・例会風景
・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・インターネット句会
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
みんなのエッセイ
・各地の大会案内
・編集後記

 


柳歩
柳歩整理

吉崎柳歩・堤 伴久
伊藤忠昭
 

柳歩
清水信
橋倉久美子
たかこ



鈴木章照・鈴木裕子

バックナンバー
21年10月(190号)
21年 9月(189号)
21年 8月(188号)
21年 7月(187号)
21年 6月(186号)

21年 5月(185号)
21年 4月(184号)

21年 3月(183号)
21年 2月(182号)
21年 1月(181号)
20年 12月(18
号)
20年 11月(179号)

20年 10月(178号)
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20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
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巻頭言


 無念無想

 不眠症に悩んでいる人はけっこう多い。心配事があって眠れないのは当然だが、そうでなくても、毎晩なかなか眠れないという人は多いようだ。
 逆に極めて寝付きの良い人もいる。忘年会などで相部屋になって、横になったらすぐに鼾をかいている幸せな人もいる。だいたい、こういう人はお酒呑みに多い。酔っているから、というわけでもなく、性格がお目出度い、いや豪放磊落なのだろう。対して、私のように小心翼々、ナイーブな人間は概して寝付きが悪い。
 
 眠れないときの対策として「羊の数を数える」手法は昔から言われている。私も試したことがあるが、「千匹も数えたのに未だ眠れない」などと、焦って却って眠れないような気がする。

 いま、私が採っている睡眠誘導策は「無念無想」である。要するに「何も考えない」こと。「それが出来れば苦労はない」という声が聞こえてくるようだが、あんがい簡単で効果的だ。
「眠れない」つまり「寝付けない」ことの原因は、雑念が浮かんで来ること、そしてその雑念の相手になることである。相手になるということは、その雑念について思考を巡らすことである。つまり脳を休めることをせず、脳を働かすのだから、寝付けなくて当然である。
「眠れない」のではなく「眠らない」のである。屁理屈のようだがそうではない。眠れないメカニズムを正しく認識することは、睡眠のための前提条件である。「いま考えても仕方のないこと」は考えない。眠ろうと思わず、頭を空っぽにすればいいのだ。
 
 自分の呼吸に合わせて「無念」そして「無想」と念じる。これをただ繰り返す。雑念が浮かんだらすぐさま「排水溝」に流すか、「バリアー」ではね返す。決して眠ろうと思わないこと。眠れたかどうかを確かめてもいけない。眠ければ眠れる。

 最初はうまく行かなくて当たり前。雑念を相手にして三十分、一時間経ったら、「これだけ考えたのだから今晩はもう充分」と割り切って、雑念を振り払うのも有効だ。

                                                                         柳歩

 

すずか路より
もらったのは老眼鏡の処方箋 橋倉久美子
ゴミ出しへまた確かめている曜日 山本喜禄
呆けぬうち昔話をしておこう 山本 宏
青汁で体がシャンと生きかえる くのめぐみ
ワンテンポ遅れ踊っているジルバ 鍋島香雪
訪れる春へ障子を張り替える 山本鈴花
けつまずく段差たったの一センチ 沢越建志
名月へやはりお酒が呼んでいる 高柳閑雲
重ければ食べるに限るリュックの荷 鈴木章照
先生も専門外は並みの人 加藤峰子
七五三松竹梅がある祝詞 萩原典呼
創作は僕が見つけた宝物 青砥英規
食卓を山盛りにする妻の自負 寺前みつる
おだやかな老後を過ごす田舎道 秋野信子
ドッコイショむさいオジンになりました 水谷一舟
また今日も後れを取って席がない 加藤けいこ
未熟児で生まれた孫が今日笑う 小川のんの
飽きたからたまに仕事もしてみたい 西垣こゆき
それぞれの基準が違う美人像 松岡ふみお
CMを入れる時間をこじあける 坂倉広美
マッサージチェアに預けているこの身 北田のりこ
手紙からメール寂しく立つポスト 落合文彦
背筋しゃんと伸ばしなさいと叩かれる 鈴木裕子
独り言増えて夫に笑われる 浅井美津子
インフルの噂で消えた町行事 加藤吉一
敬老は孫の絵ですむプレゼント 長谷川健一
紅葉に誘われて行く山登り 竹内由起子
好きだったはっきり言えるクラス会 水野 二
公園を散策椎の実を拾う 瓜生晴男
あともどりしたくてももう出来ません 安田聡子
仕方ないことは考えない枕 吉崎柳歩
考えるふりして眠るのが特技 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  189号から                                       伊藤忠昭

鳴るような気配受話器を置き直す   水野  二
 恋人からの電話でしょうか。それとも? いずれにしても楽しい会話を弾ませたいのにじれったいったらありゃしない。

捨てられず痩せる日待っている背広  加藤 吉一
 
神さまから頂いたこの身体だが、体調管理の失策から太りすぎたり、やせたりする。
 太った時には特に困る。ベルトをゆるめた位では済まぬ。かくして自分の背広ながらきゅうくつこの上なく出掛けることになる。

握手では確と手応えつかめない    安田 聡子
 
候補者はワラをつかむ思いで、選挙期間中、連呼と握手を繰り返しながら、顔を売る。主義主張も述べず、有権者にとっては迷惑至極。票読みにはとてもならぬと早く悟るべきである。

ガム噛み噛み仕事ができるプロ野球  山本 宏
 何様のつもりか、打席に立ってクチャクチャやっている図は、子供の教育にはよくない。どなたですか「唾吐くよりはましだ」とは、どちらも同罪ですよ。

間伐材になりたくはない苗木      北田のりこ
 
せっかくこの世に生を受け、大樹になってそびえようと思っているのに、人間の都合で間引かれる。ああ、悲しきかな。少し意味が違うが、最近問題になっている「派遣切り」にも思いを馳せて考えさせられる一句。

拷問だろう冷房が効きすぎる      橋倉久美子
 冷え性のお方にとっては頷ける一句。ガンガンガンに冷房を効かせていると、どんな大事な会議も早々とおいとましたくなる。

メールより書くことが好き辞書が好き  浅井美津子
 
ピッポッパが飛び交う時勢になっても、親しい人へは、心のこもった手書きの便りに勝るものはない。若者の漢字離れを防ぐためにも。文部省が音頭を取って、ハガキ、封書の啓発運動をして欲しいくらいである。

                                   (三重番傘川柳会会長・津市在住)

10月24日(土)例会より
宿題「 だらだら 」 吉崎柳歩 選と評
  だらだらと今日もおんなじ処方箋 坂倉広美
  恙なくだらだら続くすねかじり 加藤吉一
 秀 心臓の手術だらだらしておれぬ 青砥たかこ
着くまではだらだらしてていい電車 吉崎柳歩
宿題「 現場 」 水野 二 選
  カップルが言い争っている現場 吉崎柳歩
  秋祭り出店現場で食べくらべ 杉浦みや子
 秀 社会見学働く父を見た現場 水谷一舟
事故現場記憶を辿る足を止め 水野 二
宿題「 現場 」 青砥たかこ 選
  現場より机上の声が前に出る 長谷川健一
  鑑識がしらみつぶしにする現場 吉崎柳歩
 秀 現場検証女の方が肝据わる 古田美咲
口づけの現場を見たらあきらめる 青砥たかこ
席題「 増える・増やす」 清記互選 高点句
 7点 隠し事あると口数増える癖 青砥たかこ
 6点 首を振るたびに仕事が増えてくる 青砥たかこ
 5点 軽いほうにすると賛成者が増える 坂倉広美
  増築を重ねて迷路旅の宿 北田のりこ
 4点 ペットボトルの空も小皺もすぐ増える 吉崎柳歩
  増やしても責任のない宇宙ゴミ 加藤吉一
特別室

口語文芸( 3)                                     清水信 

 山本健吉賞に「川柳の部」が無いのはけしからんと思っている。

 少し古い話題だが『俳句界』5月号には、別冊付録として「第九回山本健吉賞」が付いていた。

俳句=伊藤通明『荒神』
短歌=島田修三『東洋の秋』
詩=高見弘也『子葉声韻』
評論=中村雅樹『俳人・宇佐美魚目』

 以上が受賞者であるが、島田、中村が地元の人なので、ま、いいか。

 歴代受賞一覧を見ると、第5回で角川春樹『海鼠の日』と、第7回で角川春樹の『角川家の戦後』(共に俳句部門)とダブル受賞なのは、角川財団が胴元なのだから、少し不見識か。俳句部門の選者は金子兜太。

 因みに山本健吉は明治40年長崎生まれ。父は明治の文士・石橋忍月。慶応大学卒、改造社、日産書房に勤務しながらの文学活動。昭和4年結婚した妻・秀野を昭和22年に喪う。24年静江と結婚、以後、国学院大学、明治大学、ハワイ大学で教鞭をとる。

『芭蕉』『古典と現代文学』『日本のことば』『文芸時評』『柿本人麻呂』『現代の秀句』等の著がある。読売文学賞を三回(昭和27年、昭和34年、昭和51年)も貰っている。昭和63年死去(81歳)。

 「文学の森」では、俳句ボクシングをやったり、全国方言俳句を募集したり、自由律俳句の「第二回井泉水賞」の募集をしたりしている。しかも、この号は「結社」特集号で「結社は今後どこへ行くのか」を考究している。全体として悪かろうはずがないのだが、やはり川柳ぬきでは、口語文芸は語れぬのではないかという疑問と怒りが残る。

 俳句と短歌の入賞作をいくつか拾う。

 ・鷹の座は断崖にあり天の川
 ・いつの世も戦がありて手毬唄
 ・白桃の白といふよりうすみどり                        (伊藤通明)

   ・あのころといへば眩しくかぎろひのはだか少女は青蚊帳のなか
・恨みひとつ思ひ出したる夜の妻の真実おそろし火を焚きながら           (島田修三)

 他に同誌中、口語への傾斜の深い句をアトランダムに写してみる。

 ・焼葱のりるりる抜ける芯も春                         山地春眠子
 ・青梅の下に大人のいとこ達                           中居由美
 ・初日背に耳の大きい仏たち                           栄田しのぶ

                                                                 (文芸評論家)

誌上互選より 高点句
前号開票『 破る・破れる 』
 1 1 破れないていどに夢を膨らます 岩田眞知子
  8 だんらんを破るあなたのクドイ酒 山本鈴花
   破られたルールも道になってゆく 加藤吉一
   内緒事入れた袋はすぐ破れ 北田のりこ
    不況下に夢が破れるマイホーム 浅井美津子
  7 校則を破った話盛りあがる 鈴木裕子
   神棚から降ろして破る外れくじ 浅井美津子