吉崎柳歩選(入選35句)
我が家への道を忘れる時が来る ちゃくし
妹と実家に帰る日を合わす 青砥たかこ
ふるさとの家が足音待っている 呑気呆亭
ふるさとの更地の空に浮かぶ家 田村ひろ子
またひとつ空き家になった風の音 辻内次根
* 何してる家か気になる門構え 片山かずお
五十年仮設みたいな家に住み かきくけ子
古民家に悠々と棲む古時計 北原おさむ
家系図の澱みに住んでいる私 加藤ゆみ子
* 身の丈を十坪の家は知っている 山田みのり
表札の亡父亡夫が守る家 安藤なみ
* 家じゅうを敵に回している紫煙 みぢんこ
* ワンルーム話し相手はキティちゃん 岩堀洋子
老いぼれた身体に馴染む古い家 新家完司
* 思い出が多くて家が片付かぬ 端流
布団さえあればどこでも家になる 名賀 久
* 留守にした家が気になる消防車 小林祥司
* 猫だって家に帰れぬ訳がある 竹林
鈍行に乗らなきゃ家に帰れない 尾崎なお
保育所の代わりに使われる実家 由美
カンツォーネ入浴中に響く家 高田桂子
キッチンと書斎で揉めた設計図 伊田網人
風媒の花にまみれていく空き家 呑気呆亭
頑丈な家おおかみも怖くない 柴田比呂志
家あって家へ帰さぬ放射能 氷川の杜
* 悪友は用もないのに家に来る 松本諭二
付け睫毛みたいな軒の家である 山田緑青
* ビー玉の転がる家にあるローン 阪本こみち
春の散歩で喪の家も通り過ぎ 東川和子
* 遺産分けまとまらなくて売れぬ家 川喜多正道
* ダイレクトメールが溜まるだけの家 青砥和子
狭いほど便利な家になる老後 加藤峰子
* 何くわぬ顔で帰ってきた家出 北田のりこ
成金の家に値札が付いている 鼓吟
マイホームだけがこの世の戦利品 よしひさ
人生は闘いである。刻苦奮励努力したわりに成果はあまりにも乏しい。ささやかなマイホームだけが庶民の「戦利品」である。
* 磯野家も無事ではすまぬ震度7 吉崎柳歩