目次25年11月号
巻頭言 「 マンネリからの脱皮 」
すずか路
・小休止
・柳論自論
・没句転生
川柳・人と句「 中山恵子さん」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・ポストイン
・あしあと・その他
・大会案内
・編集後記
・インターネット句会

たかこ
柳歩整理

柳歩
柳歩
たかこ


清水 信さん
久美子
新家完司さん

たかこ



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巻頭言

「マンネリからの脱皮」
 

「最近、青砥さんの句は緩慢になってきたように思います」

 清水先生率いる「土曜会」合評の場での、川柳とは無関係のある男性Iさんの言葉。Iさんは、以前の私の句が良かったといってくださる。

「緩慢」と言われて、思い当たる節はある。一つは、じっくり句を作る時間が特になくなってきていること。また、新しい誌友が増えて、わかりやすい句を詠むことに、無理に心がけるようになったこと。そして極めつけは、自分の中の「マンネリ」に苦しんでいること。三つは、矛盾しているようで共通してもいる。

 ある吟社の主幹が代わって、巻頭言の内容がコロリと変わった柳誌がある。長く同じことをやっているとどうしても、同じ路線を走る列車と同じで、景色が同じ、乗る顔ぶれも同じとなって退屈は否めない。

 だったらどうすればいいか…、ずっと一緒に編集をしている柳歩さんが最近、
「ポストイン、大変だから辞めたら?」と本当に大変と思ってくれながらも、暗に「マンネリ」を匂わせることを言った。
「ポストイン」は鈴木如仙さんの「やしの実」を真似て始めたが、「どうせなら長く続けてください」と激励されたことを忘れていない。
だが、読んでもらうために作っている柳誌、どうせまた同じような事が載っているのだろうと思われてはつまらない。

あれこれ考えながら一ヶ月はあっという間に経ち、また同じことの繰り返し…。
先の「土曜会」のIさんのように直接言ってくださる人がいる間になんとかしたい。

 急に自分を、あるいはやっていることを変えることは難しいが、やみくもに「継続は力なり」と唱えて同じことをやって行く必要は無いと思えてきた。

 今年の流行語大賞の候補になっている言葉を借りて、「だったらいつやるの」「今でしょう!」

                                         たかこ

 

すずか路より
老眼鏡かけてキャラ弁作り終え 小川のんの
眠ってもタイミングよく拍手する 石谷ゆめこ
忙しい昼寝もしなきゃならないし 岩谷佳菜子
葉が茂るわりに小さなさつま芋 西垣こゆき
オレオレは進化を遂げてなお続く 松岡ふみお
趣味の話しかできない後期高齢者 坂倉広美
ビールもないのに枝豆が多すぎる 橋倉久美子
となりの柿日ごとにおいしそうな色 北田のりこ
リニアに乗る夢追加する日記帳 河合恵美子
捕まえて欲しい車は捕まらぬ 落合文彦
ケータイの時計狂ったことがない 鈴木裕子
耳も目も塞ぎテレビのニュース切る 長谷川健一
生活苦思えぬほどのゴミの山 水野 二
じいちゃんがこっそり犬に遣るおやつ 竹口みか子
ゆるキャラが笑いを誘う秋祭り 瓜生晴男
根回しの前に上がっていた花火 加藤吉一
コスモスの中でひまわり勘違い 安田聡子
惜敗と言えば少しは温かい 芦田敬子
厳粛に冤罪も生む裁判所 圦山 繁
我慢せずバンバン喧嘩する夫婦 鍋島香雪
稲刈りの後の案山子は安堵顔 小出順子
年金でも誕生日ならフルコース 鈴木章照
こんなにも人がいるからつむじ風 青砥和子
円安を喜ぶ企業泣く企業 山本 宏
ほほえみの裏は般若か菩薩様 高柳閑雲
東電を断罪できぬ裁判所 川喜多正道
賽銭を投げて散歩の折り返し     石崎金矢
よく干そうもっと遠くへ行ける羽 柴田比呂志
同窓会終わって声が嗄れている 加藤峰子
右向け右あぶない政治まだ続く 佐藤彰宏
下書きをしない確かな息づかい 西野恵子
左手で書くとなんとも素直な字 青砥英規
簡単に指に止まっちゃいけません 尾アなお
孫の手とジャンボ迷路をかけ抜ける 岡ア美代子
思い出すことが多くて虫の声 神野優子
女が寄って便秘の話盛り上がる 寺田香林
断捨離を始めた母の終の章 外浦恵真子(えみこ)
初恋の君を匿う胸の内 瀬田明子
殉教の秘話語り継ぐ隠れ里 奥村吉風
雨の音私に帰る部屋がある 水谷一舟
狭いけど裏口からも逃げられる 加藤けいこ
見え透いたお世辞を言っていい祝辞 吉崎柳歩
代理への表彰宙に浮く拍手 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句21「中山恵子さん」                                                                                    たかこ


その場限りののど飴買いに出る
蓋を開けると陽気な友が居る
九月の空 プロデューサーは誰ですか
秋の絵を描いても秋が残らない
噴水の高さ絆は切れやすい

満員の客がだあれも笑わない
湯豆腐が休息します言葉なく
すがりつく石ひとつない風岬
古本をドラマチックに買ってくる

とりあえず座る 足を温める
余命表 雪の尻尾が消えている
住みなれた町の何でもない夕陽
春の音春の匂いは手紙から

月の雫 モナリザのお手をどうぞ
遠回りしろと三角波が立つ
消印を押されて秋が走り出す
シナリオの裏で響いた摩擦音

桜咲いて咲いて青空欠かせない
いろは順あいうえお順 春暦
もうとうに漂白剤は効いていた
無料パス老いのパズルが埋まらない
横文字と数字を母が追っている

10月26日(土)例会より
宿題「惜しい」 吉崎柳歩 選と評
  台風が惜しくも逸れたとは言わぬ 圦山 繁
  惜しいとは思うがマルはつけられぬ 橋倉久美子
 止 病院で見るには惜しいまるい月 長谷川健一
 軸 惜しい人でしたと実のない弔辞 吉崎柳歩
宿題「踏む」(共選) 石谷ゆめこ 選
  鑑定団予想以上に高く踏む 鈴木裕子
  踏めば踏むほどしたたかになるうどん 橋倉久美子
 止 アクセルを踏んで人生けつまずく 芦田敬子
 軸 妻と母愚痴のはざまで踏み絵踏む 石谷ゆめこ
宿題「踏む」(共選) 水野 二 選
  妻と母愚痴のはざまで踏み絵踏む 石谷ゆめこ
  踏まれても知らぬ顔して彼岸花 長谷川健一
 止 復興の期待五輪が踏みにじる 川喜多正道
 軸 地団駄を踏んでトイレの順を待ち 水野 二
席題「肥える」(互選)
7点 動物園に来てから肥えてきたらしい 橋倉久美子
6点 目の肥えた人には褒めてもらえない 吉崎柳歩
  肥えること敵視している健康誌 芦田敬子
  力士より肥えた行司は似合わない 吉崎柳歩
5点 渡り鳥なので肥えてはいられない 橋倉久美子
4点 同じもの食べているのにひとり肥え 鈴木裕子
  太ったね抱かれた彼の手に言われ 水谷一舟
  つつましい暮らし邪魔する肥えた舌 圦山 繁
 
特別室

 八百萬流                                        清水 信

 「八百萬の神」という概念は、バカバカしいが、悪くないだろうと、凡人の僕は思う。巨岩と見れば、それに祈り、巨樹を見れば、そこにしめ縄をかけ、ほこらを見れば、その洞穴に詣で、太陽を御来迎としておがむかと思えば、名月にお供えをしたりもする。日本人の信仰は、まことに不しだらで、不定見である。

 しかし、岡さんは神職だし、衣斐さんは禅宗だし、麦畑さんは法華教だし、井上さんはクリスチャンだったし、堀坂さんは真宗だろう。かくの如く友だちが、夫々信仰を深めていて、そのどなたとも親しくしているから、この世界、やっぱり八百万の神仏がいるわな、と思ってしまう。

 学生時代は学校の近くにニコライ堂があって、よく出入りしていたが、北京に行ってからは、孔子廟やラマ教の怪しげな寺院へよく行っていた。仏陀に関する本や、名僧の評伝は何十冊も持っていて、いわば思想研究や思想人の研究という眼目があった。宗教に身を捧げた人は、夫々に美しい。

 頭脳も精神も、日常さえも、千々に乱れて収拾のつかぬそれに比べて、人格的にも生活的にも、随分しっかりしているように思われる。
 そういう虚無感に襲われている俗人は多いはずで、その空白につけ入る新興宗教がいろいろ出てくるのは、充分理解できる。

 オウム事件は、その犯罪に対する裁判が、未だに続いていて、判決がついていないが、高学歴の青年や、突出した美形の女性が加わっていたことに、我々は唯驚くばかりだった。その時の疑問や驚嘆は、未だに日本人の胸の奥に、くすぶり続けているに違いないのである。

 終戦の時、僕は24歳であった。
 ガルシンのように死ぬか、中川一政のように生きるかが、問題だった。ガルシンは32歳で自殺したロシアの小説家であり、中川一政はヘタウマの長命の画家であった。そして、自分は中川の生き方を選んだ。
 中川は「ヘタも芸の内」と言って、その下手くそな画文の道を、平然と歩いてきた。

 日本人は幸いにして、ヘタウマが大好きである。名優とか名歌手とか言われる人も、名文家と誉められる人も、大概は下手糞であり、それを知りつつそこに親近感を寄せる民族である。

 詩人も川柳人も、まるで皆、下手くそであるが、それが長生きのコツでもある。信心なき者こそ、救われる。

                                                                                                                (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『 分ける 』  応募92句
 1 2  現金にすると遺産も分けやすい 山本 宏
   分別は出来ているかと来るカラス 尾アなお
 10  当たったら分けてあげたい人ばかり 鈴木裕子
   9 点   竜巻が明暗分けた通過跡 西垣こゆき
   8    割り算は苦手なんです一人っ子 圦山 繁
        遅刻者が出て分け直しさせられる 橋倉久美子
   形見分け鑑定団になっている 小出順子
      山分けにするほど松茸は採れぬ 吉崎柳歩
      肝臓の強さが友だちを分ける 坂倉広美