橋倉久美子 選(入選39句)
*父の日にやっと居場所のできた父
丹川 修
奨学金やっと返した日の笑顔 裕子
やっと寝た子から離れる忍び足 わこう
子育てを終えて気付いた子の気持ち 小田慶喜
入賞がやっと世界の厚い壁 吉崎柳歩
監督にやっと呼ばれたロスタイム 圦山 繁
*家族みな送ってからの朝ごはん 廣田千恵子
お隣の根ほり葉ほりをやっと逃げ 斉尾くにこ
*お使いのポストにやっと背が届く 渋谷重利
子が巣立ちやっと書斎の主になる 星野睦悟朗
青春の夢孵化させる定年後 星野睦悟朗
やっとこさこなしていますジイジ役 新家完司
世辞言えてやっと大人に辿り着く 芦田敬子
*背番号やっともらってデビュー戦 青砥和子
お隣の騒音やっと曲になる 端流
やっとみな巣立ったあとの隙間風 ちゃくし
咳払い三つでやっと席が空く おさ虫
やっときた料理に湯気が出ていない 青砥たかこ
祝辞済みやっと出番がきたビール 圦山小夜子
酒になりやっと本音が見えてきた 早人
匿名の場ならばやっと出す本音 雪代
まる二日考えジョークだと分かり 丸山 進
看護師がやっと血管さぐり当て 安藤なみ
平熱に戻ってやっと気づく罠 沢田正司
遅咲きの花一輪を褒めてやる まりえ
*ブナ林の一滴ついに海に出る 笹田しま
定年でやっと休みをとれました 中嶋安子
*定年で窓際族を終えました 松谷大気
マラソンのビリにも見えてきたゴール 吉崎柳歩
ようやっと負けてマー君ほっとする 上嶋幸雀
やっと髷期待が大きすぎないか 岩堀洋子
運転の免許がやっと資格欄 加藤吉一
やっと得た資格生かせぬ職探し 北田のりこ
やっとでも合格すればしめたもの 森清泰範
*悠々もやっとも同じ当選者 甲斐良一
*十までをやっと覚えた風呂の中 芦田敬子
秀3
服をきてやっと人間しています 桐壺
秀2*長かった補欠がぼくの宝物
はぐれ雲
秀1 ごめんねはやっと聞こえるほどの声
西山竹里
評 大人でも子どもでも、「ごめんね」の一言はなかなか口にしにくい。優しい眼差しの見つけがよいと思った。
軸 空梅雨の雨を喜ぶカタツムリ
橋倉久美子