目次27年1月号
巻頭言 「 平和を願う」
すずか路
・小休止
・柳論自論「前句付けと課題詠(下)」
・没句転生
川柳・人と句「 鈴木順子さん」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・エッセイ・あしあと
・大会案内
・年賀広告
・編集後記

たかこ
柳歩整理

柳歩
柳歩
たかこ


清水 信さん
久美子
鈴木順子さん


たかこ


 
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巻頭言

「平和を願う」 

 新しい幕開けである。何も変わらない日々の、それでも新年はめでたいのである。
日本中の人がだれかれなしに「おめでとう」を連発したであろう。
 この普通のことが「平和」であり「幸せ」なのだということを、改めて思う。

 年末、旅行の仲間と「カンボジア」に行った。世界遺産のアンコールワットを訪ねる旅である。割と順調な旅だったが、いくつかは心に焼き付いて離れそうにない。

 カンボジアの首都プノンペンに行くには車で五〜六時間かかるという都シェムリアップ。ここに多くの遺跡が内戦の傷跡を見せながら残っている。貧富の差が激しいことが、移動するバスの中からはっきりと分かった。田園風景の広がる集落には、今も電気はもちろん水道も引かれていない。人々は井戸の水を汲み上げ、夜は暗黒の世界の生活。雨風を凌ぐ程度の建物、自給自足の生活のため誰もが逞しく生きているように感じた。やたら痩せた牛が目についた。

 信号が町の中に三個しかないというのに、旅行中交通事故らしきものに遭わなかった。バイクは免許不要、小学生の女の子が後ろに女の子を乗せて通学に使っていた。バイクのメーカーはご多分に漏れず日本製がほとんどであった。

 州のど真ん中にある大きなトンレサップ湖を船で遊覧した。ここで目の当たりにしたことは生涯忘れ得ないだろう。水上生活者の学校があった。終業の鐘と同時に飛び出してきた子供たちが、魚の腐った匂いのする泥水より濁った水を、手で掬って飲み出したのだった。心をえぐられる思いだったが、彼らにはあの生活が全て、あれが普通なのだ。あの水で体を洗い、便を流し、魚を釣って食べる。あの生活を、少しでも改善しようと思う政治や教育をしない限りあのままなのだろう。だが、今の日本よりある意味平和なのかもしれないと、ふと思ってしまったのだった。

                                       たかこ            

 

すずか路より
痛み止め少し多めの酒を飲む 高柳閑雲
旅先をNシステムが追い回す 川喜多正道
北風に負けて近道する散歩  石崎金矢
甘柿になろうと冬の陽を浴びる 柴田比呂志
寺なのに熾烈なバトル嫁姑 加藤峰子
不可能に挑戦しない日向ぼこ 西野恵子
あらよっと持ち上げられたのは私 青砥英規
解決のヒント閃く立ち話 瀬田明子
自分史の余白に埋めてある嗚咽 外浦恵真子
ハワイアン流してサンマ焼いている 寺田香林
着地する力を溜めているところ 尾アなお
百均の祝い袋で試し書き 岡ア美代子
雪降って本を一気に読み終える 上村夢香
子のノルマ親のノルマに化けている 神野優子
飲み放題ですかと気合い入れ直す 前田須美代
安楽椅子これは長生き出来そうだ 水谷一舟
もう少し待ってくださいお正月 小川のんの
お互いに謝らないで年を越す 石谷ゆめこ
後一枚肩身が狭いカレンダー 岩谷佳菜子
愚痴ばかりでもこの世にはある未練 西垣こゆき
掃除にと孫の手伝い高くつき 松岡ふみお
御用御用と追われ師走を逃げ回る 坂倉広美
大きすぎても品のないシクラメン 橋倉久美子
喪中ハガキ以来とぎれた年賀状 北田のりこ
冬の満月心の芯を刺すように 河合恵美子
名前見て出るか出ないか考える 落合文彦
2周目の5分の1を瞬く間 毎熊伊佐男
一錠の薬も飲まず生かされる 鈴木裕子
孫がくれたケーキで今日はクリスマス 長谷川健一
缶ビール独り暮らしの良き友に 水野 二
酔い止めを半分飲んで効いている 竹口みか子
賀状出す後から訃報届けられ 瓜生晴男
この道しかないと言い切るから怖い 加藤吉一
いとこ会歳の順ではない別れ 安田聡子
私にも敬語で話す母白寿 芦田敬子
好景気跳ねているのは株価だけ 圦山 繁
その後が怖いあなたのプレゼント 鍋島香雪
大空で風と話をしてる凧 小出順子
宛先も手書きで欲しい年賀状 鈴木章照
一年の計は湯舟で考える 吉崎柳歩
うつむいていても新年やってくる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句35「鈴木順子さん」                                                                                 たかこ


血一滴零さず詰めた句集抱く
ああ秘書が欲しいと思う昨日今日
孫の笑みばかりが浮かぶおみやげ屋
阿呆になることがなかなか難しい
欲のない男ばかり居る疲れ

ポケットから金平糖はもう出ない
五人いる孫の個性が頼もしい
脱会をするにも金が要るらしい
命より大事なものはないこの世

芋焼酎が育ててくれた気性です
じっとして待つより私逢いに行く
荒波を恐れて渡れるかこの世
捨て台詞君は一人で生きられる

潤沢に使っています化粧水
聞く耳はないのか走り去る人よ
愛よりは金の臭いのラブレター
悪女だって舌巻く殿方の嫉妬

真心を込めろとペン先が走る
お金への執着心が惚けさせぬ
蜜月を過ぎて重たくなった愛
平成の汗は裏切る事もある
許しなさい笑いなさいと桃開く
 

12月23日(火・祝)例会より
宿題「売る」 吉崎柳歩 選と評
  花を売る手があかぎれで腫れている 青砥たかこ
  家を売る話を屋根が聞いている 青砥たかこ
 止 売り家は独りで死んだ人の家 西垣こゆき
 軸 円安に負けて牛丼値上げする 吉崎柳歩
宿題「筆」(共選) 日野 愿 選
  達筆で書くとよけいに目立つ誤字 吉崎柳歩
  ちびてきた筆だが夢はまだ描ける 橋倉久美子
 止 鉛筆で書いてはならぬご香奠 加藤吉一
 軸 毛筆で周恩来も角栄も 日野 愿
宿題「筆」(共選) 早泉早人 選
  鉛筆で書いてはならぬご香奠 加藤吉一
  毛筆で書いて詫び状らしくする 吉崎柳歩
 止 毛筆が天女のように和紙に舞う 小出順子
 軸 礼状は筆にせねばとこだわり派 早泉早人
宿題「自由吟」 橋倉久美子 選と評
  蚊もハエも許すカメムシだけはブー 毎熊伊佐男
  喫茶店になら人妻も来てくれる 川喜多正道
 止 どの車も真面目に走る雪の朝 加藤吉一
 軸 会いたくてたまらぬ時は目をつむる 橋倉久美子
席題「雲」(互選)
11点 雲がくれしていたはずが立候補 石谷ゆめこ
10点 千切れ雲まだいくばくかある余生 吉崎柳歩
 8点 雲行きが台所から悪くなる 小出順子
 7点 寄り添ってあげたいようなはぐれ雲 早泉隼人
  減量をしてます雲に乗るために 日野 愿
 
特別室

 仁川に思う                                       清水 信

 ヘイト・スピーチほど嫌なものは無い。武器兇器は持っていないにしても、旗やのぼりや提灯も打ちかざして、特定の外国人の民族の名をあげて「日本から出ていけ」とか「殺せ、殺せ」と唱和連呼して、衆団が公道をねり歩いていく。ごく少数の人が、歓迎の拍手を送るらしいが、良識のある大方の人々は、苦々しく思っている。欧米のメディアの忠告もあって、漸く国会で、罰則をふくまぬ警告や制限に、政府が取り組もうという動きが出ている。

 確かに北朝鮮のキムさんや、韓国のパクさんや、中国の習さんやロシアのプーチンさんは、政治家として上等の者とは思えないけれども、日本のアベさんが突出して優れているとも思えない。
 消費税率を上げるかどうかだけが争点となる、平成26年度の総選挙など、世界的規模で見れば、誠に恥かしい。立候補者の顔ぶれを見ても、投票所へ急ぐ勇気がそがれてしまう。
 マスコミのネガティブ・キャンペーンに精神を錯乱させている連中が、最とも低い位置から「愛国心」を口にするのは、醜態である。ひとり良しとする下劣な根性であろう。

 仁川で行なわれたアジア陸上のTV中継を見ると、日本がメダルをとったレスリングも水泳も、会場はガラガラで関係者だけという淋しさだった。とりわけマラソンは、沿道ひと気のない風景ばかりが映って、応援や見物にくる人の少なさには驚いた。
 日本では熱田神宮と伊勢神宮を結ぶ大学駅伝でさえ、長いコースで、人波の途絶えるところがないほど、観衆が集まる。
 中国上海で氷上スケート大会でも、羽生君の血染めの健闘はともかく、会場はガラガラで、日本人の振る日の丸の波が、一種奇妙な雰囲気を作っていて、戦慄を覚えた。

 もちろん、自分はスポーツを愛する人類のひとりだが、大勢に順応して軽挙妄動することは情けないと思っている。世界文化機構の調査、発表によると、日本の読書率は第14位だが、韓国は、フランス、ドイツ、イギリスなど読書大国をおさえて、世界第2位なのである。

 バカさわぎを避けて、読書をする人を許すという、良識の国であることが証明されている。因みに、仁川のアジア大会は淋しかったが、同じ時期に木浦で開かれた国際映画祭は、大盛会だったという。

                                                                          (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『癖』  応募88句
 1 5  物まねが教えてくれた歌手の癖 加藤吉一
   9  カラなのにとっくりを振る癖がある 鈴木章照
    7点  待つ人もないのに帰り道急ぐ 竹内そのみ
     癖のある人だけ残る三次会 西山竹里
   履歴書に書かなくていい浮気癖 前田須美代
     七癖が気になり出した倦怠期 水野リン子