目次6月号
巻頭言 「 文法と品詞」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・みんなのエッセイ・その他
・大会案内
・編集後記

 


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巻頭言


 「 文法と品詞」

 「始めに言葉ありき」とは、新約聖書「ヨハネによる福音書」第一章に書かれているものらしいが、哲学的解釈はともかく、文法や品詞分類も、言葉の後から、それも海の向こうからやってきたものである。文法が分からなくたって日本語は話せるし解る。川柳だって書ける。しかし「いやしくも文芸川柳を志向するものは日本語を大切にしよう」という意見もよく聞かされる。
 「川柳は省略の文芸」とも言われるが、どこまで省略できるものだろうか?

 先日の「井田川・亀山川柳会合同吟行句会」での合評会の課題は「それぞれ」であった。高点句の中に、

 @それぞれの事情でつけている仮面
 Aそれぞれにさぐりあいして妥協点
 Bそれぞれがひとつの思い千羽鶴

 「それぞれ」を読み込んだ句は殆どこの三つに集約される。「新明解国語辞典」では「それぞれ」は副詞とあるが、例示にもあるように、それは「それぞれ」か「それぞれに」の使い方、すなわち用言(活用する)を修飾する場合である。例句のAがそうである。それに対して@の「それぞれの」になると、必ず体言(活用しない)を修飾するので連体修飾語となる。
 
 さて、Bの「それぞれ」は格助詞「が」を付けた「名詞」であろうか? 文法的には堂々と「主語」になっている。
 しかし、よく考えると、この「それぞれ」はある事柄の省略された形、と見るほうが妥当だと思える。「それぞれの人が」の「の人」が省略され、実質的に@と同じなのである。

    イ、彼は贅沢だ   贅沢は敵だ
  ロ、彼は慎重だ   慎重は大事だ
  ハ、彼は健康だ   健康は宝だ

 「贅沢」「慎重」「健康」いずれも形容動詞の語幹である。各下段の表現は文法的には誤っている。しかし、ロ、以外は違和感を覚えない。「それぞれが」と同様、誤っていても既に慣用化されたものは川柳でも認めざるを得ない。しかし、作句上の省略が日本語の乱れに繋がることには、なって欲しくない。

                                                                 柳歩

 

すずか路より
引いてから貧乏くじと知らされる 加藤けいこ
深すぎて渡って行けぬ川がある 小川のんの
いい仕事してうきうきと帰る道 松本諭二
すっぴんで出合った父は通り過ぎ 石谷ゆめこ
年寄りの繰り言子守唄に聞く 西垣こゆき
野の花が家で悲しい花になる 松岡ふみお
新しい呪文としばらくは遊ぶ 坂倉広美
呼名聞いてから笑ってはいけません 橋倉久美子
虫干しのようにたまには着る喪服 北田のりこ
こじ開ける扉の先に託す夢 落合文彦
公園に子供のいない子供の日 鈴木裕子
最悪のケースも聞かす執刀医 加藤吉一
新聞の悲しい記事は避けて読む 長谷川健一
五人乗り後部座席の肥満体 水野 二
ドキドキを楽しんでいるかくれんぼ 竹口みか子
健康のため薬湯を口にする 瓜生晴男
青虫を退治するのもうちの人 安田聡子
バラ園を王女気分で散歩する 野村しおひ
噂にもならぬ二人のティータイム 鍋島香雪
長雨で氾濫しそう天の川 小出順子
もう少し飲むと仮面がずれてくる 鈴木章照
心にもゆとりをくれる花の世話 沢越建志
願いごと叶いましたか絵馬の人 山本 宏
マネキンの目から涙はこぼれない 高柳閑雲
雨上がりどくだみ草がいばってる 加藤峰子
蜘蛛の巣に絡まったまま生きている 青砥英規
時刻表気にしながらのアンコール 山添幸子
日時計が止まるぞ愛の誤算から 水谷一舟
大会の最中だってある地震 吉崎柳歩
ためらっていると乗れない観覧車 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


 208号から                                      小川のんの

じいさんは滅多に押さぬ乳母車       鈴木 章照
 
ほんとそうです。若いパパたちは自然にベビーカーを押していますが、年配の男性が押しているのはあまり見かけません。けれど、新米爺さんたちが、こっそり携帯を見せ合って、孫自慢をしている姿っていいですね。

波風をたててしまったお節介        沢越 建志
 
あるある。あらあ、またやってしまった。つい口を挟んで事を大きくしてしまう。それどころか、いつの間にか自分が中心人物になってたりすることも…。

ケータイで医者の順番すし屋並み      加藤けいこ
 
熱を出したまごのをママの代わりに病院へ、「ケータイで予約したから、今何番目の診察かガイダンスに従って聞いてから行ってね」だって。ケータイ触っているうちに順番が来てしまうよ。

神様がだめと言うならあきらめる      橋倉久美子
 
神様ってダメと言わないんですよね。だから余計にあきらめきれない思いがズシンと伝わってきます。

軟化した妻の態度が腑に落ちぬ       瓜生 晴男
 
お気を付けて。反発している時よりも、軟化した時のほうがずっと怖いんです。私も。

温かい部屋で見てるしかない大惨事     北田のりこ
温かい湯を身の幸に手を合わす       長谷川健一
 
震災が起こって数日は、食事をすることも温かい部屋にいることさえ申し訳なくて仕方がなかった。地震津波、原発風評被害。テレビの向こうで計り知れない事実がある。
頑張れとも頑張ろうとも言えない。あれから三ヶ月。今も祈ることしかできないでいる。

かわいいねパジャマの柄をほめられる    青砥たかこ
 
今回、たかこさんのいつもと変わらない電話の向こうの声に、うれしくて「はい」と答えてました。パジャマの柄をほめる人も、それを川柳にするたかこさんも、一つの山を越えホッとした笑顔が見えるようです。よかったなぁ。これからもよろしくお願いします。

                                            (鈴鹿川柳会会員 四日市市在住)

5月28日(土)例会より
宿題「 よどむ 」 吉崎柳歩 選と評
  停電によどむほかない冷蔵庫 加藤吉一
  よどんだ血に酸素を取り入れる散歩 北田のりこ
 秀 栄養がありそうよどんでる辺り 橋倉久美子
言いよどむたびに噴き出す脂汗 吉崎柳歩
宿題「 けじめ 」 水野 二 選
  出来ちゃった愛に挙式はちゃんとあげ 水谷一舟
  百円の印で離婚の届け出す 芦田敬子
 秀 定年後やっとネクタイ処分する 長谷川健一
遺産分けけじめをつけて墓参り 水野 二
宿題「 けじめ 」 東川和子 選
  きっぱりとやめる新築後のタバコ 青砥たかこ
  弁護士に頼むと高くつくけじめ 吉崎柳歩
 秀 けじめって何やと浮いているクラゲ 橋倉久美子
男のけじめに右往左往させられる 東川和子
互選 席題「写真」 高得点句
10点 家族写真おんなじ鼻が並んでる 東川和子
 9点 野の花もカメラ向けると背を伸ばす 橋倉久美子
 7点 若すぎる遺影は嘘のつきおさめ 北田のりこ
 6点  目をつむった人は買わない旅写真 加藤吉一
  見せられぬ写真の破棄に要る勇気 加藤吉一
  夫が撮るといつもなぜだか恐い顔 東川和子
特別室

少年の事件
短編小説集『事件帖』
                                               清水 信

 出岡絢巳の出色の短篇小説集である『事件帖』の中に「航空隊がいた頃」という作品がある。
 説話主体は「ぼく」である。昭和17年と18年という時代背景の中での、小学生「ぼく」の回想的記録と言えよう。

「今日は、学校を休め!」
 と父に命令されると、何が何でも、学校へは行けない。田植えや稲刈りやの田畠仕事を手伝う日なのである。
 ぼくらにとっては、学校はどうでも良かった。キンバというあだなの担任の先生から殴られずにすむからである。
 学校へ行く日は必らずけんかをするので、先生に立たされたり、殴られたりするのである。白子小学校5年生だった。

 母がいて、兄がいて、家は海軍航空隊の軍人さんの止宿先になっていて、三人の軍人が週一泊二日の生活をしている。戦争の批判をすると「憲兵が連れにくるぞ」と脅される。
 その中の一人が、津へ連れていってくれた。洋食を食べ、映画館に入った。帰ると、アニキが殴りかかった。手向かって喧嘩になると、いつも兄の味方をする父から尻をなぐられた。ひとりだけ良いことをしたことが、家族の恨みを買ったのだ。

 駅前に写真館があって、そこに百合子という子がいて、好きになった。写真をとってくれるというので、撮ってもらったが、これもまた家族のもめごとの種になった。
 三人が写真を撮ると、まん中の子が早く死ぬというので、偶数人でカメラの前に立ったりする。

 18年には学校を代表して、亀山の師範へ研修に行く。
 海岸に練習機が墜落するという事件や、写真館の主人が応召して、その替りに療養に来た青年が自殺未遂事件を起したり、秋の収穫祭でモチつきをしたり、軍人さんにサージの服をプレゼントされたり、いつも「勇気を持て」と訓辞する校長から誉められたりと、いろいろな出来事があって、日本が敗戦へとつき進んでいく事情が、実にテンポ良く描かれている。

『事件帖』には、他に「富蔵の骨」「隣の住人」「錠の口事件」「すれちがった女」「妖力」の5作品が収められ、タイトル通り、事件の存在感を重んじた小説は、ベテランらしい力業をふるっている短篇集と言えよう。『湯の花物語』『堀切川』と並ぶ三部作の完成を心から喜びたい。

鈴鹿市寺家7・2523 出岡絢巳

                                                                                                                  (文芸評論家)

誌上互選より 高点句
前号開票『 盗む 』
 15 立ち読みのレシピ盗めぬ記憶力 宮崎かおる
 10 盗み聞きしても分からぬ子の会話 加藤けいこ
  9   百均で万引きあまりにも寒い 青砥たかこ
   8 信用をされているので盗めない 吉崎柳歩
  詩集から盗むラブレターのエキス 吉崎柳歩
  7 神様の目を盗んでも会いに行く 橋倉久美子
  花泥棒ひと言あればあげたのに 福井悦子