目次28年5月号
巻頭言  「みや子さん」
すずか路
・小休止
・柳論自論「没句は誰のものか」
・没句転生
川柳・人と句「私の周りの柳人たち」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受・その他と
・大会案内
・編集後記

たかこ
柳歩整理

柳歩
柳歩
たかこ
たかこ

清水 信さん
久美子
西垣こゆき





 
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巻頭言

「みや子さん」

 4月24日、大阪は展望の大会から帰ると夫の文字でメモ書きがあった。
「浅井美津子さんから、杉浦みや子さんが四月四日に亡くなられたと電話あり」
 …みや子さんが亡くなられた。

夢の中光眩しく目が見える
全身を耳に合図の音を聞く

みや子さんが初めて句会にいらした日をうっすら覚えている。白い杖を手にしてもう一人女性と一緒だった。
六十歳になったある朝突然目が見えなくなられたそうだ。原因は糖尿病だとおっしゃった。顔は真っ直ぐ前に向けられ声も朗々とされていた。

帰宅してまずありがとう白い杖

 全盲になられてどれくらい月日が経っていたのだろう。誰も細かいことは聞かなかった。皆、普通にみや子さんと接した。一緒の女性はボランティアの方で、途中からご主人が付き添ってこられるようになった。
 常に主導権はみや子さん、お札でも指先でしっかり調べるとご主人に渡された。
「はいこれ千円札四枚
,年会費だから渡してね」
会場の空気がその声に膨らんだ。柳誌のテープ起こしは美津子さんがずっとしてくださった。感謝である。

年金の枠で姉妹の旅プラン

 目が見えないということがどれほど大変なことか私たちは知らない。だが、私たちは多くの事をみや子さんから学んだ気がする。みや子さんの明るさはパッとつくLED並みであった。
「一つでも入るとやる気が出ますな」指を折って作句されていた姿が浮かぶ。みや子さんの御霊はいまご子息さんのお家で静かに眠っておられるとか…。
 二十七年十二月句会が最後の参加であった。享年八十歳。

取り入れも無事に済ませた米農家
正月は家族一緒にはし動く

ご冥福をお祈りします。

                                                                     たかこ            

 

すずか路より
悪寒してくしゃみ連発春の風邪 瓜生晴男
誤報には即刻詫びるテレビ局 加藤吉一
ダイヤ表見ているだけでまとまらぬ 安田聡子
聞かれたら「幸せです」と言っておく 芦田敬子
野の花を活けて花瓶の機嫌取る 圦山 繁
しなくてもいい心配を孫にする 千野 力
残高を思うと長く生きられぬ 鍋島香雪
朝食をパンにした日は力出ぬ 小出順子
ジョギングなら徘徊だとは言われない 鈴木章照
句読点妻がやたらにつけたがる 高柳閑雲
デフレ続いて欲しい年金生活者 川喜多正道
おじさんを相手にしない店ばかり 石崎金矢
とっくりを傾け恋はまだ続く 柴田比呂志
父戦死とと姉ちゃんになりました 竹内そのみ
挫けたりしない雲雀が鳴いている 樋口りゑ
性格が出る麻雀も運転も 加藤峰子
おしゃれして来ても差がない喜寿の会 西野恵子
桜にも負けぬ娘の高島田 寺田香林
外国の旅行者ばかり古都ホテル 瀬田明子
広島に平和の鐘の音静か 西山竹里
楽ちんになりたい内緒持っている 岡ア美代子
胃カメラを呑むぞと決めている四月 日野 愿
頑張れば絶対だれか見てくれる 竹原さだむ
焼酎に浮かぶ花びら愛でて飲む 神野優子
寄り添っている幸せに鈍いなあ 上村夢香
幸せは確かに有ったくすり指 前田須美代
堤防の法に小さな春探す 佐藤近義
始発電車思ったよりも乗っている 岩谷佳菜子
善人も詐欺師も住んでいる日本 西垣こゆき
午前四時散歩促す家の犬 松岡ふみお
むかしの絵焼いてたしかに老いてゆく 坂倉広美
割り箸は似合わぬテラスでのランチ 橋倉久美子
ペットフードに飽いて喜ぶ残り物 北田のりこ
花は咲き春の家計をゆすられる 河合恵美子
出ることを期待しているサプライズ 落合文彦
お疲れと言うな疲れてなどいない 毎熊伊佐男
年金の暮らしにつらい新年度 鈴木裕子
車検終えポンコツだってひと仕事 長谷川健一
家事炊事男所帯も板につく 水野  二
電池切れせぬよう糸を緩ませる 竹口みか子
鎖場を無事に越えたら小休止 吉崎柳歩
クリップがからまり知恵の輪になった 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句50「私の周りの柳人たち」                                                                              たかこ


             新 万寿郎

子の辞書に父の知らない字が並び
なあ辞書よ少し生真面目すぎないか
歳月を忘却剤だとも思う
気休めにすぎぬ胃薬だとしても
責任の二字が広げてくれる視野
育てたい優しさだから水をやる
法よ君にも抜け道があったのか
               
(川柳すずか)

読み切れぬ風から湧いてくる不安
外面の良さよ私の二面性
原稿紙一字一字の小宇宙 
            
(せんりゅうくらぶ翔)


             浅井美津子

何よりのご馳走終始笑みがあり
初夏の風通すカーテン掛け替える
学校で習った虫はこわがらず
先頭の足は弱みを見せられず
頼られては困るが無縁佛に花
鍵かけぬ窓へ街の子寝付かれず

働いた人だと握手してわかり
前歴も歳も知らない趣味の友
ほのぼのとする歳末の投書欄
病名に触れず顔色ほめておき
ゴミを出すルールが違う隣の市

 

4月23日(土)例会より
宿題「贅沢」 橋倉久美子 選と評
  贅沢すぎる無理な食べ方さす鶏舎 加藤吉一
  薔薇に付くグルメ志向のアブラムシ 樋口りゑ
 止 贅沢なカラス セレブのゴミ解る 岩谷佳菜子
 軸 贅沢な人だパセリを食べ残す 橋倉久美子
宿題「シャツ」(共選) 樋口りゑ 選
  暑いけどもうこれ以上脱げぬシャツ 吉崎柳歩
  ジェネレーションギャップに迷うシャツの裾 北田のりこ
 止 ワイキキの夢をタンスで見るアロハ 加藤吉一
 軸 シャツの袖捲る姿にフェティシズム 樋口りゑ
宿題「シャツ」(共選) 長谷川健一
  若ぶって何にも着ないシャツの下 加藤峰子
  破れてないシャツを捨てない戦中派 西垣こゆき
 止 グーグルが隠し撮りした妻のシャツ 川喜多正道
 軸 ブランドのシャツのロゴには夢がある 長谷川健一
宿題「自由吟」 青砥たかこ 選と評
  結果良く急に若葉が目に入る 加藤峰子
  仕事前しっかり食べて眠くなる 竹口みか子
 止 億ションをメトロノームにした地震 吉崎柳歩
 軸 義捐金送って気持ち軽くする 青砥たかこ
席題「短い」互選 高点句                     
 9点 短いと知って愛しくなる命 樋口りゑ
 8点  カーテンが短い落ち着かぬ試着 北田のりこ
 6点 短足もピッチで稼ぐ徒競走 川喜多正道
  短すぎてちょっと物足りない弔辞 川喜多正道
  ノーと言う返事断固とした拒絶 吉崎柳歩
 5点 口説けない短い舌のせいにする 千野 力
特別室

 軽さについて                                      清水 信

 鈴鹿の月例文学研究会の「土曜会」は、「軽い人間」が先導している。本誌を見ると「鈴鹿川柳会」の実態も、そうらしくて、親近感を覚える。

 土曜会では藤田、松嶋が実に軽い。思考も弁舌もジェスチャーも軽やかで「老い果ての恋」を楽しんでいるようである。鈴川の吉崎・青砥ペアも、それに近い。
 年に一度か二度しか顔を出さない河原、福島を加えると、土曜会の軽さは倍加して、止めようがない。加藤、岩田、出岡らが、更に火に油をそそぐ。

 もちろん、軽さは「前衛」の主要条件であるから、むしろ歓迎すべきことではあるが、新聞、TVをふくめてマスコミのハッピー・ニュース待望論の危険性を考えると、何故かユーウツになってくる。
 軽さの内包するものが、何であるかを問い直さなければならぬ。人は一様に白痴のように楽しいはずがない。自分の存在がいくつもに見えるからこそ、文学があるのである。表面に出ない影の部分を書くことで、本当の文学は成立している。

 自分も筆を取り始めた頃から、批評家共に「軽い、軽い」と言われ続けてきたが、その見解に正対できないできたのだ。Aグループはシャボン玉のように軽いが、Bグループは小鳥の羽毛のように軽く、Cグループは麩(食べ物)のように軽いのだ。

 自分は映画評論家の飯島正先生から「おまえさんは飛魚のように軽いね」と言われた。周知のように、飛魚は、硬骨魚の一種で胸びれが極めて大きく、それで空中を飛翔する。魚のくせに、海中にいるより、空中にいる方の時間が多い変態魚である。先生にけなされても、なんとなく納得できた。

 10年も前も一番若く、今も一番若い橋倉久美子の、自分はファンである。笑ってはおれない文芸の悲劇性を、彼女は両肩に背負っていると思う。自分もまた「厭がらせの口舌」という悲劇を生きていると思う。

そこそこの大きさでいい胸の花
つまらないことに時間をかけている

 本誌268号から拾った彼女の佳句である。「そこそこの大きさ」「そこそこのつまらなさ」を知ることが大事で、何であれ、原理に似合う軽さの中に生きねばならぬ。

                                                                      (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票 『 元気 』  応募100句
 1 7  鐘一つ鳴って元気な歌終わる 西山竹里
 1 3   外遊をすると元気になる総理 神野優子
 1 1  おかげ様今日も元気に医者通い 川喜多正道
   8点  天国はみんな元気な人ばかり 坂倉広美
   点    年金よずっと元気でいてくれよ 圦山 繁
      二世帯で元気貰うが気も使う 岩谷佳菜子
    6点  CMを背負うスターは皆元気 加藤吉一
     元気者こっそり飲んでいるサプリ 西垣こゆき
     切られても元気は忘れない尻尾 加藤吉一