目次28年8月号
巻頭言  「格差大国」
すずか路
・小休止
・柳論自論「課題の適切な消化とは」
・没句転生
・人と句(柴田比呂志さん)
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・エッセイ・その他
・大会案内
・編集後記

柳歩
柳歩整理

柳歩



たかこ
清水 信さん
久美子
濱山哲也さん





 
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巻頭言

「格差大国」

  世界一の経済大国は、もちろん米国である。GNP(国民総所得)は2位の中国と3位の日本を足したものよりも多い。それではその米国民の一人一人は、世界一恵まれているだろうか?

 民主党の大統領候補であったバーニー・サンダース氏によれば、現在4700万人に近い米国人が貧困に陥り、医療保険に入っていない人は推定2800万人にのぼる。何百万もの人々が法外な額の学費ローンに苦しみ、近代史で初めて、いまの若者世代は親世代より低い水準の生活を送ることになるだろう。一方で米国では、いまや上位0.1%の人々が、下位90%の人々の合計に相当する冨を所有している。所得の増えたうちの58%は、上位1%の人々の懐に入るそうである。

 私が社労士として現役だった2003年、小泉政権のとき労働者派遣法が改悪(製造業等への適用拡大)され派遣事業者が急増した。労災保険法では「指揮命令を為すものが労災保険料を負担する」ことになっていたのに、派遣元が負担することになったのには驚いたものである。大企業(派遣受け入れ先)の要望に沿ったものだろう。
 以後、派遣やパートなどの非正規雇用は増え続き、年収200万にも満たないワーキングプアは1100万人を突破している。円安や株高で大企業や資産家が儲かれば、トリクルダウンで中小企業や労働者も豊かになるというアベノミクスの筋書きは、すでに破綻していると言うしかない。トヨタは部品メーカーへのコストダウンの要求を再開した。日本の富裕層上位40人の資産合計は安倍政権発足前に比べ、8.2兆円増え、貯蓄が全くないという世帯が3割にも達しているそうである。

 アメリカは、覇権の維持と富裕層の利益追求により国内の格差を拡大してきた。安倍政権は経団連の要請により格差を拡大し、憲法改悪をも目論む。中国は遅れてきた帝国主義により、内部矛盾を拡大している。格差大国の三カ国は、それぞれの国民をどこへ連れて行こうとしているのだろう?
 
                                             柳歩            

 
すずか路より
さようなら涙は猫にだけ見せる 樋口りゑ
もう泣いていいよと姪に手を合わす 加藤峰子
いつだって良いと当てにはされてない 西野恵子
父似だが爆睡だけは母に似る 寺田香林
ふるさとの友から不意になる電話 瀬田明子
怪しげな人に見られる自由業 西山竹里
酒ビール焼酎ワイン宿の膳 岡ア美代子
しっかりしろ傷は浅いという他人 日野 愿
年々と進化していくかき氷 竹原さだむ
わたしの足はよく転びよく歩く 澁谷さくら
川柳も俳句も盛ん城下町 神野優子
フラッシュを浴びると狂い出すのです 前田須美代
山笠が走り博多を夏にする 栗田竜鳳
エクセルに計算尺は敵わない 佐藤近義
見てるだけテレビ体操したつもり 岩谷佳菜子
くばられたとなりの席の菓子ながめ 石谷ゆめこ
朝寝したせいで足りなくなる時間 西垣こゆき
自己主張なくて宿木生きられる 松岡ふみお
生きる哀しみおすそわけする見舞客 坂倉広美
ドクダミ茶かたきのように飲んでいる 橋倉久美子
記憶力衰え嘘が通せない 北田のりこ
食べ過ぎて退化する世が見えてくる 河合恵美子
鈍感な人に刺さったままのトゲ 落合文彦
大きいね広いね中国の海は 毎熊伊佐男
掛けてるか軽いメガネで気がつかぬ 鈴木裕子
梅雨明けて朝一番の蝉時雨 長谷川健一
老人会遊山気分の寺参り 水野  二
少しずつ少しずつだと前を向く 竹口みか子
蝉時雨昼寝の邪魔をして困る 瓜生晴男
都知事選のニュース毎日聞く平和 加藤吉一
だんだんと風の便りも減るばかり 安田聡子
レジ横のチューインガムに手が伸びる 芦田敬子
争点を隠す総理の得意技 圦山 繁
一案と二案どちらも短所あり 千野 力
ご飯よりお菓子の好きなおばあちゃん 鍋島香雪
思うようなかなか月が描けません 小出順子
コーヒーを飲めぬと世間せまくなる 鈴木章照
スマホばかり頼る息子の恋模様 高柳閑雲
太極拳のおかげで伸びる歌の声 川喜多正道
紫陽花は散らずそのまま年をとり 石崎金矢
後悔はしないと言ってから涙 柴田比呂志
赤信号ちょっと止まっている命 竹内そのみ
ないよりはいい竹光も柳論も 吉崎柳歩
手ごたえは歯ごたえほどは分からない 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句52 「柴田比呂志」                                                                                  たかこ

 

百均のスリッパ履いている失意

百均のスリッパ少し翔びにくい
 

世話好きな友の便りが濡れている

大切なものにしっかりかぎ括弧

まだ夢を探して風邪を引いている

 

いい人になれば心はなやましい

字余りがいよいよ鼻に付いてくる

銀杏を持たせてくれるいいお寺

銀河よりお洒落なものにまだ逢えぬ

 

寒稽古カラダに冬を刻み込む

溺れてもいいかな美しい海に

鳥になるために何度も助走する

運命に逆らう雑魚はざこなりに

 

幸せなことに売約済みとある

また寒くなる地球儀を裏返す

どこへ行っても日常に辿り着く

火傷するたびに帰ってゆく巣箱

 

青空の向こう中待合いがある

理想です色鉛筆のやわらかさ

つまようじ使えば満腹に見える

生きてゆく一口だけの生ビール

哀愁とユーモア僕の二本立て

 

7月23日(土)例会より
宿題「過信」 吉崎柳歩 選と評
  マタニティーマークで受けたいやがらせ 川喜多正道
  正しいと思い込んでるウィキペディア 橋倉久美子
 止 二階ならいいかと窓を開けて寝る 北田のりこ
 軸 ブルータスも僕も信頼されている 吉崎柳歩
宿題 共選「刺す・刺さる」 毎熊伊佐男 選
   テロの文字胸を突き刺す暑い朝 圦山 繁
   聞かされて忘れてくれと釘を刺す 加藤吉一
 止  とどめ刺す切り札でしたあの笑顔 青砥たかこ
 軸  人だって蚊だって雌が唸り刺す 毎熊伊佐男
宿題 共選「刺す・刺さる」 岩谷佳菜子 選
  刺し違える覚悟で内部告発を 川喜多正道
  針に糸刺せて近眼いま便利 加藤峰子
 止 聞かされて忘れてくれと釘を刺す 加藤吉一
 軸 猛暑日は喉に突き刺す生ビール 岩谷佳菜子
宿題「自由吟」 橋倉久美子 選と評
  神がいなければ戦争もっと減る 川喜多正道
  逆送をしがち歴史もシルバーも 吉崎柳歩
 止 ペンギンが立っていそうなかき氷 小出順子
 軸 タコ焼きにタコがないのもご愛敬 橋倉久美子
席題「タオル」 清記互選 高点句
  9点 雑巾になる覚悟などないタオル 加藤吉一
  6点 店じまいした店名のあるタオル 橋倉久美子
  エキデンの中継ごとに待つタオル 吉崎柳歩
  5点 温泉にタオル入れても良いテレビ 竹口みか子
  ホテルでは優雅に使うバスタオル 川喜多正道
特別室

 三川連会報                                      清水 信

 一九七九年(昭和54年)3月刊。
『三川連会報』一号は、会員作品特集号として出された。理事長が松浦寿々奈、事務局長が山岸志ん児、理事他役員に矢須岡信、橋本征一路、長島正直ら15名がいて、三重県川柳作家連盟には、三重番傘から50名、川柳三重から38名、川柳四日市から39名、名張番傘ふりこ会から15名、桑名川柳会から9名が参加していた。高山閣(昭和50年)、洞津会館(昭和51年)、橋北公民館(昭和52年)、県文化会館(昭和53年)と相次ぐ合同句会の報告がある。

 会報(60ページ)の巻頭には、7人の役員のエッセイが組まれており、「日本川柳協会の課題」という文章の中で、矢須岡信はわたし(清水信)の言を取りあげて反発している。芸文協の役員会の席上で、わたしが「短詩型部門に関しては、その内容にパッションのない作品には、一顧をも与える価値はない」と言った由で、自分は全く記憶にないが、短詩型部門の出席者はイヤな気がしたであろうと思う。
『芸術三重』が川柳特集号を出すに当っての協議会の席上だったろうと思う。それを積極的に進言したのも、また自分だったと回想する。

 他にも、三重県文学新人賞の選考に、第一回から従事しており、
 第1回(昭和46年)橋本征一路
 第2回(同47年度)坂五月
 第3回(同48年度)寺前みつる
 第4回(同49年度)藤森弘子
 第5回(同50年度)ウオミタカコ
 第6回(同51年度)服部光延
 第7回(同52年度)奥野誠二
 第8回(同53年度)森本里陽
 という受賞者も輩出してきたし、関心はむしろ濃かった。「月並み」を排除する思いだけが強かったのだと思う。
 会員の作品集からは、当時つきあいのあった女性たちの作を一つずつ拾う。

・坂五月(久居)
 傀儡のこころを放す夜のペン
・木野由紀子(名張)
 花火炸裂蒼いゆかたの誘惑よ
・大嶋都嗣子(久居)
 偽善者の会話に銭の音がする
・人見邦子(津)
 背信をちょっぴり抱いて旅に出る

 また長島正直や山岸志ん児や矢須岡信とは、よく一緒にコーヒーを飲んだりしている。
・長島正直
 十年のひらき柳誌の巻頭句

 自分の50代のつき合いであった。

                                                                      (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票 『 自由 』  応募94句
 1 3  右左自由に嵌めていい軍手 芦田敬子
 1 1   刑務所を脱走してもない自由 吉崎柳歩
 1 0  自由診療僕の命も金次第 福井悦子
   点    放たれた矢にもそれほどない自由 橋倉久美子
        繋がれた鎖の長さだけ自由 日野 愿
    8点  フィクションも自由に書いていい日記 西山竹里
     ウエストの自由へ歯止め考える 青砥たかこ
     安くても景色は同じ自由席 岩谷佳菜子