目次9月大会号
巻頭言 「 信さんと『数え歌』」
すずか路
・小休止
・柳論自論
・没句転生
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・インターネット句会
・「瓶の蓋」ミニ小説など
・みんなのエッセイ・その他
・大会案内
・編集後記

 


たかこ
柳歩整理

柳歩

荒川八洲雄
たかこ


清水 信
久美子
柳歩

 
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巻頭言


 信さんと「数え歌」

 去る八月二十一日、三川連三代目理事長の矢須岡信さんが亡くなられた。また惜しい人が三重からいなくなった。

 十一年前、ちょうど三川連二十五周年を記念して、信さんが句集「数え歌」を上梓されることになった。津市のベルセ島崎で記念大会が開かれ、大盛会だったことを昨日のことのように思い出す。ちょうどその年、私は三重県文学新人賞を川柳部門で受賞した。文学新人賞の選考委員は信さんだった。新人賞をもらった者はその年の三川連の大会で選者になるのが慣わしだった。二十五周年と、信さんの句集発刊のダブル記念大会、あのように晴れがましい大会で初めて選者をさせていただいたのである。

 句集はハードカバーでとても立派なものである。巻頭に十五歳のときの凛々しい写真。巻末には、怒ってはいないが笑ってもいない近影が載っている。
「数え歌」の中には信さんの本音がぎっしり詰まっている。どの句も信さんそのもの、飾り立てたものはひとつもない。

棺に寝てからみんな気付くのだと思う
 
教会で賛美歌に送られた信さん、棺の中でたくさんの花に囲まれて、何に気付かれたのだろう。教えて欲しい。

こたえたなあライバルがハンサムで
 
信さんらしい、正直な台詞。信さんはよくご自分のコンプレックスについて語られた。だが、決して卑屈ではなかった。

好きですと言われ少うしずつ好きに
 
男気があったから、きっともてたと思う。ストレートな相手の気持ちへ、信さんの心が揺れている。

安全神話作者をここへ連れて来い
 
原発のことかと驚いた。曲がったことや腑に落ちないことには真剣に向き合われた。

今も忘れられない一幕に、新人賞の受賞式の日のこと、「なんで川柳はいつも最後になるんや。短歌・俳句・川柳という順番はだれが決めた」と回ってきたマイクに吼えておられた。    信さん、さようなら。

                                                                    たかこ            

 

すずか路より
この夏も帰ると言えず切る電話 竹口みか子
すれ違う日傘の中が気になって 瓜生晴男
日陰まで来ると休んでまた歩く 安田聡子
留守電に知らない人のメッセージ 芦田敬子
密談をスクープされていた二人 鍋島香雪
着飾ってアピールしてる毒キノコ 小出順子
ハミングを急に消された滝の雨 鈴木章照
監督の迷いチャンスがフイになる 沢越建志
よく売れていると言われて止めにする 山本 宏
声をあげ泣いてみたいと思う夜 高柳閑雲
育メンの息子親にも見せつける 加藤峰子
盆供養無事に済ませて出た疲れ 山添幸子
生きがいを奪わぬようにお手伝い 秋野信子
茶の味が変わった妻の反抗期 水谷一舟
簡単なメニューに曲がる夏レシピ 加藤けいこ
胃カメラを飲む日せまって胃が痛い 小川のんの
おじさんも夏の思い出ぐらいある 松本諭二
使いこみ遺言状を書き換える 石谷ゆめこ
宝くじ売り場の人に励まされ 岩谷佳菜子
佃煮に松茸入りと書いてある 西垣こゆき
エコと言い生ものばかり出る我が家 松岡ふみお
齢を聞く医師にはサバを読みづらい 坂倉広美
この世よりにぎやか天国の句会 橋倉久美子
クリーニング出したとたんに要る喪服 北田のりこ
風まかせ私をどこに連れて行く 落合文彦
いっときの汗を忘れるアズキバー 鈴木裕子
歩けあるけ検査数値が押す背中 加藤吉一
修行とも思い病とお付き合い 長谷川健一
年一度返信強いる年金課 水野 二
石の上三年経ても石は石 村 六草
歯形付くほどは噛まない金メダル 吉崎柳歩
やることはあるが眠たい時は寝る 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


 211号から                                     荒川 八洲雄

茶飲み友達言われるほどは枯れてない      西垣こゆき
 
昨今のご老人は枯れるどころか噂話や切った張ったが大好き。関心の広さが呆けを寄せ付けない秘訣とか。

喉元を過ぎれば消えるありがとう        松岡ふみお
 
世の中の変化のスピードが速くなり、人情の希薄化が進んでいる昨今の世相をチクリ一刺し。

残り火を躍らせにくるわらべ唄         坂倉 広美
 
わらべ唄は純真な心を思い出させ、気持ちを若返らせてくれる。まだまだ元気と張り切っている作者。

アブラムシとるのが朝いちの仕事        橋倉久美子
 
掲載の五句からバラの栽培に丹精込めている作者が彷彿する。台所よりアブラムシを優先とは理解ある家族。

アクセントしだいでニュアンスが変わる     北田のりこ
 
文章にすれば同じでも、話し言葉は心の有り様が出て全く違った響きになる。気をつけたいものである。

予定した祝辞外れて苦い酒           水野  二
 
原稿を前から用意し、前日にはリハーサルまでし、張り切って出掛けたのにご指名が無いとは残念無念。 

値切り上手妻の心臓見習おう          瓜生 晴男
 
家計を預かる奥さんの金銭感覚は永年の間に培われたもの。昨日今日の男子の及ぶところではないでしょう。

オープンにしない理由を問い詰める       鍋島 香雪
 
原発を巡る情報操作は誠に遺憾。被災地が国民がもっと大きな声を出して行きたい。 

困ったら想定外と言いましょう         鈴木 章照
 
想定外は今年の流行語大賞候補のひとつ。この言葉で日本の脇の甘さが露呈されたが、流行って欲しくない言葉。

喧嘩する直前夫婦旅終わる           加藤 峰子
 
山陰地方の旅行であれば三泊四日。仲のいい夫婦でも微妙なずれができるようだ。「喧嘩直前」が面白い。

そうれ見たことかだけでは帰れない       堤  伴久
 
それ見たことか、と素知らぬ顔でやり過ごす人が多い中、見て見ぬ振りができぬ作者の義侠心に拍手。

まだ四十やけどやっぱりもう四十        松本 諭二
 
「不惑」は自分の年齢を意識するひとつの節目。五十、六十になっても“まだ”と“やっぱり”は付いて回る。

まだ夢の残りを詰める瓶の蓋          吉崎 柳歩
 
「瓶の蓋」ご出版おめでとうございます。掲載したくても泣く泣くカットした作品が心を離れません。

もう日暮れ今日も走っていたようだ       青砥たかこ
 
多忙をエンジョイできるまで体力を回復されたことがうれしい。でも無理は禁物ですよ。

                                 (中日川柳会会長・ 名古屋市在住)

8月27日(土)例会より
宿題   「 ほとんど 」 吉崎柳歩 選と評
  本当のところほとんど知りません 青砥たかこ
  カーナビにほとんど頼り旅終わる 水野 二
 秀 ほとんどの場合秘密は漏れている 西垣こゆき
心配のしすぎ ほとんどのことは 吉崎柳歩
宿題 共選「 足す 」 鈴木裕子 選
  旅支度心配性が荷物足す 竹口みか子
  ひまわりを足して豪華にする花瓶 青砥たかこ
 秀 酢を足してやろうさっぱりせぬ男 橋倉久美子
不足分足して幹事の役終わる 鈴木裕子
宿題 共選「 足す 」 坂倉広美 選 
  推測も加えて妻は聞いている 加藤吉一
  踏み台を足して一人前にする 橋倉久美子
 秀 朱を少し足して生き方かんがえる 水谷一舟
甘い水を足したら動き出すポンプ 坂倉広美
席題 互選「 汗 」 高点句
 7点 着ぐるみの中で時給の汗をかく 吉崎柳歩
 6点 掌に男は見せぬ汗をかく 加藤吉一
 5点 捨てた娘が夢に出てきた日の寝汗 吉崎柳歩
  汗かきが頑張りやとはかぎらない 芦田敬子
  熱帯夜河童も青い汗をかく 橋倉久美子
特別室

詩と川柳と                                                                                                                           清水 信

詩集『夜の人工の木』

 中学生時代の詩32篇を収録した豊原清明の処女詩集『夜の人工の木』(霧書房刊)は、1月17日の阪神・淡路島大地震のため発行がおくれて、7月20日刊となったが、その年新設された中原中也賞の第一回受賞作品となった。その時、本人は青雲高校在学中で、まだ18歳であり、中原中也賞としては、これ以上ふさわしい詩集はなかったと言えよう。

 僕は今 ロボットを
 造っている
 名はタイタンよ
 動くんだ
 濛々と吟味して寂寥的
 深さ
 盲導犬を連れて歩くと
 その沼に足を迎えられた
 さあ女になろうか

   (「獣とタバコに死因」より)

 一部を引いたが、大体、こんな詩である。神戸市と明石市の間に、朝霧というJRの駅があり、下りると前は海で、淡路島が手にとるように見える。その町の文化センターに、詩の講座があって、そこでこの少年詩人は伊勢田史郎に学んだという。少年は孤独そうで、いつも寡黙で静かだったと「解説」で伊勢田は語る。しかし「彼の内部には熱いマグマのような思念」が煮えたぎっているようで、屈折の多い言語で次々と世の不条理と闘うような詩を書いていったと言う。

 その後の詩集刊行のことや、詩壇での活躍は知らないが、その創作力を疑うことは出来ない。賞金百万円に飾られた、その出発の華やかさに比べると、その後も刊行し続ける個人誌『白黒目』で、詩ばかりでなく、俳句や俳句や川柳や短歌に触手を伸ばしているのに、心の余裕を感じる。また小説も書き始めている。

・秋雨後の父の時計や磨き澄む
・水澄むや母の夫のしろい汗
・うつ伏せに寝て父の寡言は吾が潮

これら「父」がテーマである。更に「映画川柳」という新企画も発表。

 おくりびとみながそろってめいよび
・線路踏むこのぜつぼうは冬の石
・レモン舐め吾が片想い月の君

 もはや、この詩人も30代、期待する。

▼神戸市垂水区狩口台4・29・406  豊原清明

                                                                                                                  (文芸評論家)

誌上互選より 高点句
前号開票『 泳ぐ 』
 11 泳いでる自覚はあまりないクラゲ 橋倉久美子
    銭湯でひとりきりだとつい泳ぐ 松本諭二
   9 かなづちも宇宙遊泳なら出来る 青砥たかこ
  7 雑魚なりに泳ぐ世間の風当たり 沢越建志
  犬かきで泳いでもいい自由形 松本諭二
  6 水族館の魚は泳ぐのが仕事 橋倉久美子
  浮き輪にも頼りのんびり世を泳ぐ 福井悦子
  活き作り泳ぎの途中だった鯛 宮崎かおる
  生まれたら泳ぐしかない回遊魚 岩田眞知子