橋倉久美子選(入選39句)
春ですよ万年床の綿埃 |
佐藤ちなみ |
*引っ越しの荷物とともに来る埃 |
満月庵 |
ご無沙汰を天の埃が語る辞書 |
武井わこう |
移り気の納戸に埃被る趣味 |
星野 睦悟朗 |
歳月に埃被った引き出物 |
安井紀代子 |
土蔵の酒器明治の埃被ってる |
高田桂子 |
眼に入るととても手強くなるホコリ |
圦山 繁 |
西日さしダイヤモンドになる埃 |
まさたろう |
積もった埃叩けば聞ける裏話 |
森清泰範 |
政治家の埃をはたく週刊誌 |
白鳥 象堂 |
*仏壇の埃くしゃみが聞こえそう |
澁谷さくら |
旧交の埃まみれは酒で拭く |
佐佐木雀区 |
*埃は気にしない天日干しの魚 |
春日綾乃 |
核ボタン埃被っている平和 |
宮尾 柳泉 |
赤ちゃんが握るきれいな綿埃 |
由美 |
おさな子と鬼ごっこする綿埃 |
平子久仁子 |
*病室の造花についているホコリ |
平井美智子 |
*客人が埃払ってくれた椅子 |
あやめみのり |
店内も埃まみれの骨董屋 |
あけみちゃん |
骨董品埃も価値に含まれる |
さだえばあちゃん |
積ん読の本にたまっている埃 |
西山竹里 |
掃除機が吸っては吐いている埃 |
大澤 葵 |
高級な順に埃を被る皿 |
甲斐良一 |
*押し入れで仲間を増やす綿埃 |
よしひさ |
タンス裏ひっそり育つ綿埃 |
茶飯士 |
気付かれぬようにたまってゆく埃 |
西山竹里 |
*古い背広に肩書と言う埃 |
おさ虫 |
埃も込みで国宝の仏様 |
北田のりこ |
神棚に積もる埃も守り継ぐ |
野平光太郎 |
造花だと正体バラす葉の埃 |
圦山 繁 |
掃除した明日にはもう出る埃 |
東洋はじめ |
*じい様は埃払えば風邪をひく |
平尾定昭 |
*飛び立てぬまま折り鶴の背の埃 |
平井美智子 |
*大仏の螺髪にしがみつく埃 |
木村行吉 |
*埃よけカバーの上にある埃 |
たごまる子 |
空中の埃は吸い取れぬルンバ |
青砥たかこ |
秀3
通された部屋の埃は見ない振り |
吉崎柳歩 |
秀2
病室の隅に溜まっている埃 |
青砥たかこ |
秀1
プーチンの埃世界が吸わされる |
古都 |
評
「埃」という微小なものから、大きな「世界」を引っ張り出した手腕に脱帽。「吸わされる」
という迷惑そうな言い方もよい。食糧不足も物価高も、みんなプーチンが出した埃なのだ。
軸
*お宝をお宝らしくする埃
橋倉 久美子