目次29年6月号
巻頭言  「戻り寝」
すずか路
・小休止
・柳論自論
・人と句{井上一筒さん」
・例会
・例会風景
・宿題選評
・没句転生
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・エッセイ・その他
・大会案内
・編集後記

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巻頭言

「戻り寝」

 「二度寝」という言葉はよく聞く。朝方目覚めた後に、気持ちが良くて(物憂い時もあるが)もう一度寝てしまうことである。ここで言う「戻り寝」は私の造語で、夜中にトイレに起きて(違う場合もあろうが)再び布団に戻って寝ることを指す。この場合なかなか眠れない、結局そのまま朝まで眠れなかった、という話はよく聞く。こういう人はけっこう多いのだろう。

 26年12月の巻頭言でも、「眠れない夜のために」と題して対応策を開陳したことがあるが、歳を取ってくると、むしろこの「戻り寝」に苦労している人が多いように思われる。私もそうだが、床に着いてから朝までぐっすり眠れた夜というのは少ない。尿意には勝てず、夜中に一度は起きることになる。そして「戻り寝」にスムーズに入れない。こういう人のために、要領(心構えかも)を披露してみたい。

 「二度寝」の場合は、「まだ起きたくない」という心理が働いている。まだ現世と対峙したくないのである。ここがポイントで、余計なことは考えない、つまり煩悩をシャットアウトしているからスムーズに眠れるのである。
 車を運転しているとき猛烈な睡魔に襲われることがある。必死に前方を見つめて運転していても、煩悩に睡魔が勝っているので眠気はとれない。眠ってはならない、という深層心理がなければ、すぐに眠ってしまうだろう。
 
夜中に目が覚めて眠れないのは、煩悩までが目を覚ますからである。昼間考えていた諸問題、心配事、宿題などに「思いを致して」しまうからである。 私も安倍政治や鈴鹿の大会などが脳裏を掠めると、つい相手にしてしまう。だが、これらは寝床で考えても決して解決はできない。ろくな句もできない。

 眠るということは身体だけでなく、頭を休めるということである。心にシャッターを降ろし、「頭も休める」と固く決心すること。煩悩の相手をしない、寄せつけないために、「無念無想」を唱えて、それで頭の中を埋めてしまおう。眠ろう眠ろうと思わず、ひたすら唱える。そうすれば睡眠がまだ足りていないのと、眠ってもいい、という深層心理があるので、いつの間にか眠りに落ちているだろう。私はこの方法で毎夜、「戻り寝」に成功している。


                                        柳歩
            

 
すずか路より
スマホにも人差し指派親指派 佐藤千四
遠い日の記憶くすぐる赤ん坊 青砥英規
綺麗だった隣のツツジ掃いている 寺田香林
温暖化憂いながらも慣れてゆく 瀬田明子
オジサンが気楽に行ける散髪屋 西山竹里
遺言に強く生きよと書いてある 岡ア美代子
自慢話もっと上手にして欲しい 日野 愿
外からは見えない傷がまだ癒えぬ 澁谷さくら
バラ園の薔薇にも負けぬフラガール 神野優子
日記には少し化粧をしたわたし 上村夢香
おばさんの声には負けているカラス 佐藤近義
これ以上増やしたくない罪と酒 前田須美代
命日に姉妹で母の墓参り 岩谷佳菜子
すぐ零す涙が罪をうやむやに 西垣こゆき
仏様矢車草で御挨拶 松岡ふみお
水商売していた人と観る手相 坂倉広美
黙祷の時間を計るのも司会 橋倉久美子
アジサイのイメージ壊される新種 北田のりこ
老化です医者もアハハと笑ってる 河合恵美子
マイナスをプラスに変える塩を振る 東海あつこ
親孝行いい考えが浮かばない 中川知子
虫がつかない僕といっぱいつく庭木 毎熊伊佐男
記念日がいっぱい妻のカレンダー 寺前みつる
ときどきはスキップもする万歩計 鈴木裕子
親切が当然となるボランティア 長谷川健一
晴天続き一雨降って息をつく 竹口みか子
名優が消えて昭和が遠くなる 瓜生晴男
姉が逝きぼんやり見えて来たゴール 加藤吉一
急がない歳に不足はないけれど 安田聡子
うわべだけ新しくする畳替え 芦田敬子
欲しいのは腰膝痛まない暮らし 圦山 繁
ごみ置き場カラスが人を見張ってる 千野 力
空港で入った保険役に立ち 西川幸子
わたくしの元気のもとは塾教師 鍋島香雪
一坪の畑で野菜小競り合い 小出順子
呼出しは土俵を造るのも仕事 高柳閑雲
イースターまで商魂に狙われる 川喜多正道
かもめーる律義な友が二人いる 石崎金矢
哀しみはモグラ叩きを終えるまで 柴田比呂志
よろしくの言葉重宝しています 竹内そのみ
次々に芽吹く悩みの種である 樋口りゑ
とんがったままの正義が胃に刺さる 眞島ともえ
デビューしたからには後へ戻れない 加藤峰子
兵役に志願して就く移民の子 福村まこと
悪法がポンポン通る多数決 吉崎柳歩
何となく疎遠になってそれっきり 青砥たかこ
 

整理・柳歩

4月22日(土)例会より
宿題「くすぐる」 青砥たかこ 選と評
   ご立腹の妻くすぐればまた怒る 坂倉広美
   くすぐりの刑もおそらくある地獄 吉崎柳歩
 止  竹の子をくすぐりながら掘り上げる 芦田敬子
 軸  見えすいたお世辞が欲しい豆ご飯 青砥たかこ
宿題 共選「砂」 芦田敬子 選
   こっそりと砂に子育てさせる亀 加藤吉一
   啄木も球児も泣いて寄せる砂 加藤吉一
 止  星砂鳴き砂サービス心を発揮する 橋倉久美子
 軸  目覚しの仕事はしない砂時計 芦田敬子
宿題 共選「砂」 坂倉広美 選
   正面の美人が目立つ砂かぶり 川喜多正道
   啄木も球児も泣いて寄せる砂 加藤吉一
 止  砂浜に秘密の恋を埋めてある 加藤峰子
 軸  世界記録だ砂場を超えているジャンプ 坂倉広美
宿題「自由吟」 吉崎柳歩 選と評
   いつ来たかよくわからない更年期 橋倉久美子
   沈黙という怖ろしいふたり旅 柴田比呂志
 止  カメレオンの舌の長さを知らぬハエ 川喜多正道
 軸  和式では用の足せない日本人 吉崎柳歩
席題「 赤 」 清記互選 高点句
 8点  ちょうちんの赤はお酒に酔うた赤 橋倉久美子
   彩りに赤がほしいと言うサラダ 小川はつこ
   赤丸をつけても忘れてる予定 北田のりこ
 7点  赤い靴履いたらきっと踊り出す 竹口みか子
   口紅が濃すぎてキスはためらわれ 橋倉久美子
   赤ペンを持てば先生くさい顔 青砥たかこ
 6点  赤色の服に勇気を試される 坂倉広美
 
誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票 『曲がる・曲げる 』  応募92句
13  好きな子がいる方向へ曲がる首 鍋島香雪
11   曲がるまでまだ見送りの母がいる 西野恵子
10     曲がりくねって伝わってきた噂 橋倉久美子
 8点  使い勝手良いよう曲げてある蛇口 圦山 繁
   不自然に曲げられ不満そうな鮎 樋口りゑ
   曲がらずに海には辿り着けぬ川 吉崎柳歩