目次25年4月号
巻頭言 没句は誰のものか
すずか路
・小休止
・柳論自論
川柳・人と句「 堤 伴久さん」
・例会
・例会風景
・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・ポストイン
・あしあと・その他
・大会案内
・編集後記

 


柳歩
柳歩整理

柳歩
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柳歩

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巻頭言

没句は誰のものか

 私はこれまで十回の鈴鹿市民川柳大会と、六回の三川連川柳大会、みえ文化芸術祭川柳大会の事務方を務めてきた。事務方の仕事には事前投句や当日投句の入選句の整理はもちろん、没句の事後処理も含まれることになる。  

 事務方の特権として没句の山をチェックしたことがある。入選句に佳い句が少なく、首を傾げたくなる句を多く採っている選者の没句の束を一句ずつチェックしてみると、佳い句がたくさんあった。川柳観の違いで、あっさり没にされるものだと痛感した。  
 しかしこの行為が、〜守秘義務は心得ているとしても〜はたして主催者の特権と言えるのだろうか? 

 没句は誰のものか? 当然、作者のものである。選者はその句を没にした時点で、その句を作者に畏れながらとお返ししたことになる。主催者は、万一のため、必要最小期間、句箋を保管した後、廃却処分するべきである。
 学習に資する旨など、事前に断りのある場合を除いて、誰も没句を覗いてはならないし、記憶に留めてもならない。主催者はもちろん選者も、没句を再チェックして佳句をピックアップすれば記憶に残る。既読感が生じてしまうのである。これも後々、披講を聴いたり、選をする際に弊害となり得る。
 
 課題吟の場合、没にされて初めて、「つまらない句」だったと気付くことがある。そんな句は再チャレンジさせる気にもならないだろう。しかし、作者の「思い」や「見付け」のある自信作なら、どこかで再チャレンジさせて日の目を見させてやりたいと思うのも無理からぬところ。その権利は当然持っている。また、そのままでもリニューアルしてでも、自選の自由吟のコーナーにも出句することもできる。活字になれば本人の句として認知される。

 本来、川柳は自分の「思い」が先にあって575に表現されるべきものである。課題吟でもそうありたいと思う。そのような作品であればなおさら、作者の所有権を大事にしたいと思う

                                         柳歩            

 

すずか路より
過去形になかなかならぬ片思い 橋倉久美子
ビオラ見慣れてパンジーが大きすぎ 北田のりこ
使えるかどうかは非常時にわかる 落合文彦
好きですと言ったばかりに断れず 河合恵美子
もうあなたはいない結婚五十年 鈴木裕子
不景気は女が財布握るから 長谷川健一
登校の足音を聞く朝寝坊 水野 二
恋人にいまさら戻れない夫 竹口みか子
倖せを注いだお猪口が笑いだす 瓜生晴男
命日に会いにきたよと手を合わす 安田聡子
身の上話うその一つは許される 芦田敬子
西風に乗って招かぬ客が来る 圦山 繁
耳打ちをされてあなたに縛られる 鍋島香雪
たらればをたくさん入れた手紙書く 小出順子
内緒ごと消えると覇気も消えてゆく 鈴木章照
ご自愛を言われうとうと花畑 青砥和子
父の日が消えた我が家のカレンダー 山本 宏
誰にでも自慢話がひとつほど 高柳閑雲
ご近所の評価は高いうちの嫁 川喜多正道
欲しい物なくて買い物つまらない 加藤峰子
訃報から開花ニュースと続く春 青砥英規
ビンの蓋言ってはならぬことを言う 尾アなお
定年後男包丁持ちたがる 岡ア美代子
心だけお傍にいます桃節句 神野優子
春なのにバランス崩す孫離れ 山添幸子
語尾にごす聞かれて困るお話で 水谷一舟
迷い犬探して夜が明けてくる 小川のんの
お宝と言われ茶道具手放せず 石谷ゆめこ
年齢と折り合いつけて生きている 岩谷佳菜子
誉められることもなければがんばれぬ 松本諭二
花冷えに残り少なくなる灯油 西垣こゆき
弁当で差を付けられるツアー客 松岡ふみお
救急車以後の話がなお続く 坂倉広美
憲法違反みんなですれば怖くない 吉崎柳歩
ひらひらと春が浮かれてやって来る 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句14 「堤 伴久さん」                                                                                   たかこ


アドリブのつもりを愚痴と笑われる 
そうれ見たことかだけでは帰れない
ドルがどうなろうと冬は忍び寄る
金太郎さんも桃太郎さんも一人っ子
焦げつかぬようマンネリを裏返す

括弧して読み手のお情けにすがる
褒め方で解ってないのだと解る
再びの春を信じて散るサクラ
ボクもだよアハハで男同士なり

人間を見た日ごくごく水を飲む
解るはずもないけど手の平の霙
まず「いくら要るんやろか」と思うわな
三日後はとぼける新春のマニフェスト

何もせぬ一日があり疲れ切る
何もかも古い長生きしたおかげ
顔文字で閉じる夜長のEメール
脱帽と書いて無難に褒めてある

どうにでもなれと思った日は元気
欲しいものよりも要らない物だらけ
俺だってと思ったときはもう遅い
また一人永久の別れの来る句会
新鮮な時事は望めぬ川柳誌 

 

3月23日(土)例会より
宿題 「 乾く 」 吉崎柳歩 選と評
  乾かせば少し体重減るかしら 小川のんの
  どうせならおいしく乾きたい魚 橋倉久美子
 秀 雨の日が続くと喉も乾かない 青砥たかこ
ゴビ砂漠ほどは乾いてない私 吉崎柳歩
宿題 共選「催促」 加藤峰子 選
  催促をしたら脱輪した若葉 吉崎柳歩
  遠まわしに言う役人の袖の下 水谷一舟
 秀 布施足りぬ坊さん確と目で語る 圦山 繁
催促をする側なぜか遠慮する 加藤峰子
宿題 共選「催促」 川喜多正道 選
  催促をされて借りたの思い出す 小川のんの
  春風に催促されて桜咲く 芦田敬子
 秀 催促もせぬのに飛んでくる黄砂 橋倉久美子
せっつくと返事が来ないラブレター 川喜多正道
席題 「変わる」 清記互選
10点 妻の気が変わらぬうちに買っておく 川喜多正道
 5点  日傘から雨傘になるにわか雨 吉崎柳歩
  財布の都合ですき焼きが牛丼に 北田のりこ
   気が変わらぬうちにとはんこつかされる 橋倉久美子
 4点 声変わりした息子らが遠くなる 芦田敬子
  献立もだんだん変わる老夫婦 杉浦みや子
  花咲いた時だけ扱いが変わる 橋倉久美子
  味変わりなじみの店が遠くなる 北田のりこ
  トップの異動で職場の空気変わりだす 竹口みか子
  美容院行くたび妻が老いていく 鈴木裕子
特別室

 恐怖について                                       清水 信 

  川柳人口は、ずっと前から女性優位だが、俳句の方もその傾向が強くなっている。私が戴く句誌の中でも、花谷和子の指導する『藍』(豊中市)や加藤耕子の指導する『耕』(名古屋市)や、三宅千代の指導する『楡』(名古屋市)は、ほとんど女性が占有している団体に思われる。

 三重県伊賀上野市出身の倉阪鬼一郎が『怖い俳句』(幻冬舎新書刊)を出して、共感する所が多かった。恐怖を感じさせる句を第一とする考え方の中には、俳句の実態を信ずる経歴が活かされていよう。恐怖も勿論、感嘆詞に極めて近い存在だ。

       花谷和子
・気位の位はいらず冬の薔薇
・霜夜の杖のわれを知らざり父母は
・人名簿に増える抹消年の暮

  これらはかなり怖い作であろう。

       宮田祥子
・白寿ちかき婆が丹精菊にほふ

       福島英美
・肺に血流戻り試歩せるお花畑

 これらも一寸はこわい。『川柳緑』では、近刊は604号だが、大野裕の「画惚眸美術展回遊記」が一番面白く、また怖い。今回は38歳で死んだ古賀春江という画家のことを語っていて、鬼気迫るものがある。

「計算器が手を挙げて合図をする/気体の中に溶ける魚/世界精神の系自を縫う新しい神話がはじまる」

 と死の直前、「窓外の化粧」に書き遺すが、やはり怖い。

『翼座』6号(安城市)は、長澤奏子の追悼特集号である。

       天野素子
・かの男軽しと鷺を抱きにけり

      大久保祥子
・誰の分身ぞいちめんの落椿

       大橋和子
・病巣を凝視しており鬼やんま

 これらも何となく怖い。長澤の句の中でも、次のような作がある。

・寒菊は肝臓の色冥すぎる
・あばらから言葉の痛み霜の夜
・寒灯やいのちの限りもの書いて

 これらは、やはり怖い。

 倉阪の掲げている句は、例えば次のようなものである。お化けか。

        泉鏡花
・稲妻に道きく女はだしかな

                                                                          (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『 入れる 』  応募82句
 1 3  重箱に入れると芋もかしこまる 橋倉久美子
 1 1  紅少し入れて始まる今日の顔 岩田眞知子
 1 0  候補者は誰に入れるか迷わない 吉崎柳歩
   9  宝石を入れて宝石箱にする 青砥たかこ
   8 点             万一を入れられ重くなる鞄 橋倉久美子
   7 点   トランクに時々人も入れられる  青砥英規
   入れすぎた砂糖はすでに溶けている 吉崎柳歩