目次25年9月号
巻頭言 「 この人ありて」
すずか路
・柳論自論
川柳・人と句「 奈倉楽甫さん」
・例会
・例会風景
・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受・その他
・小休止・大会案内
・編集後記

 


たかこ
柳歩整理
柳歩
たかこ


柳歩

清水 信さん
久美子
永井玲子さん

たかこ
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巻頭言

「この人ありて」

 過日、鈴鹿市の鈴鹿市民大学「文芸学科」講座にて、矢須岡信さんのことを話させていただいた。

 この講座は毎年六回、テーマ別に十二人の講師によって開講されている。今年のテーマは「文学と風土」〜この人ありて花咲きし、である。主催は鈴鹿市文化振興事業団だが、采配は清水信先生がされている。講師のほとんどが教師経験者、私は鈴鹿市文芸賞の川柳部門の選考委員というだけで知らない間に名前が組まれている。もちろん辞退も出来るしこれまでに「宗教と文学」のときは難しすぎてやめさせていただいた。受講料をいただくため、おこがましいことではないかとずっと思っている。

 人前で話すことが大好きだった亡父、父の話術は定評があった。私はその遺伝子をこれっぽっちも受け継いでこなかったようで、今更ながら口惜しい。
 今年はお盆の真っ最中で(八月十四日)これが決まったとき、ある短詩型の大先生が、わざわざ言いに来られた。
「青砥さん、気の毒だけど八月は人集まらないと思うよ」。お盆だからかと聞くと、「いやあ、この矢須岡信さんって知らない人が多いから」だった。この一言にかなり発奮した私は、知人友人果ては夫にまで声を掛けた。もう一人の講師は大ベテランの元教師で、話もうまく、おかげでまずまずの人が来てくれた。   

それでも、お盆がネックになったのはどうしようもなかったようだが…。

 当日、矢須岡信さんをご存知の人を尋ねたら、三名だけであった。現に川柳をやっている人も何名かいたのに、坂倉広美さんと柳歩さん、久美子さんだけであった。

 講座が終わって一週間もすると、当日主催者が準備したアンケートに記入された用紙がどさっとやってくる。
「矢須岡信さんという人となりがとてもよく分かった」、というのが何通かあって、胸のつかえが取れた気がした。

                                         たかこ            

 

すずか路より
この町に馴染もうとする肩の張り 尾アなお
飲めるからどこに行っても飲まされる 岡ア美代子
迎え火に日焼けした娘が夢枕 神野優子
快眠と快食愛されています 寺田香林
原点に戻ると決めたシャボン玉 外浦恵真子(えみこ)
隅々に挨拶されるお客様 山添幸子
ハンモックの夢が楽しい夏の午後 水谷一舟
盆供養形見のギター弾いてみる 加藤けいこ
客布団しまって夏が遠くなる 小川のんの
目が覚めてあわてて降りた違う駅 石谷ゆめこ
ラブソングたまに聞き入る事がある 岩谷佳菜子
心など見せぬ気配を消している 西垣こゆき
二ヶ月を休んで死んだことにされ 松岡ふみお
暑さ呆けしてすべてを○にしてしまう 坂倉広美
布教するように配っている句集 橋倉久美子
ゴーヤさえ息絶え絶えになる猛暑 北田のりこ
盆帰省みんな賛成バーベキュー 河合恵美子
クーラーがついているから集まれる 落合文彦
今日の無事仏間に響くリンの音 鈴木裕子
墓参りもっと遊べと父と母 長谷川健一
クーラーをかけて毛布を掛けて寝る 水野 二
愛犬も入りたがらぬ家の中 竹口みか子
早朝の散歩朝日がまぶしくて 瓜生晴男
抗議受けても訂正できぬストライク 加藤吉一
ふくよかねうまいこと言う人もいる 安田聡子
先人の教えに期限切れはない 芦田敬子
日々酷暑弱音吐きそう空調機 圦山 繁
生活の折り目崩れてゆく猛暑 鍋島香雪
映画館まで行きケンカする夫婦 小出順子
あれもこれも皆なでたいネコの群れ 鈴木章照
足元に注意しましょう花野です 青砥和子
私の書いた地図ではきっと迷うだろ 山本 宏
心地よくドライブが効くいいショット 高柳閑雲
終戦の日に戦前が見え隠れ 川喜多正道
夏ばてにベートーヴェンが良く効いた     石崎金矢
愛されることもしんどいなと思う 柴田比呂志
ソプラノの音はどこから出るのだろ 加藤峰子
痩せこけた野良猫照らす街路灯 青砥英規
温泉があれば暗くはない老後 吉崎柳歩
良いことも続くと少し恐くなる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句19「奈倉楽甫さん」                                                                                   たかこ


行間を埋める想いに色は無い
ライバルの若さにまけてなぞおれぬ
コンビニが変える角地の裏表
車なら着いてるほどの長電話
何入れた箱か積んではまたおろし

終わりにはできない縁というのなら
恥ずかしい短冊どこへ行ったのか
忘れもの探しに行って傘忘れ
三時間足がしびれるバス旅行

乗り違う悲劇私の席がない
一本になると松にも付く名前
石一つ拾いカナダを持ち帰る
建て増しの三坪笑うなわが砦

天職のように私に残務処理
言えば恥言わねば嘘になる暮し
もてなしは風呂にミカンの皮が浮き
司会者の何でも知りにくたびれる

感謝状いただく方が感謝して
兄送るせめて静かな霊柩車
まあまあの仲で金婚五年過ぎ
夢でない否定したのも夢だった
結果待ちなら寝ていてもよいらしい

8月24日(土)例会より
宿題「温泉」 吉崎柳歩 選と評
  温泉でゆでられ幸せな卵 橋倉久美子
  後編へ続く温泉宿の夜 坂倉広美
 止 混浴も胸がときめかない湯治 川喜多正道
 軸 連れ合いと行ってもしかたない秘湯 吉崎柳歩
宿題「 吊る 」(共選) 芦田敬子 選
  片腕を吊ると骨折らしくなる 西垣こゆき
  窓際に吊られ溜まってゆく埃 加藤吉一
 止 軒先で玉葱らしくなっていく 橋倉久美子
 軸 吊り革に揺られ戦地に運ばれる 芦田敬子
宿題「 吊る 」(共選) 橋倉久美子 選
  スポンサーが減って自社広告を吊る 川喜多正道
  めんどうなことはしばらく吊っておく 青砥たかこ
 止 片腕を吊ると骨折らしくなる 西垣こゆき
 軸 針金のハンガーに吊り肩が凝る 橋倉久美子
席題「太鼓」(互選)
8点 新婚のうちはリズムの合う太鼓 坂倉広美
6点 逆転のチャンス太鼓が鳴りひびく 吉崎柳歩
4点 太鼓持ちもいないとこの世廻らない 青砥たかこ
  触れ太鼓に気も急かされる盆踊り 川喜多正道
 
特別室

 アラレちゃん元気                                     清水 信

 タイトルは「アラレちゃん元気」と書いた筈だが「天気」と誤植されても、構わないと思っている。
 スキャンダルも人格の一部、ミスプリントも作品の一部と考えた方が、文学論には便利である。

・書き順が覚えられない凸と凹

 これには吹き出した。テレビのアホ番組で、書き順テストをしたり、読みまちがいや誤字を書く芸人を笑いものにしているのが多いが、末世の感が深い。本当に凹や凸の書き順なんか分からんものな。

・マニュアルがないと生きられないらしい

マニュアルや書き順がないのが芸術というものだろう。

・いつまでも原色だから肩がこる

 これも製作の秘密を明かしている名句であろう。

・健康な蜘蛛がきれいな網を張る
・字を書かれたので表になる表
・歴史とは畳の下の新聞紙

 何となく、川柳は昭和の匂いがして21世紀を拒否している印象がある。

 菰野にあるアクア・イグナスに行ってみた。

・マリアージュ・ドゥ・ファリーヌ
・コンフィチュール・アッシュ

 などという21世紀的な店があって、水びたしの庭も面白かったが、宣伝のためか遠方の客を集めた大にぎわいだが、従業員の接客態度が悪くて、大正人間には面白くなかった。

 予約なしではフランス料理も食べられず、ケーキの棚をのぞいていると「並んで並んで、ちゃんと並んで」と叱られたり、靴のまま浴場へ行こうとしたら「お爺ちゃん、靴をぬいで」と怒鳴られて、つまらなかった。パンとケーキは食ってきたが、賞められない。
 21世紀はダメだなと思った。といって昭和を懐しむのもシャクだしな。

・小説は手紙一人に向けて書く
・生きのよい鯛焼きこれも芸だろう

 橋倉久美子の『だから素顔で』が期待されるのは、時空を越えた文学の魂を持っているからだ。

                                                                           (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『 暑い 』  応募82句
 20  これ以上脱ぐと違反になる暑さ 鈴木章照
   9 点   これ以上暑いと鳥が落ちてくる 青砥英規
   暑いから仮面脱がせてもらいます 前田須美代
  7 点   暑い日が続いてほしい海の家 関本かつ子
   クーラーが無かった頃を威張る父 西垣こゆき
   節電の意欲を削いでいる猛暑 川喜多正道
     暑いからうまいビールもそうめんも 福井悦子
   6    孫という熱風が吹く夏休み 北田のりこ
      朝刊が昨日の暑さ持ってくる 松長一歩
   猛暑にも顔歪ませぬ鬼瓦 青砥英規
   炎天下帽子帽子と親が追う 関本かつ子
   熱帯夜を丸洗いする大ジョッキ 濱山哲也
   信号待ち少し手前の影で待つ 小川のんの