目次26年12月号
巻頭言 「 眠れない夜のために」
すずか路
・小休止
・柳論自論「前句付けと課題詠(中)」
・没句転生
川柳・人と句「 前田須美代さん」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受・エッセイ・その他
・大会案内
・編集後記
 

柳歩
柳歩整理

柳歩
柳歩
たかこ


清水 信さん
久美子
木本朱夏さん


たかこ


 
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巻頭言

「眠れない夜のために」 

  5年前の巻頭言で「無念無想」のタイトルで書いたことがあるが、今回はその続編というか補足である。と言ってもどなたも憶えてはいらっしゃらないだろうから、要旨を再述しておく。

1、眠れない、寝付けない原因は雑念の相手になってしまうことにある。つまり脳を働かすことである。
2、脳を働かせ、休ませないのだから寝付けなくて当たり前である。
3、客観的には「眠れない」のではなく「自分の意志で眠らない」のだ。
4、自分の意志で頭を空っぽにすれば自ずから眠りに落ちる。
5、呼吸に合わせて無念無想と念ずる。これを朝まで繰り返す(つもり)。
6、雑念が浮かんだらすぐさま排水溝 に流すかバリアーを張って跳ね返す。
7、決して眠ろうと思わない。眠れたかどうか確認してもいけない。

 このうち、第六項の「排水溝に流す」とは、その雑念を「浮かんでやり過ごす」ことだが、素人?には難しいので、左記の記述と差し替える。

6、雑念が浮かんでも取り合わず、ただ「無念無想」を繰り返す。
 この「無念無想」は、呼吸に合わせて四拍子、つまり「吸う吐く吸う吐く」と唱える。別に「吸う吐く吸う吐く」そのものでも「いちにいさんしい」でもいいのだが、目的と一致させるために、私は「無念無想」と唱える。
 
 もちろんこの睡眠導入法は、特別な心配、不安、興奮要因があった場合は効果も薄くなるが、そういった時の不眠症は、原因が解消あるいは沈静化すれば治る。私のこの睡眠導入法は、眠るべきときに、異常な精神状態にはないにもかかわらず、眠ろうとしても眠れない夜のためのものである。   

 横になっていれば身体は休まるが、脳が活動していれば脳は休まらない。単純なワード「無念無想」を繰り返し他の雑念をシャットアウトすれば、たとえ眠れなくても脳は休まる。脳が休まれば眠れる。朝になれば何時の間にか眠っていたことに気づくだろう。

                                         柳歩            

 

すずか路より
大切な朝の時間を盗る寝癖 圦山 繁
半分も言えないうちにもう時間 鍋島香雪
パレットの上でわくわくする絵の具 小出順子
生命線延びた気がするコンサート 鈴木章照
メルヘンの世界に置いてきた昨日 高柳閑雲
都会より田舎の夕陽大きそう 川喜多正道
逝った友棚卸しするクラス会  石崎金矢
葉牡丹のかたちに夢を膨らます 柴田比呂志
今度こそ無キズのままで乗りつぶす 加藤峰子
言わなけりゃ良かった寒い帰り道 西野恵子
指の隙間から覗くと増す恐怖 青砥英規
足湯する耳に飛びこむ国訛り 瀬田明子
ふうっと息吐けば炎が生まれそう 尾アなお
ふところの深いあなたに感謝状 岡ア美代子
吸って吐くこの瞬間を生きている 上村夢香
逝った娘の思いで浮かぶ十三夜 神野優子
風の音優しく過ぎる三回忌 前田須美代
手の内をあかす気になる新春の酒 水谷一舟
同じものきらいだなんてだから好き 小川のんの
あせること何もなくなる歳になり 石谷ゆめこ
ローカル線あの手この手で生き残る 岩谷佳菜子
B面も少しは希望持っている 西垣こゆき
菜園の良品だけがお裾分け 松岡ふみお
十二月ヒミコは目まいおさまらず 坂倉広美
詰め放題パズルと思い詰めてみる 橋倉久美子
平凡が何より玉子焼きの色 北田のりこ
どれ程の力か国交の握手 河合恵美子
紅葉は落ち葉になって嫌われる 落合文彦
たゆみなくだらけて僕の自然体 毎熊伊佐男
朝昼晩働きもののフライパン 鈴木裕子
自己流の読経でこれも修行です 長谷川健一
認知症避ける工夫が見付からぬ 水野 二
後味の悪さが残る総選挙 竹口みか子
松茸を買うのを止めて目刺し買う 瓜生晴男
解散の議員地元の顔で来る 加藤吉一
生姜湯を毎晩飲むといいみたい 安田聡子
パソコンに次へ進めと急かされる 芦田敬子
案山子にも私にもある使命感 吉崎柳歩
訂正してお詫びの文字がうなだれる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句34「前田須美代さん」                                                                                 たかこ


絡みつく蔦も男も邪魔ですわ
午前二時お隣さんへまだ灯
脈が飛ぶあなたの前にいるだけで
ゆったりと余生三食ビール付き
ふくらんだパンもおんなじお喋りで

ああ友よ今焼香の列にいる
読書中ですタダイマルスニシテイマス
生きている証うわさも裏切りも
忙しいこの世飲み友ばかり増え

好きにしてくださいそれが答えです
夫婦してまだおんな好きおとこ好き
転がって風は優しい方へ行く
ハンカチを洗う涙の跡洗う

欲は捨てたわブランコに揺れながら
ホールインワン出すまでゴルフ止めません
バランスを崩しただけで折れた膝
可哀想左の足は不眠症

温泉に酒日本人でよかったわ
ロマンには遠く一人のカップ麺
人の名は愉快前田や
(うし)()さん
誘拐もされずに無事帰国する
もう二度と会えない人だ手を振ろう

11月22日(土)例会より
宿題「あくび」 青砥たかこ 選と評
  あくびしながら書いたのだろう年賀状 坂倉広美
  天皇陛下もきっと欠伸をなさる風呂 吉崎柳歩
 止 位牌まであくびしそうな長読経 川喜多正道
 軸 あくびして地球見ている昼の月 青砥たかこ
宿題「有名」(共選) 北田のりこ 選
  行列は出来てもあまり旨くない 青砥たかこ
  有名な蕎麦屋お茶さえ待たされる 芦田敬子
 止 有名になるのを待っている色紙 橋倉久美子
 軸 有名人の家も教えるバスガイド 北田のりこ
宿題「有名」(共選) 川喜多正道 選
  有名になるのを待っている色紙 橋倉久美子
  有名になった細胞雲隠れ 岩谷佳菜子
 止 有名でなくても目立つ相撲取り 橋倉久美子
 軸 有名になりたくはない指名犯 川喜多正道
宿題「自由吟」 吉崎柳歩 選と評
  有ってよかった無くてよかった徳俵 芦田敬子
  木枯らしが突然つれてきた選挙 北田のりこ
 止 渋柿かどうか押しても分からない 青砥たかこ
 軸 僕の名をもう忘れてる森昌子 吉崎柳歩
席題「選ぶ」(互選)
 8点 生放送ことばを選ぶ暇もない 橋倉久美子
 7点 今のうちに選ぶ好みの葬儀場 青砥たかこ
  味よりも値段で選ぶ昼ご飯 橋倉久美子
 6点 ふさわしい人がいなくて選ばれる 吉崎柳歩
 5点 選択肢持たずに決めた僕の妻 長谷川健一
 
特別室

 薫風のこと                                       清水 信

 前述の『川柳塔』一〇四三号は、橘高薫風の特集号ではないが、随分薫風のことが出てくる。とりわけ木本朱夏の「薫風曼荼羅」には、教えられることが多く、むしろ感動した。

 句集『檸檬』の中には、次のような若々しい作があるという。

 ・恋人の膝は檸檬のまるさかな
 ・花の香を嗅ぐ顔とりて接吻す
 ・千万の瞳の中の瞳かな

 かと言って、恋の唄だけではなく、政治風刺の作も多い。

 ・政治家の顔は自然と相容れず
 ・学生を矢面に立て国貧し
 ・弱肉強食鰐皮の鞄持ち

   橘高薫風、本名薫は、大正十五年七月、尼崎市生まれ。「ハナ・ハト・マメ・マス」時代の小学校国定教科書を音読するのが趣味だったという病弱の子で、やがて川田順編の『幕末愛国歌集』の音読へと変化していったという。
 肺結核で右肋骨を八本も切除している。その病床吟。

 ・入院やわが来し方の土埃
 ・胃半分肺半分の湯呑みかな
 ・病みて長し仏像のごと拭かれており

    石田波郷の俳句に大きな影響を受けつつも、川柳に専念。三十九歳の時、第一句集「有情」刊行、その清新な知的抒情性が高く評価された。

 ・紫の椅子の愁いはわが愁い
 ・都会の夜セロリは母の香に似たり
 ・牛小屋に月光美しき浪費

 次いで句集『檸檬』や『肉眼』を発刊し、四十九歳にして「橋の会」を立ち上げた。片肺飛行と自嘲して、酸素ボンベを道連れに、橋の会支部の活動のため、全国を行脚して、意外に長命を保った。

 ・昼寝覚めホトケと極楽へ墜ちる
 ・老いらくに吉祥天のぬいぐるみ
 ・われに過ぎたり絢爛と死ねる歳

   すでに達観の姿勢である。しかし川柳について言うには「作家は過去を踏襲してはならない。新しい句境を常に拓いて行く情熱と精神がなければならない」とある。
 当然のクリエイター自戒の弁である。心しなければならぬだろう。

                                                                           (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『泊まる』  応募88句
 1 2  枕投げなんかはしないフルムーン 橋倉久美子
 1 0  回覧板連泊させている隣 寺田香林
   三泊もするとしんどい子の帰省 鈴木裕子
    9点  旅気分で一泊ドック受けてみる 芦田敬子
   文豪が泊まって箔がついた部屋 吉崎柳歩
    8点  お日さまがお泊りになる地平線 柴田比呂志