目次27年10月号
巻頭言 「 伝承遊び」
すずか路
・小休止
・柳論自論「小説と川柳(下)」
・没句転生
川柳・人と句「 私の周りの柳人たち」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受・その他
・大会案内
・編集後記

柳歩
柳歩整理

柳歩
柳歩
たかこ
たかこ

清水 信さん
久美子
寺前みつるさん


たかこ


 
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巻頭言

「伝承遊び」

 過日、庭で高圧洗浄機をかけていたら、どこからか銀ヤンマが飛んで来た。それも「つがい」だったのでびっくりした。二、三年前から近所の「青少年の森」でも、銀ヤンマを見かけるようになってきた。それだけ環境が良くなってきたということだろうか?
 
 その昔、ヤンマと言えば、男の子は胸を躍らせたものだった。捕虫網かとりもちで雌を一匹捕ればしめたもの。その雌の胸の部分を糸で結わえて飛ばしてやると、雄が寄ってきて繋がるのだ。といっても私自身がたくさん捕らえたわけではない。年上の子が上手にやってみせて教えてくれたのだった。
 
 私が幼年時代を過ごしたのは戦後まもなくだったので、子供がたくさんいた。みな貧乏だったので戸外で走り回って遊んだ。年長の子に混ざって遊ぶので、様々な遊び方やルールを身をもって覚えていった。鬼ごっこはもちろん、「助け舟」という、とにかく走り回る遊びもあった。「がいせん」には「角凱旋」と「丸凱旋」があった。それぞれ攻守の二チームに分かれ、角凱旋は地面に長方形の枠を描き、敵の防御(タッチ)をかいくぐって凱旋するもの。丸凱旋は円状の内線と、それを覆う凸凹の外線を描いて、敵(守備)の妨害をかわして凱旋するゲームである。「エス」という遊びは、やはり地面にSの字(実際には数字の8)を描き、両軍それぞれの領地とし、出入り口がある。外には「島」があり、自軍の領地と島以外ではケンケン(片足)で行動しなければならない。
 
 その他、パッチン(メンコ)、釘刺しなど、裏返したり倒したりして相手の物をせしめる遊び、独楽回しも、例えば大車輪といって、空中に放り投げた独楽を紐でキャッチしそのまま回転を続ける、という大技も次兄はやっていた。私も練習したが難しかった。
 女の子とは、「かごめかごめ」はもちろん、「子とろ子とろ(捕ろう)」という唄いながらの遊びもしたっけ。
 
 テレビの普及とともに、伝承遊びも私の世代で途切れてしまったようだ。
                                        柳歩            

 

すずか路より
オーケストラ美人ばかりの弦楽器 石崎金矢
言い分はあるはず銀杏の実にも 柴田比呂志
好きな事して生きている二人です 竹内そのみ
それを今言うの氷になりますよ 樋口りゑ
美人ではないが忘れぬ顔らしい 加藤峰子
虫は翅おんなは肩を震わせて 西野恵子
カットした胃が受け付けぬ非常食 寺田香林
選挙まで怒りの虫を飼っておく 西山竹里
ミシン目を入れられ管理されている 尾アなお
スッピンを日傘で隠す散歩道 岡ア美代子
大根に日本の知恵が詰まってる 神野優子
恋醒める酒の味などわからない 上村夢香
長い長い酒になりそう外は雨 前田須美代
老母逝ってもう届かない郷の味 栗田竜鳳
いい人と言われ小銭が貯まらない 水谷一舟
花を植え庭を掃き終え腰伸ばす 石谷ゆめこ
薪能電車の音が夢壊す 岩谷佳菜子
じき死ぬと死ぬ気ないのに言っている 西垣こゆき
生きている証シャッター今朝も上げ 松岡ふみお
傷口を叩き起こしている戦後 坂倉広美
当たってないこと確かめるカモメール 橋倉久美子
これも仕事でリポーター食い下がる 北田のりこ
隠し味言われなければわからない 落合文彦
永らえて客座布団が揃わない 河合恵美子
風雨の災禍横目に安保法通す 毎熊伊佐男
残り物とそうめんで済む一人膳 鈴木裕子
雨拭い年に一度の伊勢音頭 長谷川健一
ATM後ろの客を意識する 水野  二
初体験宇宙遊泳胃の検査 竹口みか子
遠雷に出足も鈍る秋の空 瓜生晴男
核兵器は表に出さぬ抑止力 加藤吉一
ソーメンも暖かくして食べきろう 安田聡子
午後二時に必ずやって来る睡魔 芦田敬子
溢れたら邪魔になるとは知らぬ水 圦山 繁
チャルメラの屋台は何処で停まるのか 千野 力
サヨナラを言われ孤独な繭になる 小川はつこ
図書館に定位置がある本の虫 鍋島香雪
セットされ目覚まし時計落ち着かぬ 小出順子
丁寧な言葉聞いてもなお不明 鈴木章照
回転寿司バイトばかりで回らない 高柳閑雲
今はまだデモ行進が許される 川喜多正道
手刀を切って力士のいい稼ぎ 吉崎柳歩
孫のためだけの反対とは違う 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句43「私の周りの柳人たち」                                                                              たかこ


              井垣 和子

やる事はやったんだから一休み
四コマに納まりきれぬ私生活
突然に視界ひらけるときもある
馬鹿にしていたがミネラルウオーター
絆とは血縁だけと限らない
独り言ニャーと返事をくれる猫
いい事は残す古いと言われても

               竹内由起子

教え子の手紙何より宝物
新鮮が何よりうまい夏野菜
健康が余生大きく左右する
台風がハンドル切ってやってくる
目が霞み始めた頃に読書欲
捨てるものいっぱいあって捨てられず
品格は周りの人に支えられ

                山下美代子

聞こえるはずないのに彼の声がする
照れ隠し横顔だけの観覧車
リタイヤに右脳のネジを巻き忘れ
算数を爺ちゃんと解く冬炬燵
下手な嘘包む風呂敷探します
病床にひとひらの花いやされる
車椅子やっと登れた神詣で

 

9月26日(土)例会より
宿題「悔しい」 吉崎柳歩 選と評
  悔しげな顔をしておくのも礼儀 橋倉久美子
  悔しさで掌が腫れるまで拍手する 坂倉広美
 止 声の張りまた良くなったアベ総理 青砥たかこ
 軸 悔しさの程度も軽くなった古稀 吉崎柳歩
宿題「国会」(共選) 西垣こゆき 選
  デモの列国会よりもよいマナー 橋倉久美子
  立場上私情は挟めない衛視 吉崎柳歩
 止 国会に軍歌が似合う日が迫る 圦山 繁
 軸 与党一致多数で違憲推し進め 西垣こゆき
宿題「国会」(共選) 坂倉広美 選
  デモの列国会よりもよいマナー 橋倉久美子
  国会議員バッジはずせば僕のパパ 鈴木裕子
 止 はとバスで行く国会は観光地 芦田敬子
 軸 国会で椅子を探している九条 坂倉広美
宿題「自由吟」 橋倉久美子 選と評
  機械化を拒み続けている棚田 圦山 繁
  今もまだ太郎花子の記載例 圦山 繁
 止 喫茶店見るとはなしに見る他人 吉崎柳歩
 軸 気が抜けていないか白い彼岸花 橋倉久美子
席題「時間」
14点 時間が来れば蝶になるとは限らない 橋倉久美子
 9点 時間ばかり過ぎて開かない手術室 鈴木裕子
 7点 駅伝のタスキ空しい時間切れ 加藤吉一
 6点 出発の時間をくどく言うガイド 芦田敬子
 5点 立ち食いのそばを時間とすすり込む 橋倉久美子
  時間前に立たれビックリする行司 北田のりこ
特別室

 阪本きりり論(2)・川柳                                  清水 信

 近隣の秀れた女性柳人としては、青砥たかこや橋倉久美子に遅れをとったものの、ついに阪本きりりの句集『ベビー・ピンク』(27年3月23日、新葉館出版刊)が出た。待望久しかったので、その渇をいやすのに充分の収獲と見たが、選句や編集や校正などで、疲労困憊したという。レディの蹴り上げハイヒールの靴が、彼女が表紙としたイラストである。

 阪本きりりはジャンヌ・ダルクである。顔に優しい微笑もなく、胸乳も薄く、ししむらも豊かとは言えぬが、その颯爽たる美女ぶりは、他を圧している。百年戦争の最期に現われたジャンヌ・ダルクは、滅びゆく祖国の運命を背負って、戦場の先頭に立った。戦後七十年と言うけれども、地球上で戦争の止む日は一日として無かった。文学もまた、滅びの運命を辿っている。

 ここに阪本のような女性の出現を期待する声は、必然の動きであった。政府のねらう幼児化現象に、歯止めをかける必要がある。

 阪本の作品では、下五に注目せねばなるまい。(1)命令形が多い。

・劇場の一人称を排除せよ
・炎天に雲なし痴れて仰ぐべし
・言語する前のスパーク自律せよ
・朝晩の掟歯ブラシは石で持て
           (以下略)

 (2)名詞止めが多い。

・万華鏡に帰っていくのだろう雪
・既視感の続きか熟れる熱帯樹
・目も耳もめまいの中の万華鏡
・かまきりの凝視秋から冬へ月
           (以下略)

 (3)さらにカタカナ止めも多い。

・浄土曼荼羅跳ねては戻るマリ
・めり込んだ義手遠くでコンチェルト
・絶望の穴から見つめてるタンゴ
・肉体を積み上げていくバナナパフェ

 これらはすべて説得力を強化するための技法である。オルレアンの少女ジャンヌはロレーヌの片田舎ドムレミから、救国の熱情に燃え、天使ミカエルのお告げにより、戦線に赴いたのは17歳の時であった。大勝はしたが、カトリックの教義に反するということで捕えられ、火刑で生涯を終えたのは、20歳に達していなかったのだ。

 阪本は第一句集の帯に、「魔女狩りの業火をまとい立っている」という自句を書きつけている。「よ」という呼びかけ助詞や「なり」という結句を使うことも多い。すべては万卒を率いて、出陣を促すための「説得力」に懸っている。

 阪本きりりの運命と魅力を、自分はそういうところに感じている。

                                                                            (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票 『 外れ 』  応募84句
 1 5  相続の話に嫁は外される 岩田眞知子
   本人は調子外れと思わない 竹内そのみ
   9  外れくじなしとティッシュを配られる 橋倉久美子
     あきらめがついた桁外れの値札 北田のりこ
    8  扶養から外れぬ程のパート代 鈴木裕子
     天気予報外れて傘が邪魔になる 芦田敬子
   7   外れても外れても買う宝くじ 加藤峰子