目次26年6月号
巻頭言 「 スイッチ」
すずか路
・小休止
・大会案内(みえ文芸祭他)
・柳論自論「岸本水府論(上)」
川柳・人と句「 岡本 恵さん」
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号「すずか路」散歩
誌上互選
・インターネット句会
・没句転生
・ポストイン
・お便り拝受・その他
・大会案内
・編集後記
 

柳歩
柳歩整理


柳歩
たかこ


清水 信さん
久美子
木本朱夏さん


柳歩
たかこ


 
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巻頭言

「スイッチ」 

 四月二十九日の三川連の大会で「スイッチ」という題があった。残念ながら私の句は日の目を見なかったが、この「スイッチ」にはちょっと考えさせられた。

 スイッチを入れる入れない、オンかオフかは私たちの生活のあらゆる局面に関わっている。人類の生活はいまやコンピューターなしでは成り立たないが、そのコンピューターも2進数、つまり〇(ゼロ)と1の世界である。

 私たちは、誕生から死亡まで、朝の起床から夜の睡眠まで、すべての行動規範の核は「やるか、やらないか」である。スイッチで言えば、オンにするか、オフにするかである。当たり前と言えばそれまでだ。私のように生来の「怠け者」でないと気付かない「真理」なのかも知れない。
 もっと早く、遅くとも中学生の時に、この「真理」に気付いていたら、私ももうちょっとマシな人物になっていたかも知れないが、過去には戻れない。 例えば、毎日復習をし予習をする。これが出来ていれば東大にも入学できたかも知れない。障子紙を指で突き抜くくらいの勇気でスイッチをオンにする生活習慣を確立していれば、私でも秀才になれたかも知れない。

 34歳の時に思い立って社労士の独学を始めた。会社から帰って子守りをしながら、スイッチオンを心掛けた。39歳の時に健康のために禁煙とジョギングを始めた。「吸うか吸わないか」、「走るか走らないか」、毎日のその選択が成否を分ける。
 私のように怠惰な人間は理論武装しないとスイッチが入らないが、世の中には無意識に切り替えの出来る人もいる。蒲団に入ったら五分以内に熟睡できる、たかこさんやこゆきさんはこの部類の人間であろう。蒲団に入ったら「煩悩の相手になるか」「スイッチをオフにして眠るか」二者択一である。つまりは自分次第なのである。起床したらストレッチと筋トレ、ちょっとの勇気でスイッチをオンにするのだ。
                                         柳歩            

 

すずか路より
いつまでも春の中には居られない 尾アなお
スカーフを誉めたばかりに乗り過ごす 岡ア美代子
アルバムのゆうこ二十二歳のまま 神野優子
ごはんより好きだったのとダンス靴 寺田香林
矢面に立とう覚悟の赤い紅 外浦恵真子
定年の夫に仕込む家事のツボ 瀬田明子
一日の意味を重たくする加齢 奥村吉風
三度目の春が来ましたおかあさん 前田須美代
雨の音今日は弱気になって聞く 水谷一舟
あちこちで咲いているからあきてくる 小川のんの
流木が流れ着くまでどんな旅 岩谷佳菜子
三十キロ制限速度守る人 西垣こゆき
朝ドラで消えた方言呼び覚ます 松岡ふみお
くすり一錠おまえも消費税包む 坂倉広美
きれいごと言って終わっていく会議 橋倉久美子
絆創膏貼るから傷が乾かない 北田のりこ
夢だから夢で終わってよしとする 河合恵美子
鈍感になっても痒み鈍らない 落合文彦
六月もやはり忙しい予定表 鈴木裕子
幼い子だけによく効く菖蒲の湯 長谷川健一
格安の床屋さっさと済まされる 水野 二
落馬してから気圧の変化分かる腰 竹口みか子
さよならを小さな声で告げられる 岡田たけお
田植機の音に昼寝の邪魔をされ 瓜生晴男
西暦のしっくり来ない誕生日 加藤吉一
さずかりと気づいた後は楽になる 安田聡子
あなた色に染まらないよう白い服 芦田敬子
口喧嘩利口な人が引き下がる 圦山 繁
気楽にはお喋りできぬお顔だち 鍋島香雪
考える暇もないまま風に乗る 小出順子
消しゴムも呆れるほどのミミズの字 鈴木章照
咳払いの父が背負ってきた夕日 青砥和子
暴走族一人になるとおとなしい 高柳閑雲
柴又と矢切こんなに近いとは 川喜多正道
早々とお風呂上がりに扇風機  石崎金矢
躓いてからほんとうの貌になる 柴田比呂志
ばあちゃんと遊びおてんば身につける 加藤峰子
ざわざわざわ気持ち鎮めるハーブティー 佐藤彰宏
横なぐり雨も妬いてる初デート 西野恵子
ビブラートきかせ告白するカエル 青砥英規
似顔絵に向いてる顔と向かぬ顔 吉崎柳歩
楽屋裏見られたくない見てほしい 青砥たかこ
 

整理・柳歩

川柳 人と句28「岡本 恵さん」                                                                                    たかこ


還暦に贈る真っ赤なスニーカー
生きているだけで私も冒険家
病名をもらい病気になっていく
言葉より重い無言に責められる
悲しくて泣けるならまだ大丈夫

更年期お手やわらかに願います
さようなら私の子どもだった君
ためらいもなく割っている生卵
心から心配をして嫌われる

自転車は前向きにしか走らない
消されてる文字はのぞいてみたくなる
気の毒な話のまわり人だかり
白衣着た人の言葉は気にかかる

抱きしめてこわしてしまうぬいぐるみ
手のひらを見せてしまったのは一人
くださいな心の風邪に効く薬
思い出をたっぷり食べて元気です

粗筋に書けぬ部分がおもしろい
先生にやる気ばかりをほめられる
だいじょうぶ雨のち晴れははずれない
清らかに濁るわたしの水彩画
旅人と職業欄に書いておく

 

5月24日(土)例会より
宿題「痒い」 橋倉久美子 選と評
  痒いなと気づいた時に蚊はいない 小川のんの
  シャンプー台背中が痒いとも言えず 青砥たかこ
 止 痒くても掻いてはならぬ土俵上 吉崎柳歩
 軸 むずかゆくなるほど褒めてもらえない 橋倉久美子
宿題「割る」(共選) 竹口みか子 選
  友情の為に割り勘続けます 長谷川健一
  割り勘の端数ぐらいは持つ上司 吉崎柳歩
 止 一杯の酒で口割る軽い奴 芦田敬子
 軸 叩き割り実は丁寧に出す胡桃 竹口みか子
宿題「割る」(共選) 鈴木裕子 選
  割り勘の端数ぐらいは持つ上司 吉崎柳歩
  ナンバーツーが予想どおりに会を割る 加藤吉一
 止 まず割ってつぶかこしかを確かめる 橋倉久美子
 軸 アスファルト割って根性見せる花 鈴木裕子
宿題「自由吟」 吉崎柳歩 選と評
  教師にも生徒にもある好き嫌い 西垣こゆき
  粛粛と造る戦争できる国 圦山 繁
 止 看板を甘く見すぎた行き止まり 西垣こゆき
 軸 長生きをすると足らなくなるお金 吉崎柳歩
席題「傘」(互選)
 6点 透明な傘が我が家に増えてくる 西垣こゆき
  反対に持たれスイングされる傘 加藤吉一
  傘立てに見に覚えない人の傘 芦田敬子
  小さ目がうれしい二人入る傘 橋倉久美子
 5点 ボロ傘は忘れてきてもまた戻る 加藤峰子
 4点 片方の肩だけぬれて初デート 小川のんの
  雨の朝ホームに傘がなだれ込む 水野 二
  忘れ物傘が主席を譲らない 圦山 繁
  全身で傘も耐えてる暴風雨 橋倉久美子
  やせ我慢男は日傘などささぬ 吉崎柳歩
  花柄の傘をおしゃれに持つ案山子 青砥たかこ
 
特別室

 謝罪文化反対                                       清水 信

 平生はおだやかで、静かな男なのだが、寄る年波のせいか、暴言や放言が多くなって、物議をかもしている。

 同人雑誌は薄い方が(ページ数が少い方が)良いとか、下手な小説(創作)を並べただけの雑誌が面白くないのは当然だとか、表紙を破れば見分けのつかない雑誌など作るなとか、公式の場で発言しているので、今までにない非難や反響に驚いている。
「あやまるな」という叱吠も、その一つである。

 現代の日本は、謝罪文化の花盛りである。TVの画面では連日、誰かが謝っている。

 料亭のおかみ、米屋の責任者、有名ホテルの事務長、北海道鉄道の社長、教育委員会、警察、肉屋のおやじ、県庁職員等々、次々と頭を下げては謝っている。ニセモノ天下である。

 小生は小保方晴子君のファンなので、69日ぶりの4月9日午後、公の席でSTAP細胞発見に関する論文発表について、謝罪する記者会見の様子を映しているTVの画面に向かって、「バカモン、謝まるのはヤメロ」と叫んでいた。その前日も、みんなの党の渡辺党首が8億円の受領問題で謝ったばかりであった。

 東京都知事だった猪瀬君が謝って、辞意を表すれば、その猿芝居で、あの問題がケリがつくのか。徳州会と政治家の数十人にも及ぶという関係を、それで国民に忘れろというのか。
 佐村河内君のウソつき音楽人生も、皆の前で謝まったので、一件落着という形になっていて、これも変だ。
 百回実験して、百回成功しているのだから、確かにSTAPは存在するのだと、せい一杯の抵抗をする30歳の娘を、冷淡に断罪する理研3400人という巨大組織の代表の顔が、小生には醜く見えた。

 捏造、欺瞞、偽作、盗作、不正の前に故意か悪意かが問題にされていることも奇異だった。未熟とか、うっかりミスの領域ではなかろう。

 文学の問題に置きかえても良い。
 悪意を持たないで、まちがいを犯した連中よ。これからは、謝らない方が良い。謝ると、すぐ許してくれる国民性には甘えない方が良い。
 昂然として、悪意を知らずに、悪いことをしてしまったが、絶対後悔はしないから、お前ら、どうにでもしてくれ、とカメラをにらみつけるようにして、言い放つ悪人の登場を願う他ないのではなかろうか。

                                                                           (文芸評論家)

誌上互選より 高点句(一人5句投票)
前号開票『ふわふわ』  応募94句
 1 5  綿菓子になってびっくりするザラメ 橋倉久美子
  0点  ふわふわのメニューに飽きた総入れ歯 福井悦子
    8点  ふわふわと生きて存在感がない 鍋島香雪
   ふわふわの布団で夢が落ちつかぬ 山本 宏
   7点  風せんはしっかり飛んでいるつもり 小出順子
   6    ふわふわの夢叶わないパンの耳 圦山 繁
       ふわふわの布団で腰を病んでいる 河合恵美子
       ふわふわとくらげ悩みもなさそうだ 青砥たかこ